第十九話 エピローグ
凪が元の世界に戻った後のあの祭壇には、もう誰も居なかった。シャラとカミーラも姿を消していた。その時、洞窟の奥の陰から黒いフードを被った何者かひょっこりと現れた。黒いフードを取られた。黒髪の少女がそこに立っていた。
「ん。何だ?まだそこに居るのか?」
少女は誰も居ない空間に向かって喋りかけた。
「ここまで読んだんだろう?じゃあ、分かるだろう。もうこの物語は終わったんだ。とっとと、他の小説でも読んだらどうだ?」
「なに?結局、結末が書かれていないって?」
少女は意地悪そうな微笑を浮かべた。
「そんなの決まってるだろう?紗羅のいつものやり方さ」
「さあ。もう言わなくても分かるだろう?とっとと、帰れよ」
少女は踵を返した。そして、じーっとその場に立っていた。
「あー、もう。しつこいなあ。分かったから。分かったよ。教えてやるよ。次の物語を少しだけな。これは大サービスなんだぞ、分かったな?」
少女は振り返って、空を見つめていた。
「実はな……」
少女は勿体ぶっていた。
「勿体ぶってるとか煩いなあ。もう言わないぞ」
……。
「実はな、次回、遂にこのノルン様が登場するのだ!」
え。ノルン?誰?という空気が流れた。
「ご丁寧に有難う。ていうか、このノルン様を知らないのか?さては、紗羅の小説を初めて読んだな?」
紗羅の小説は、ここで紹介されているのは、一個だけという事ではなかったのかという批判が来そうなことを少女は言った。
「これだから、最近の奴らは。もうメタ視線になってるんだから、紗羅の物語=この小説の作者の物語ってことだよ。だから、別の小説では私は登場してるんだよ」
たとえ、そうだったとしても、やっぱり、99.99999……%の確率でこれを読んでいる読者は分からないということを少女は理解すべきだった。
「過去形がいちいちウザいな。まあいい。ともかく、この私が出るんだ。盛り上がるに決まっている。ていうか、何で今回は私が外されたんだ?シャラもカミーラも出ているのに。勘のいい読者は薄々気付いていると思うけど、作中でのシャラとカミーラが出てくる物語は、実際に作者の過去の作品で彼女達が出てきたことに由来している。そこにしっかりと私も出ているんだ。もう一人いたけど、そいつが出たら、アルと被ってしまうからな。そいつは出さなかったのは分かる。けど、何で私が出ていないんだ。責任者を出せ。責任者に問い詰めてやるっ」
少女は空に向かって叫んだ。少女は自分がこの祭壇の奥でぐうぐう寝ていて、気が付いたら、他の皆がいなくなっていたことを忘れていたようだ。
「く、くそ……。私の性格が仇になってしまったか。でも、これは作者がこれ以上、キャラクターを増やしたら、収拾がつかなくなるのを恐れていたという作者都合であることを私は大いに主張したい」
そろそろ締めてくれという、作者の冷たい視線が少女に浴びせられた。
「ちっ。都合が悪くなったら逃げやがって。まあいい。私は次回、登場するんだ。楽しみにしておくといい」
え。この作品の次作ってやるの?という作者の思いが少女に伝わる。
「え。むしろ、やらないの?紗羅の物語はまだまだ続く的な終わり方してたじゃん!」
それは、この物語の好評次第だという作者の思惑が少女に見えた。
「ま、まじか。というわけで、この可愛いノルンちゃんを次回作で見たいという人は是非、好評価をしてくださいねっ!という感じでお後は宜しいかな……?」
……。
「おーい!」
少女の声は祭壇の間に響き渡る。誰も返事をしてくれない。
「あーあ。もう終わっちゃうのかー。じゃあ、さてと……」
少女は祭壇に落ちていた、霊刀ゼロと、クリスタルのはめ込まれたブーメランを拾った。そして、意味深な笑みを浮かべていた。
「くくくくく……。紗羅よ。これでお前の物語も全て私のモノだ」
少女は、ゆっくりとした足取りで祭壇の奥に歩いて行った。少女は祭壇の奥に消える間際に親指を挙げて、最後に言い残した。
「To Be Continued……」
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