02 気がついたら海の上
「ああ、もう!」
鉄太郎は頭を掻きむしっていた。
さくらにカッコイイところを見せたい気持ちはあるが、イキナリの料理は無理だ。
自分なりに「きょうの料理」のウェブサイトを見たりして、何とかサラダぐらいならできそうだが、しかしそれだけだ。
買ってきたベビーリーフの詰め合わせに、醤油と酢とオリーブオイルを
あとはこれだけは父に学んで「美味しいね」と言われたコーヒーくらしか無い。
「これで女の子だったらヘルシー志向とかで誤魔化せるけど……」
鉄太郎はハンバーガー好きで、ハンバーガーショップでアルバイトをするぐらい入れ込んでいる(現に今夜の夕食も、余ったのでもらったハンバーガーだ)。
そしてそれはクラス中に知れ渡っており、そんな鉄太郎が「サラダオンリー」で済ませていたら、それは変だと思われるだろう。
このままでは、気になるさくらの提案で、そのさくらの前で大恥をかくことになる……ハッピーエンドなど彼方だ。
「やっぱりメインで何か無いと駄目だなぁ……」
机上に開いては見たが、ちっとも身が入らない。
ランチ会のことが気になって仕方ないからだ。
鉄太郎は頭を
「大体……感染症なんか
少年にありがちな、世界への、時代への恨みを口にする鉄太郎。
そんな彼の目に、つけっぱなしにしていたテレビから、どこかの戦争のニュースが流れる。
「おまけに戦争! 何て世の中だ……」
こんなんじゃランチ作るどころじゃないよ、という自分への言い訳を考えたが、それがさくらに通じないことぐらいは理解していた。
「何て時代に生まれついたんだろ……」
ため息をついてから副読本に目を移すと、途端に眠くなってきた。
こんなことしている場合じゃない。
その時、オンラインランチ会の予定が明後日になったとのメッセージがスマホに出たが、その時には鉄太郎は眠気に逆らえず、そのまま眠りに落ちていった。
*
潮の匂いがする。
波音が聞こえる。
「う……」
気がつくと、頬が何か木の板に貼りついている。
「何だ……これ……」
鉄太郎が薄っすらと目を開けると、何かフローリングのような、そんな感じの細い木の板を組んだ感じの「床」に自分がいるのを発見した。
「海……てことは船?」
とにかく立ち上がらなくては、と上体を持ち上げる。
その視線の先に。
「Hey! Are you OK? 」
明らかに外国人とおぼしき老人が、こちらに向かってくるのが見えた。
「え、えっと、ヘルプ! ヘルプ・ミー!」
英語はそれなりにできる鉄太郎が手を挙げると、老人は小走りに近づいてきて、鉄太郎の手を取った。
その手の力強さに、思わずうなる。
感染症下ではためらわれるシェイクハンドだが、今はその力強さが嬉しかった。
「OK, take it easy. OK? And your name? 」
「マ、マイネーム・イズ・テツタロー。テツタロー、ゼンダ」
鉄太郎は、善田鉄太郎というフルネームの姓と名をどちらが先がいいか悩んだが、とりあえず習ったとおり、名と姓の順で答えた。
「OK! Zenda boy! 」
ゼンダボーイという言い方が気に入ったらしく、老人は笑った。
何となく、子ども扱いされたのが気に入らない鉄太郎は、じゃああんたの名は何なんだと聞いた
「My name is...」
老人はミラーと名乗った(もっと長い名前だったがよく聞き取れなかった)。
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