夜の町に田原総一朗

第3話・【神有荘近所】歪世野姉比売〔夜道の怪異〕

 くたれ神が住む【神有荘】〔パラレル世界の一つの現界〕の高校生の九郎が住む部屋で、寝癖髪で巫女神姿の。

歪世野姉比売ひずみよのあねひめ』は、太モモ丸出しの格好で胡座あぐらをかいて言った。


「バイト帰りの夜道で、怪しい不気味な声に追いかけられたと?」

 うなづく九郎。

「正体は?」 

「わからない、暗闇から鳥の羽ばたく音と、不気味な声が聞こえてきて。慌てて逃げた……それが数回続いて近所でも噂になっている」

 姉比売の寝癖アホ毛が、ピコピコと動く。

「九郎の体に残る〝もののけ〟の妖気を感じるのう、神有荘のご近所には、何かと世話になっているから。なんとかせんといかんな」

 何かを考えていた姉比売は、立ち上がって言った。

「九郎、今夜から近所の夜廻りをするぞ……お主も一緒じゃ、声の正体を突き止める」

「オレまで、どうして?」

「遭遇した場所の特定とか、詳しい状況を知っているのはお主じゃろう……四の五の言うでない。ほらっ、九郎もこの法被はっぴを着るのじゃ」

 姉比売から手渡された法被には『くたれ神・夜廻り団』と、プリントされていた。

「いいじゃろう、こんな日も来るだろうと特注しておいた法被じゃ……異議は認めぬ、法被を着ていないと単なる不審者扱いされるからのぅ」

 こうして、姉比売と九郎は近所を夜廻りするコトになった。


 月を見上げながら近所を夜廻りする、姉比売はいきなり九郎の腕にしがみつく。

「な、なんで腕を組んで?」

「若い男女が、前と後ろを別々に歩いていたら、怪しく思われるじゃろうが……ここは、カップルを装うのが自然じゃ」

「そうなのか?」


 数日間──夜廻りを続けたが、九郎が体験したという怪しい気配は現れなかった。


 夜廻りの最中に遭遇して警察に通報したり、姉比売が独自で解決した事件は。

 窃盗犯が二件。

 空き巣が一件。

 強盗未遂が一件。

 車上荒しが一件。


 玄関やベランダに『しつけ』と称して、下着姿で放置された子供の保護が三件。

 バイクを使った、ひったくり事件が二件。


 口論の激化で、傷害事件に発展寸前の痴話喧嘩を止めたのが四件。

 ストレス状態からの、干してある女性の下着泥棒が一件。

 ストレスからの、連続放火未遂事件が一件だった。


 すべての事件を解決したが、肝心の異変の声の正体は現れなかった。

「変じゃのう、これだけ夜廻りをしても、まったく現れる気配がないのぅ……九郎、お主何か忘れてはおらんか? よく思い出すのじゃ」

 思い出したように九郎が言った。

「そう言えば、逃げた時に背後から『ここで一度、CM』って声を聞いたような?」

「それじゃ! CMは終わったぞ、出てこい!」


 暗闇から鳥が羽ばたく音が聞こえ、不気味な人面の怪鳥が闇の中から現れ旋回する。

『田原総一朗』の顔をした妖怪鳥だった──現れた妖怪鳥が不気味に鳴く。

朝真天あさまでん! 朝真天!」


 その声を聞いた途端、顔色を変えた姉比売は、慌てて逃げ出した。

 姉比売を後ろから追いながら、九郎が訊ねる。

「アレは、いったい何なんだ?」

「お主、アレを知らんのか! アレは田原総一朗の生き霊じゃ!」

「生き霊?」

「夜中に体から、抜け首のように離れた生き霊が、あのような怪鳥の姿に変化したモノじゃ……朝真天が、仲間の論客鳥を呼び寄せたら。囲まれて、朝まで逃げ出すコトはできん……生討論をさせられる……浅い知識の儂には論破で退治はムリじゃ」


 ヒップを左右に揺すりながら走る姉比売が、後ろの九郎に言った。

「あんな論客集団鳥どもと、互角に渡り合えるのは。

中国の博学な、妖怪『白澤はくたく』くらいのモノじゃ! 恐るべし、田原総一朗」


夜の町に田原総一朗 ~おわり~

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