第2話
私が不登校になったのは、大学一年の四月だった。
幼い頃から煩く言われ続けてきた「お父さんと同じ大学に現役合格」を果たしたはいいものの、もう全く、塵ほども、やる気が出なくなってしまったのだ。あれ程くぐりたかったはずの門をくぐっても感動はなく、少し出てみた授業も全くおもしろくなかった。何がだめかと言うなら「全てだめ」で、「なんか無理」としか言いようがなかった。
窓越しに差し込む麗らかな陽光の中、必修の真新しい教科書に並ぶ文字が不意に滲んで、もうここにはいられないと分かってしまった。
早々に授業を諦め大学を出たあと、すぐ家電量販店へ向かった。そしてずっとしてみたかったゲーム機と面白そうなソフトを買い込み、アパートの部屋へ逃げ帰った。
ゲームに没頭し続けるうち昼夜は逆転し、夕方四時頃に起きて朝六時に眠る生活になった。洗濯物を干すのはいつも午後五時過ぎで、ベランダからは私と違いちゃんと生活を営む人達のスーツ姿やランドセルが見えた。劣等感と罪悪感と言いようのない焦燥感は日々募ったが、私にはそれを解決する力さえ残されていなかった。
当時はまだ成績が親へ送られる時代ではなかったから、盆正月さえ帰省すれば両親は私を疑わなかった。自慢の一人娘がまさか一単位も取っていないなど、一瞬も思ったことはなかっただろう。だから四年間、騙し通せてしまった。
大学四年の正月、私が一単位も取得することなく四年間ずっとゲームをし続けていたと知った時、父は卒倒して母は寝込んだ。
結局大学は中退し、おそらく今の私以上の葛藤を経て腹を括った両親の提案で「ゲーム以外のしてみたいこと」を実家で探すことになった。そして運良く一年で「免許を取りたい」を見つけたあとから、私の人生は少しずつ回復していった。
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