第7話

「うっわ、やっぱうめえなあ、これ」

 一つ目を何もつけずにかじったあと、直哉は嬉しそうに頬を緩めて満ち足りた笑みを浮かべる。一目で父親似と分かるほどそっくりなのに、別個体なだけでこんなにかわいく思えるのはなぜなのか。

「良かった、いっぱい食べて」

「おう」

 早速箸を伸ばした二つ目はにんにくダレにつけて一口、もう一口は温かいごはんへのせてまとめて食べる。噛み締めるように味わう満足そうな表情を確かめ、私も箸を伸ばした。

 軽い衣はさっくりと断たれ、五香粉の香りが鼻をくすぐる。染み出した熱い脂に眉をひそめつつ、口の中を占める旨味を味わう。なんとなく風味が爽やかなのは、やっぱりオレンジのせいだろう。これは採用だな。

「今日も良くできたね」

「これ、母さんの料理で一番好きだわ。マジでうめえもん」

「ありがと」

 嬉しい評価に目を細めつつ、二つ目をにんにくダレにつける。やっぱりただ生きて、こうしてごはんをおいしく食べてくれれば、それでいいような気がする。でも母親しかいない家庭で、このままでいいのだろうか。

 噛み締めた唐揚げはさっぱりとした味で安定のおいしさだったが、胸をよぎった一抹の不安までは癒せない。味噌汁で野菜を摂取する幸せそうな直哉を眺めて、少しだけ視線を伏せた。

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