第十話???? 死の門

 僕とシャラは死の門に向かって洞窟内を駆けていた。僕はもうシャラに何を言っても無駄だと思い、そのままジェラードの元に辿り着いた。


「ここで終わらせてやるっ!」


 シャラとジェラードの戦いが始まった。ここまでは同じであった。この後、死の門が開いてからの展開がいつも違うのだ。つまり、紗羅はこの場面でどうするかで納得がいなかったのかもしれない。しかし、これは悪い兆候であった。最初の方に比べて、特に最後のは特に悪かった。死の門から後の展開に脈絡が無く、ドタバタで終わってしまったのだから。これは完全に迷走していた。これでは紗羅が納得いく結末になるわけが無かった。


 僕はもうジェラードや、この後、出てくるであろう魔物達に対する緊張感は無く、このまま、これを繰り返すことになるかもしれないという絶望感の方が占めていた。


 しかし、あの黒いベールの女は一体何者なのだろうか。一番、この状況を客観視出来ている。ただのキャラクターであるわけが無い。それに繰り返しを実行しているのはあの女なのだから、何か特別な存在であるに違いなかった。そして、僕という存在だ。なぜ僕だけがこの紗羅が創り出した世界に来て、記憶も持った状態でこの場所に居るのだろうか、と疑問を挙げていったらキリが無かった。とにかく、今は何か打開策が必要であった。この状況を繰り返すだけでは何も変わらない。


「この世界の終末を見せてやろう」

 ジェラードが霊刀ゼロを扉に向けた。さあ、次は何が飛び出してくるのであろうか。僕は、もう何が出ても驚く気にはなれなかった。しかし、あの門は、魔物が出てくるところであり、黒いベールの女が繰り返しをする時のトリガーでもある。あの扉には何らかのキーポイントになっているのかもしれない。


 僕が考えている内にも、死の門の扉が開き、中からにゅっと無数の黒い腕が飛び出してきた。それはジェラードを捕まえると門の中へ引きずり込んでしまった。

「兄貴っ!!」

 その時、ジェラードの持っていた霊刀ゼロは、カラカラカランと、階段を落ちていった。死の門から魔物が這いずり出てきていたが、ぼくはそっちのけで、霊刀ゼロを拾った。僕は刀身を眺めた。自分の顔が鮮明に写るほどの研磨され、妖しい光を放っている。この刀で、黒いベールの女が繰り返しを実行させているのだ。いずれ、女が現れたら、この刀は自動的に彼女の元へ行くのだろう。そういう風になっているのだろう。僕は死の門の方を見た。いつの間にかカミーラ達も駆けつけ、応戦している。この後、僕が力を解放し、死の門を閉める。その後に女が現れるのだ。


 僕のこの力も、紗羅が考えたものなのだろうか。本当にご都合主義というか、何の脈絡もなく、力が発揮されたのはそういう事だったのだろうか。とりあえず、ピンチになったら、ヒーローがご都合主義の力で何でも解決してくれる。紗羅が苦し紛れに選んだのが目に浮かぶ。


——苦し紛れのアイデアか……。


 僕は、よし、と刀を握りしめ、とある決断をした。そして、死の門の前に蔓延る魔物達の元へ行った。

「逃げろ、アル!こいつら強いぞ」

 シャラ達が戦っていたが、やはり苦戦していたようだ。

「待たせたな、皆。もう僕が来たら大丈夫だ」

 僕は自信満々にそう言った。

「何を言ってんだ、お前……?」

 僕は刀で辺りの魔物を薙ぎ払った。いとも簡単に魔物達は吹き飛ばされた。やはり、いつものように力が解放されている。

「アル、お前、その力は……」

「ああ。……そして、ようやく分かったよ。この力の使い方がね」

 僕は、辺りの魔物を一掃した。

「す、凄い」

 カミーラ達は呆然と立ち尽くし、僕が無双して魔物達を一掃していくのを見ていた。僕は死の門の前に立った。死の門の奥は暗闇へと繋がっている。


「さあ、早く、死の門を閉じるんだ」

 僕は霊刀ゼロを見た。そして、シャラの方を見た。

「どうした、アル?」

 シャラは不思議そうな顔をして僕を見ている。やはり、シャラは紗羅がモデルになっているようだ。紗羅を少し幼くして、ちょっとだけ綺麗目な顔立ちに変えてはいるようだったが。しかし、その顔は僕の勇気を引き出すには充分であった。


「シャラ。いや、紗羅。この世界の結末が納得いかないって言うなら、僕が変えてやるよ。ヒーローってそういうもんなんだろ?」

「アル。お前、何を言って……?」

 僕は死の門の先を見た。まるで暗闇という化物が口を開けて、獲物が飛び込んでくるのを待っているようであった。


——やっぱり、怖いな……。


「早く閉めるんだ、アル」

 僕は、再びシャラを見た。カミーラ達もいる。皆、何かを叫んでいたが、僕の耳には入ってこなかった。この状況を打開するにはこれしかない。この後の結末なんて誰にも分からない。もしかしたら、僕はここに閉じ込められるどころか、死んでしまうのかもしれない。紗羅の物語の中なのだから、何とか助けてくれるだろうか、なんて甘い期待もあったかもしれないが、今は紗羅を何とかして救わなければならない、その気持ちで僕は、恐怖に震える足を一歩前に出した。


「何をしてるんだ、アルっ!戻ってこいっ!」

 シャラが叫ぶ声が聞こえたが、もう遅かった。僕の右足が門の先に踏み入れた。暗闇に飲み込まれた身体の一部は不思議と生暖かいような感覚であった。そして、そこからは吸い込まれるように体全体が門の奥へと引きずり込まれていった。


 この状況を打開する策として選んだのが、僕自身が死の門へと入る事であった。打開できる確証があるわけでは無かった。僕自身が紗羅の考えつかないような行動を持って、この世界に一石を投じることで、紗羅が納得するような結末が出来るかもしれない。そんな一か八かの賭けだったのだ。もちろん、これが駄目ならまた振り出しに戻るだけだ。だったら、やってみる価値はある、それだけだったのだ。


 目の前が真っ暗になる。無数の赤い眼が自分を覗いている。何本もの黒くて気持ち悪い腕が僕を絡めとるように巻き付いてきて、暗闇の奥へ奥へと引きずり込んでいく。意識がだんだんと薄れていく。このまま、また振り出しに戻るのだろうか、とそう思ったところで僕の意識が途絶えた。

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