うちの息子を部屋から誘い出すレシピ

魚崎 依知子

第1話

――やっぱり、なんか、無理。

 学校帰りの直哉なおやがダイニングテーブルで顔をさすり上げたのは、高校へ入学して約一ヶ月、ゴールデンウィーク明けの月曜日だった。

 恐れていなかったわけではないが、どこかで「もう大丈夫」だと思っていた。きちんと受験できたのだから、合格できたのだから、入学できたのだから。それがなんの保証にもならないことは私自身が一番よく分かっていたはずなのに、違う遺伝子が入ったからと目を逸らし続けていた。直哉は、私の醸し出すそんな不安に気づいていたのかもしれない。

 多分、約一ヶ月ぶり人生二回目四年目の不登校に突入した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る