私をたどる物語

第10話 やっぱこうなるよな・・・

翌日、正式にジムに引退の挨拶に行った。ジムが一番活気づく夜の７時。

「お願いしまーーすっ！」

ジムに着き、いつもしていたように大きな声で挨拶をした。

「ちわーーすっ！」

いつもの面々たちが元気よく返してくれる。

「おーーっ、絶坊主！」

「久しぶりです、絶坊主さん！」

仲間たちと会うのは、試合以来数ヶ月振りだった。

何も変わってない・・・

ただ一つ、私がジムに来るのが最後という点を除いては・・・

置いてある、自分のリングシューズ、グローブなども全てスポーツバッグにつめた。ジムの中にある自分の結晶たちを集め終わった。

会長、マネージャー、トレーナーたち。

私が引退の挨拶をしに来ているのを知っているからか私の側には来ない。

最後の挨拶・・・

会長・・・すごく怖くて、よく怒られた。

「馬鹿野郎！手数が足りないよ！」

「お前、走ってるんか！スタミナが無さすぎるよ！」

でも、精神面ではよく褒めて頂いた。

「絶坊主は根性がある！」

会長の前に行った。

「会長、体の具合と家の事情で引退する事に致しました。いろいろとご迷惑、ご心配をおかけました。４年間本当にお世話になりました！」

４年間の感謝の意を込めて、深々とお辞儀をした。

暫く頭を下げたままの私。

会長は言葉を発する事もなく黙ったまま。

私は頭を上げて会長を見た。

会長は目に涙を一杯ためていた・・・

「絶坊主っ！お前、頑張ってたもんなーーーっ！残念だよっっ！」

会長は私の手を両手で強く握りしめ、上下に激しく揺さぶりながら、うわずった声でそう言った・・・。

会長のそんな姿を見るのは初めてだった。

もう・・・もう、我慢出来なかった・・・

ずっと・・・ずっと・・・表面張力のように堪えていたのに・・・

堰をきったように涙が止まらなかった。子供のようにしゃくり上げながら、泣いてしまった。

泣きながら、マネージャー、トレーナー、仲間たちに最後の挨拶をした。

泣いてしまった恥ずかしさ、辞めてしまう悔しさ、これから夢に向かって練習を続ける仲間たちを応援する気持ち、その反面、羨ましいという妬み。

もう、いろんな感情でぐちゃぐちゃになった。一刻も早くジムを出たかった。

ジムを出る時、いつもしていたように、万感の思い、感謝の意を込めて叫んだ。

「ありがとうございましたーーっ！」

「絶坊主っ！頑張れよーーっ！」

こんな俺に、皆、口々に声をかけてくれた。皆の声を背に受けて、私はジムを出た。

ビルの３階にあったジム。

階段を降り、道路に降り立ち立ち止まった私。ジムを振り返った。

「ありがとうございましたーーっ！」

最後の・・・最後の挨拶・・・

自分が心血注ぎ、命を懸けて情熱を捧げた事をやめる・・・

やっぱ、こうなるよな・・・と、帰りの電車に揺られ、涙を拭きながら妙に納得した。