03 流されてカリブ海

「しかし驚いたな」


 ミラーと名乗った老人は、わりと平易な英語を話し、鉄太郎にも段々と会話ができるようになってきた。


「こんな晴れた日に、突然、ストームがやって来たかと思うと、変なトンネルが現れて、中から何か出て来て……」


 それがお前だ、とミラーは鉄太郎の肩を叩いた。


 ……今、鉄太郎とミラーは船の船室キャビンにいた。

 ミラーはこの船のオーナーで(船長キャプテンは別にいた)、カジキをりに来たのだという。


「あの、それで……ここは?」


「おおそうだ、お前さん、日本ジャパンから来たんだっけな? ここはカリブ海さ」


「カリブ?」


 そういえば父の正之がちょうどキー・ウエストに来ていたはずだ。

 何でこんな遠くまで来たのか知らないが、とにかく父に会えば。

 そこまで考えた鉄太郎が、ふと卓上に目を落とすと、新聞があった。

 さすがにこれは読めないなと思ったが、ひとつだけ読める箇所があった。


 日付が。


「1950年!?」


「おいおいどうした? まさかお前さん、場所だけじゃなくって……」


 時間もか、とミラーは呆れた顔をした。

 だが次の瞬間にはコーヒー飲むかと聞いてきた。


「……いや、おれの言ってること疑わないんですか?」


 ミラーは肩をすくめる。


「そりゃお前さんがストームくぐり抜けて来たときに思ったさ、とっくにな」


 だけどその時点で超常現象だ。日本人ジャパニーズにしてはし、もしかしたらと思っていたという。


「つまり……あれは、時間タイムのトンネルだったということか」


 ミラーはあごを指でつまみながら、ふむと呟く。

 わりと柔軟な思考の持ち主らしい。


「まあいい、どちらにしろキー・ウエストに行くか。着の身着のままでもつらいだろうし、何とか人間らしい生活を送れるようにしてやろう」


「え、いいんですか?」


「おいおい、こんな経緯いきさつで出会った人間を見捨てるほど、おれは落ちぶれちゃいないぜ」


 さっきから気づいていたが、ミラーは何だか言い方をする男だった。あまり老人と見られるのも厭みたいだ。

 頑健なからだをしているミラーを見て、鉄太郎はそう思った。

 そのミラーが突然、ウインクをする。


「そうだ。お前さんの面倒を見る代わりに、ちょいとお願いを聞いちゃくれないか」


「な、なんですか?」


「実はな、今、大物のカジキを追っている最中なんだ。むろんキー・ウエストには行く。だがその前に……を捕らえるのを、手伝っちゃくれないか」


 ミラーが胸ポケットから写真を取り出すと、そこには海上をねる大型のカジキの姿があった。


「こいつだ」


 それを追っているうちに、変な嵐が来て、鉄太郎が甲板に放り出されていたらしい。


「見たところお前さんも異常は無さそうだし、こいつ、この写真の時よりでかくなってやがる……が欲しい」


 ちょうどその時、船長キャプテン船室キャビンに飛び込んできて、「が来た」と叫んだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る