第5話 男として

 ホワイトベースに乗ってしばらくすると私も段々戦争には慣れてきましたし、モビルスーツの操縦も体が慣れてきてそこまで負担では無くなってきました。私は今まで一度もガンダムには乗った事がないのですが、ガンダムとコアブースターに乗った事がああるセイラさんならわかるでしょう。ガンダムは加速性が高い上に、当時のコクピットは今ほどパイロットの負担をかけない工夫はしていませんでしたら、きっとアムロの精神状態は肉体上の負担も影響したのではないかと思います。しかし一方で、それを乗り越える事でアムロはニュータイプとして覚醒していったのでしょう。私が操縦していたガンキャノンは過剰性能がなく素人でも扱いやすかったので、私は段々、操縦にも戦闘にも自信をつけてきました。

 ランバ・ラルが私達の前に現れたのはそんな時でした。初めはただの青いザクかと思って油断して近づいたら、その動きの機敏さはパイロットの接近戦技術と相まってあの時のホワイトベースクルーにはかつてない脅威でした。

 私は先程、格闘技や武道の類を今まで一度も自分から率先して訓練した事は無いと申し上げましたが、私が幼少の時は、当時の日本人全員がそうであったように軍国少年でしたから、学校でも軍事調練の時間はありましたし、子供の時は近くの道場で剣道や柔道をほんの少し学んだ事がありました。子供ですから、素直に一生懸命取り組むので、子供時代にはそれなりに楽しかった事を覚えています。

 そしてその古い記憶がランバ・ラルとの戦闘で少しずつ蘇ってきたのです。しかも事もあろうに私は、ガンキャノンという、当時のMS工学では桁違いの耐久性をもつ機体に乗っていたものですから、何を勘違いしたか、私はランバ・ラル相手に男として戦いを挑もうという気になったのです。その時の自分の精神状態を考えると、子供の時の素直な感覚を思い出してた気がします。つまり、私はランバ・ラルのまるで日本のサムライの様な戦い方に、懐かしさを覚え、私がまだ小国民であった時代の様に、大人相手に何も考えず向かっていくあの体験をいつの間にか再現していたのです。

 そうしている間に私は自分も男であり、戦う運命に生まれてきたのであると思うようになりました。

 グフを撃退した後、ランバ・ラルはホワイトベースに白兵戦を仕掛けました。あの時セイラさんとランバ・ラルの間に何かあると感じた私は、ホワイトベースを降りる事を決意します。地球でジャーナリストになれば、日本になどすぐに行けるだろう。何しろ連邦の元パイロットな訳ですから、たとえジオンの制圧下であっても情報の売買をすれば簡単に日本には辿り着けるだろう。そうすれば、私は国家機密の隠し口座や隠し財産なども知ってましたから、どうにでもなるだろうとタカをくくっていたのです。そして私にそんな大胆な事ができるのは、宇宙世紀で新たに得た人生での戦いの経験が私を男として成長させ、連邦、ジオン、二つの超大国に挟まれても私ならうまくやっていく自信がある。その資格がある。その大いなる義務が私には課せられていると思い上がったわけです。

 そしてその思い上がりが、ミハルの死を招いたのでした。

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