第66話格闘試合




俺の屋敷の前は、ひらけた広場になっていた。

なので朝からなにか騒がしくて、広場に出てみると。


男達がひとかたまりに集まって、真ん中で何かが戦っているようだ。


1人の男の肩を掴み寄せて、聞いてみた。


「なにをやっている。騒がしく目が覚めたぞ」


「これは申し訳ありません。新之助が変な生き物を手なずけていて、その生き物が強いのです。もう2人が倒されていて・・・」


人混みをかき分けて見ると、カンガルーと男が素手で戦っているではないか。

カンガルーが丁度、尻尾を地面に付けて両足で相手の腹を蹴リ飛ばした。

男は飛ばされて人垣にキャッチされていたが、意識は朦朧もうろうでうな垂れていた。



集まっていた男達の顔は、生き生きとしている。

なんだか男達は、戦いに飢えているように思えた。

異国まで来て、色々とストレスが溜まっていたのかも知れない。

そして俺は、ピッンと来た。


「お前達に、戦いの場を与えよう。明日の9時から素手でによる格闘戦の試合をする。1番強い者に褒美をやろう」


「それは本当ですか?」


「嘘は言わない。小判で50両が褒美だ」


集まっていた男達から歓声が上がっている。

中には、走り出して仲間に知らせる者まで現れた。


黒田官兵衛に知らせて、明日は休日にして格闘戦の観戦でもさせよう。




もう広場には大勢の観客が居て、ゴザを引いて座りながら見ていた。

そして、弁当の握り飯を食べていた。

そんな大人達と違って、子供は木によじ登り見ている。


吾妻甚平あずまじんべい、吾妻甚平」


広場で選手の名が呼ばれると、歓声に答えるように手を上げながら勇ましい男が出て来た。


高田二助たかだにすけ、高田二助」


体格のよさそうな男が出てくる。


中央の円形(直径10メートル)から出ると負けだ。

後は倒されても負け。


両者はにらみ合っている。


「試合開始!!」


高田が大きく振り被り、右拳をストレートに打ち出した。

それに対して吾妻は、かわしながら腕を掴んで背負い投げをかました。

高田は、背中から地面へ叩き付けられた。

口から泡を吹き出していた。すぐに担架たんかで運ばれた。


やって来たのは、俺が居る救護テントだった。

回復魔法で、ちゃちゃちゃと治した。



順調にトーナメント方式で勝ち上がったのは、吾妻甚平とカンガルーのカン太だった。


誰かが賭け試合を始めていて、観客の注目が上がっている。

カン太は新之助のささやきに、うなずくようにシャドー ボクシングして答えていた。

そして、新之助が円から離れた。


「試合開始!!」


合図の声が大きく響いたのに、両者は動かなかった。


まんじりと観客は、静まり返っている。

先に動いたのは、吾妻でカン太の腕を掴もうとするが、軽いジャブで手を弾かれていた。

中々掴めないのにイラだった吾妻が、回し蹴りを繰り出した。

カン太は上体を反らしてかわした直後に、ジャンプして後ろ向きになった吾妻へジャブの連打で、そのままKOしてしまった。


褒美の50両は、青葉新之助あおばしんのすけが貰うことになった。

俺から受取った50両を、高らかに上げている。

新之助に近づくカン太に気付くと、腰袋からパンを取り出してあげだした。


パンを器用に掴んで、がぶがぶと食べるカン太だった。



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