第73話大陸が見えた




製造された旅客船は、長さ197メートル、幅25メートル。

機関方式はディーゼルエンジン。

出力23540馬力。

速力21ノット。

旅客定員1000人。

乗組員162人。


北海道へ視察に行った時に、呪われた沼のことを聞き、その沼を探してみた。

見てビックリした。石油が出る油田ゆでんであった。

それを俺が、錬金術でガソリンや重油や軽油をちゃちゃっと作った。今回の航海に使うことにした。


九州の薩摩は、1000人の乗客を乗せた飛鳥あすか

毛利も同じように1000人の乗客が乗り込んだ飛鳥Ⅱ。


出羽国からは伊達が乗り込んだ、飛鳥Ⅲ

そんな飛鳥~Ⅹまでが揃った船団が、日本の国から就航してアメリカへ目指した。


乗客には、船酔いをさせない為に、健康薬と偽って船酔いの薬は飲ませた。

難病も治す医者を、多く抱え込んでいるので、なんの疑うはずもなかった。

そして、どの船にも健康で強い男が9割も占めていた。

もう戦いに挑む軍勢そのものだ。



5日目で、乗客は船酔いにも慣れたようで、甲板を走って往復して健康作りにはげむ者が現れた。

診療室の医者や看護婦も、ようやく一息が付けるようになった。

いくら船酔い薬でも、こんなに長く船に乗れば酔う者はでてしまう。

1つ1つ部屋を回って、診て回るのが日課だった。それがようやく落ち着いた。

中には「死ぬ俺は死んでしまうのだ」ともがく者もいたのに・・・



レセプションホールでは、木刀で毎日訓練する風景が見られるようになってきた。


「毎日、飽きないのかな」


「殿、やることが無いので、仕方ないと思います。殿もやってみては」


「それもそうだな、とでも言うと思ったか、これでもやることが一杯あるんだぞ」




『本日は波が高くなっています。甲板に出ないで下さい』


おだやかな航海も20日目になって、船が大きく揺れるようになった。

風が強く吹きつけていた。それでも小雨程度だ。

嵐と言うにはまだ早いか・・・これなら大丈夫だ。


「飛鳥Ⅴが遅れてるぞ。連絡はあったのか」


「エンジントラブルで、出力が落ちて速力15ノットが限界だと、先ほど報告が入りました」


「報告が遅いぞ!エンジントラブルの原因は分かっているのか? そして直す事が出来るのか?」


「原因が分かっています。そして直すのに2時間は必要と聞いています」


「それなら、全船を15ノットにして合わせてやれ」


「は!分かりました。無線係りに、全船に15ノットに落とすように伝えろ」


「了解」





33日目に、ようやく陸が見えてきた。

甲板には、大勢が出ていて陸を眺めている。

中には泣き出す者もいて、それぞれの思いがあった。


「大陸が見えた。これが新天地か・・・」


「あれが、アメリカ大陸か・・・やっと上陸が出来る」


「そうだな、やっと報われた」


なになに男同士で抱き合っている。




「救命ボートを降ろせーー」


「こっちの救命ボートは、食料だから大事に扱えーー」


設置されていた救命ボートが、次々に降ろされてゆく。

降りた救命ボートが動きだした。



砂浜に到着したボートから、人々が飛び降りてゆく。

そしてボートを全員で引き上げていた。


「このボートも大事な物資だ。大切に扱え」


砂浜は、ボートで埋め尽くされた。


そして、大量の荷物が陸に積まれ出した。


「早くしろよーー、夕暮れまでにテントも張る必要があるからなーー」


皆は、開放されたように元気に働き続けた。

ごろごろするか運動するかの毎日だった。しかし今は充実した顔だ。


「やっぱり、陸はいい」


「陸地の有難さが、ようやく分かるようになったよ」


「そうだな」


救命ボートは、9割をここアメリカに置いてゆく事になっていた。

1割は、本国に帰る乗組員の救命ボートだ。

残ったボートは網を使った漁業をする為の物だった。


そして、飛鳥Ⅹもここに残る事になった。

その為に、飛鳥Ⅹには大量な武器や弾薬が積まれていた。

それ以外にも、必要とされる物も大量に積まれている。


木が伐採されて、俺がその木を術を使って乾燥させていた。

頑丈な壁もぐるりと建てて、最初の街を守れるようにした。

そして5階建て集合住宅も、10棟も建てた。

これは最初だけの手助けだ。拠点を作る為に俺は頑張った。


皆が見てない川に近い場所を選んで、一気に作り上げた。

そして、その場所を書いた手紙を代表に手渡した。


「船長、出航しようか?」


「分かりました」


俺ら出航した時は、大勢の人々が見送ってくれた。

不安と希望の入り混じった思いが込められた見送りだった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る