06 彼方なるハッピーエンド
ミラーが料理を皿によそう。
見ると、皿一面のトマトソースの真ん中に、黄色いチーズを乗せたカジキの切り身。
それはまるで。
「
「うまいこというな。
ミラーは物書きを
「……う~ん、まあ、これでも結構有名なんだけどな。お前さんのいる未来には伝わってないのか?」
いるかもしれないけど聞いたことが無いと答える。
そうか、とミラーは呟く。
「ま、いいか。
ブツブツとミラーが独り言を言うのをしり目に、鉄太郎は甲板に上がる。
そこには、水平線上のある一点から、
「
「いつ見ても綺麗なもんだ」
ミラーが目を細めながら、「ではいただこう」と言う。
鉄太郎はスプーンをカジキの身に入れた。
す、とスプーンは入り、そのままカジキの身が割れる。
割れた小さい方のカジキをすくい取り、鉄太郎はカジキを口に入れた。
「うまい」
カジキとチーズの塩味と、トマトソースの酸味が溶け合い、口の中で得も言われぬ味の合体がある。
「だろう?」
ミラーは笑いながら、カジキを口にした。
*
食事の合間に、鉄太郎はぽつりぽつりと自分のいた未来のことを話した。
といっても、重大な事件とかではなく、身の回りに起きた出来事とかをだ。
いかに偶然時間移動したとはいえ、変に先のことを教えるのはためらわれた。
そしてミラーも、特段そういったことを尋ねず、むしろ鉄太郎自身のことについては興味津々に聞いていた。
「……それで、その
「オンラインとやらはよく分からんが、メシ作って食べようって言うんだろ?」
「そうです」
「ふむ」
ミラーは空になった皿を甲板に置いて、あごに手を当てた。
「ま、頑張れ」
「え、それだけ?」
「いや、料理だったら、さっきやっただろ」
「あ」
それにな、とミラーは付け加える。
「お前さんは今、といっても『未来』の今だが、親御さんが遠出していて、お前さんはメシが作れない……
「え」
ミラーはにやりと笑った。
物書きをしていると、何かこういう想像が働くんだよ、と言いながら。
「まあこんな過去の人間相手に隠さなくてもいいが、その
「……そ、それは、そうです」
「じゃあ決まりだ。ハッピーエンドは間近じゃあないか」
「そうですか?」
「そうさ。あの太陽ほど彼方にはないが、今の
こう見えても、二十歳前のイタリアの貴族令嬢にもてたことがある、信用しろとミラーは聞いていないことまで言ってきた。
しかしこれ以上話していると、さくらへの想いを言わされたりしそうなので、鉄太郎は誤魔化すためにも「コーヒー
その若い背を眺めながら、ミラーはひとりごちた。
「アドリアーナも若くて綺麗で良かったが」
イタリアの貴族令嬢の名前を口にする。
「あのボーイ、いやいや、
ミラーは物書きである。
かつては、ベストセラーを出した。
だが今、逆境にあった。
しかし、その逆境にありながらも、何かを掴もうとしていた。
*
「お待たせ」
鉄太郎が
「ハワイコナがあったんで、使わせてもらったよ」
「ほう」
ミラーがカップを受け取り、その中にある
「……うまい」
「だろう?」
先ほどのミラーとのやり取りのお返しとばかりに、鉄太郎が笑った。
その笑顔を見て、ミラーもまた顔をほころばし……そして、目を見開いた。
「……これだ」
「どうしたんです、ミラーさん」
「ミラーってお前、そういえば何でミドルネームで呼んでいるんだよ……いや、いい。今はいい。それより……」
ミラーはハワイコナを
「これだよ。コーヒーを淹れてもらう話。これがいい」
どうやら次に書くネタが浮かんできたらしい。
鉄太郎が「良かったね」と言おうとした時、船長が叫び出した。
「
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