第19話戦で思うこと




いくさが終わった。

そんな後には、女や子供らが父親の亡骸なきがらなのだろう、しがみ付いて泣いている。

かわいそうな結果を、又も繰り返してしまった。


「戦に参加していない雑賀衆の家族は、石山本願寺へ行きたい者には行かせろ。銭は雑賀衆が溜め込んだ銭を、旅の銭として分け与えろ・・・」


「殿、又も同じあやまちをするのですか?」


「これで、最後にする。なのでやってくれ・・・頼む」


「仕方ありませぬ。殿の言う通りにするのじゃーー」



信心深いじじいやばばあは、母親と子供達を連れて行く者もいたが、半分は残っていた。


中にはぶつくさと罵って行く者もいたが、涙を溜めてありがたがる者も何人か居たのだ。



色々な事情で行きたくない者は、ここで残って生きてゆくしかない。

俺は、手厚く世話をしてやる積もりだ。


いくさに情けは必要ない。しかし、戦が終われば情けを掛ける余裕すら出来るのだ。

俺がこっちの世界に来てから、そんな価値観になってしまった。

戦の後は、いつも嫌な物だった。




ここの世界の宗教は、大名並みの権力を持ったせいで、みにくいものだった。

隠れてヤクザまがいな事も平気で行なっていた。

金を貸して、凄い金利で借金を膨らませるのが当り前であった。

取立てもひどいものだ。


それでお百姓さんの土地を奪い取り、小作人として働かせて利益を上げるのだ。

それでも信者は、仏や神にすがった。

生きて行くのが地獄だったからだ。


だから大名から、一向宗いっこうしゅうなどは嫌われる。

大名の土地を奪い、収入を減らすからだ。なので大名との間に一揆が起きる。

一向宗の利益を守る為に、百姓が犠牲になる。

『死んだら極楽にゆける』そんな嘘を信じて戦うのだ。



それに、人を奴隷として売りさばくのも、どれ程見た事か・・・

俺の心が折れそうで、偽善ぎぜんだが何百人も買い戻した。

しかし、家臣から諦めるようにさとされた。


戦場では、奴隷が発生する事が多々あって、それが無い事には成り立たないみたいだ。

こっちへ来て、その現実を知って驚いた。


なので、お百姓さんは強くなければ生きていけない。

村の結束が固いのも頷けるレベルであった。


大名も性質たちが悪過ぎた。戦場で盗人や強盗がまかり通っていた。

それが百姓に与えられた権利で、給料がわりだった。

なので人さらいは当り前で、戦場では奴隷を買う者が付いて来る。

本当にひどい話だ。泣き叫ぶ光景を何度も見てしまった。


俺が支配している者でないので、どうしようもなく見て見ぬ振りをするしかなかった。



だから、俺はお百姓さんを連れて行かないことにした。

銭で雇い銭で戦う。

戦って勝つしか俺の生きるすべは無い。


早く戦の無い時代にするしか、俺がここに来た意味が無いと思っている。



紀伊の何もしない土豪達が、幾人もやって来ている。

雑賀衆が敗れた事で、仕方なく本郷家につく事に決めたらしい。

徐々に考え方を、改めゆくように仕向ける必要がありそうだ。

結果が分かってから従う者は、不利になればすぐに裏切るだろう。


「あの者は、誰の名代みょうだいだ」


「下山伊衛門の名代と聞いております」


「危険と書いておけ」


「ならば攻め落としまするか?」


「時間を掛けよう。ダメなら息子に後を継がせればいいだろう」


俺の目で見ても、●赤丸マークがしっかりと表示されている。

大事なこの場面で、あのような者を寄越すとは同じマークの人物だろう。

本当に困ったものだ。




「殿、機織りと綿が到着しましたぞ」


「どれどれ、ご苦労だったね」


「殿様に言われたら、来ない訳もいけねーだがや」


「ここの後家になったものに教えてやってくれ。初めは大変だろうが頼むぞ」


「わかっただよ」


足踏み脱穀機などで、後家の仕事を奪ったことで大変だった。

ぶらぶらと収穫を見て回っている途中で、後家の集団に泣いて訴えられた。


悪い事したと反省して、変わりに機織りの仕事をさせた。

綿は、植物魔法で成長速度を飛躍的に上げて、大量に収穫されたものだ。


この時代には、布団はなかった。

普段着のまま寝て、着物を掛けて寝るのが当り前。

しかし、俺は無理だった。

真夏ならパンツ1枚でも寝られるが、冬は寒すぎてダメだと考えた。

なので、冬に死亡する者が多かったらしい。


お百姓さんに至っては、わらやゴザで寝ていたらしい。

急ぎ綿栽培を開始して、現代風の機織りも作った。


お百姓さんは、一生1枚の着物を大事に使い、継ぎ接ぎだらけの着物を着るしかなかった。

それがようやく新品の着物が買えるようにもなった。

年貢を余り取過ぎないようにしたからだ。

そして、布団も普及している。


今の本郷家の領地では、ベビーブームでスクスクと育っている。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る