第2話 Мさんとの約束
私の現役時代・・・
『なっちゃん焼き』で書いたМさんとの約束通り、20歳になる目前の19歳。東京後楽園ホールでプロデビュー。
人気のある日本チャンピオンの前座。相手は、その日本チャンピオンが所属しているジムの選手。アマチュアで数戦のキャリアのある相手。
だいたいメインの選手が所属するジムの興行では、そのジムに有利なマッチメイキングをするものだ。だからこそ、実戦経験のない私に白羽の矢が立ったのだろう。
勝つと思っていたのは、私とトレーナーとジムの仲間たちといってもいいくらいだった。負けるだろうと言われていた。
私は負けたら自殺するくらい思い詰めていた。
ほんとに。
毎日ロードワークし、練習でもとことん自分を追い込んだ。
試合当日。会場は超満員。立ち見も含めて2000人以上。
気が付くと“殺す”という言葉を繰り返しつぶやき自分を鼓舞していた。まともな神経では、群衆で埋め尽くされたあの光輝くリングには立てなかった。
覚えているのは、リングインしてトレーナーから上を向いて深呼吸しろと言われて視界に入った目も開けてらんないくらいのライトの眩しさ。
ゴングが鳴り突っ込んでいく私に、相手のアッパーがカウンターで入り顔が真上を向いた時に視界に入ったライトの眩しさ。練習に練習を重ねた左ボディーの手応え。
気が付くと私は右手を上げられていた。結果は1R1分16秒、KO勝ち。
ライトの眩しさ、KOのきっかけになった左ボディーの手応えしか記憶になかった。
2戦目、新人王の予選。
デビュー戦とうってかわり自分の力を過信し、まったくロードワークをせずに試合に挑んだ。
またこれがいけなかった。
またしてもKO勝ち。
おまけに、その日一番いい試合をした選手に贈られる賞をいただいた。
「今日、どうだった?」
賞をリング上で戴き、リングから降りrとボクシングマニアかと思われるオジサンが私に話しかけてきた。
“後楽園ホール”
ボクシングだけでなく、格闘技の聖地といわれる。だから、コアなファンはリングサイトに年間シートを買う。
「いや~今日はいまいちでした。次、頑張ります!」
翌日、その私の言葉がスポーツ新聞に載った。そのオジサンは記者だったのだ。
もう有頂天なんて生易しいもんじゃなかった。
俺、スゲーなっ!
新人王予選2戦目も勝ち、3連勝。
新人王予選3戦目。
相手はアマチュアでインターハイに数度出場のキャリア。デビュー戦と同じ状況。
ただ、過信からまったくロードワークしなくなっていた。当然のようにスタミナ切れ。
判定までもつれた。
ダウンをとっていた私がなんとか勝ちをもぎとる、薄氷を踏むような勝利。
ここで気付けばよかったもののまたしても、やっぱ俺ってスゴいなぁという謎のプラス思考。
走ってないのに、また、勝てた。やっぱ、 俺ってスゴい!
そして、新人王準決勝戦。
1R、眼筋麻痺で相手が二人に。
2R、両耳の鼓膜が破れ、目尻から出血。
ズタボロの打ち合いの末、初めての敗北。
そして、歴戦のダメージで腰を痛めていたのもあり、半年間のブランク。ブランク明け、世界タイトルマッチの前座。相手は名古屋無敗の地元のホープ。
勝てば、一気にスターダムにのし上がれるビッグチャンス。
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