第4話 分かり合うという事とは
ホワイトベースに乗ってからは、とにかく流されるままでした。大型の乗り物の運転免許など持っていた物ですから、特に運動神経がいい訳でもないし、ましてニュータイプでもない私は、いつの間にかガンキャノンのパイロットになっていました。
偶然とは恐ろしい物です。私の名前、カイ・シデンは遠い祖先に日本人の血を引いていた私の両親が、まさに私が経験した戦争の時に作られた紫電改という飛行機の名前から取られた物でした。ご存じの通り、あの辺りの開発をヤシマ財閥が引き受けたからと言うのもあり、あの辺りにはハヤトやミライさん、カツがいた通り、日本人が多かったのです。そして後に私が取材して分かったことですが、あのコロニー自体が日本企業の設計で作った物でした。そこに連邦軍の新兵器が隠されていると分かった時は、なんという偶然であろうかと思いました。またも日本は人に隠れてよからぬ事を企んでいたのかと。宇宙世紀以降、地球の紛争はなりを潜めましたが、日本は宇宙にまで行って、こんな陰謀に関わっているのかと。そして自分がその実験機のパイロットになるとは。旧世紀の日本からの転生者であり、日本の飛行機の名前を持つ自分が、その役目を追うとは。
私は格闘技の類は今に至るまで、自ら率先して経験した事は一度もありません。90年以上の人生経験で、そんなものはなんの役にも立たないし、精神活動の邪魔でしかないと考えていたからです。権力を監視し、人間のあるべき姿を追い求めた私の人生にとって、暴力の練習をする時間など、なんの役にも立たない無駄な時間でした。
そんな自分がパイロットとして一応の功績を残したからと言って英雄扱いされる事は、自分の生き方を不本意に捻じ曲げる事でした。私が特にそう思うようになったのはミハルの事もあります。
セイラさん、貴女ならわかるでしょう。共に戦った貴女なら、私が真にどういう人間か。どのように私が真摯な思いを持ち、私がどのような時に逃げ出す人間であるかを。そして私が本質的には自分本位の人間である事を。あの戦争で私は嫌と言うほど自分という人間がどう言う人間なのかを思い知りました。そしてその上で生きていく事が、国家権力の道具になる事を拒んだ私の生き方であると、今なら胸を張って言えます。
アクシズと地球を包み込んだサイコフレームの光を見た我々宇宙世紀の人類は、互いのあり方をより深く知る事の必要性にもう一度立ち返らなければならなないのではないでしょうか。私はシャアのようにもアムロの様にもニュータイプに特別な期待をかけておりません。それはセイラさんも同様であると承知しております。一人の人間に、誰であろうが心そのものを背負わせれば行き着く先はカミーユの様な悲劇ではないでしょうか。
だからこそ、私は全人類がサイコフレームの光を見たこの時に、貴女に手紙という形で私の本当の人生を知って欲しかった、いや、アムロとシャアの為にも、もう一度、人と人が分かり合うとは、共鳴し合うとはどういう事であるかを共に考えて欲しかったのです。もし人の思いが刻を超えるならば、転生者である私と、アムロ、シャアと特別な繋がりを持つ貴女が、ニュータイプとしてではなく、人として分かり合う必要があると、あの奇跡を体験したオールドタイプとて、理解し合う必要があるのではないか。そう考えた次第です。
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