第39話摂津と播磨




今川の殿様が、春先から摂津国と播磨国へ攻め込むと聞いて、俺はピンッときた。

たしか、黒田官兵衛くろだかんべえが住んでいた地域のはずだ。

黒田官兵衛と言えば、竹中半兵衛と並ぶ軍師だ。


竹中半兵衛に言って、黒田官兵衛を本郷家に仕官させられないかと相談。


「では、やってみましょう」とこころよく引き受けてくれた。



どうも黒田官兵衛が仕える小寺氏は、戦国の世にうといようだった。

今川の侵攻の情報を聞いても、何する者ぞとうそぶいていた。


なんでも阿波国の三好氏とも通じていて、三好が巻き返すと信じていた。


しかし、世情に明るい官兵衛は違っていた。

今まさに今川の世が来ることを明白だと信じていた。

そして、心は揺れ動いていた。

度重なる黒田官兵衛の説得に応ずることもなく、黒田官兵衛は諦めてしまった。


そして、その時期を狙うように竹中半兵衛が直に誘った。

どのように誘ったかは知らないが、策略に長けた同志だったのだろう。

3日も通い続けて、仕官の確約を取り付けた。


後で聞いて分かったのだが、官兵衛の名は通称で孝高よしたかが本名だった。

それに祐隆すけたか孝隆よしたか、のち孝高と何度も名を変えていた。

どんだけ変えるだ。ちなみに幼名は万吉だ。




朝日が出だした時に出航した船には、黒田官兵衛や家臣と家族が乗り込んでいた。

船は2隻にもなり、官兵衛とは親しい船頭らが秘密裏に運びだす手はずになっていた。

朝焼けの中に【駆逐艦はばな】が見えてきた。


「なんと、鉄の船はまことだったのか・・・」


「父上、あの船には凄い兵器が搭載されてると聞いてます」


「そうだな、冥途めいどの土産に見てみたいものだ」


「なにを言っているのですか、もっと長生きしてもらわないと困ります」


「そうなのかな、我のような者には世が早く感じてしまったようだ」


そしてようやくたどり着いた。


少し揺れて不安定なハシゴにしがみ付きながら、乗り込んでゆく。

幼い子供には、小さな救命具にロープが吊るされて引張り上げられていた。

最後に残った黒田官兵衛は、


「助かった。これは謝礼だ」


「黒田様、お気をつけて」


船の船頭は何度も何度もお辞儀を繰り返していた。




寒い冬が終わり、春になった。

ほら貝が戦場に鳴り響いていた。

今川勢は正面に11万も越す大群を配置。


それに対して、摂津と播磨は両軍合わせて6万の数。


「撃てーー撃って撃ちまくれーー」


今川の火縄銃が鳴り響く。


「バン・バンバンバン・バンバン」


「突撃だーーー攻めろーーー」


松平元康の三河勢が正面中央から、押出す形で突撃を開始。

その動きに合わせて、朝比奈泰能あさひなやすよしの軍勢も後に続いた。

それに合わせて、左回りに回り込みながら騎馬銃隊から、絶え間なく銃声が鳴り響く。


摂津と播磨は逃げるように右側に動いた。


なりを潜めていた右の森から、朝倉勢1万5千が側面に突撃を開始する。


「戦えーー朝倉の意地を見せろーー」


突然の敵の出現にうろたえる兵士達。


密かに後方に回り込んだ山名勢が、雪崩れ込む形で後方を遮断してしまう。

山名は但馬国の大名で、正月の挨拶で今川に下った大名。

死にもの狂いに攻め立てた。


「攻めろー攻めろー」


摂津と播磨の両軍はもろくも崩れた。

そこからは殲滅戦せんめつせんに近い戦いだった。




今回は、俺の出番は無かった。

クエスト表示もなく、大勢の家臣に囲まれて身動きが取れなかった。

仕方なく軍配の団扇を握って、双眼鏡をのぞくしかなかった。


明智光秀が引き連れる騎馬銃隊が、特に活躍している。

小高い丘でも、今川の殿様が立上がって双眼鏡をのぞき、高らかな笑い声が聞こえてくる。


そんな時に伝令がはせ参じた。


「殿!!小寺政職こでらまさもとの首、討ち取りました」


「そうか、でかした」



海には、【駆逐艦はばな・ながしま】が睨みを効かしているので、三好の船も来れなかった。




黒田官兵衛は、長島の長島城を任せた。

今回の戦場には参加させていない。

元、仕えていた小寺氏に攻め入る所を余り見せたくなかった。

それに対して、黒田官兵衛もなにも言わなかった。



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