彼方なるハッピーエンド

四谷軒

01 オンラインランチ会

 善田鉄太郎は現代に生きる中学生だ。

 しかし感染症下のご時世、中学校に通う身でありながら、その「通う」ができず、オンライン授業を受ける身であった。

 そして鉄太郎は今日も今日とて、パソコンを起動する。

 サインインしてオンライン会議ソフトを開くと、教室の様子が映し出される。

 サブ画面にサインイン済みの級友の顔が見える。


「まだ、あんまり来てないな~」


 暇潰ひまつぶしにとチャットツールを開き、『おはよう』と打ち込むと、早速にレスポンスがあった。

 幼馴染みで「通っていた頃」隣だった、さくらである。


『おはよう、鉄ちゃん』


 鉄ちゃんとは、鉄太郎のニックネームである。彼は自分の名前が御大層なので(昔の剣豪の名前にあやかったらしい)、その呼び方が気に入っていた。

 それが、さくらから呼ばれるとなると、なおさらである。


『ところで、鉄ちゃん』


『何だい、さくらちゃん』


『最近、学校もオンラインばかりだし、みんなに会えなくて寂しいなぁと思って』


『それはそうだね』


 このタイミングで、サインイン済みの生徒も増え、『そうそう』というコメントがちらほらと見えた。


『だから鉄ちゃん、オンラインランチ会をしない?』


『オンラインランチ会?』


 チャットにも『?』とか『詳しく』という書き込みが見える。

 ウィンドウ上のさくらが笑顔になる。


『つまりね、いつも給食の時間時間は、みんなサインアウトしてご飯食べているでしょ? その時間を使って、みんなでご飯食べようってワケ』


『なるほど』


 鉄太郎は、大人がやっている「オンライン飲み会」の子ども版ということか、と納得した。


『もちろん先生は忙しいだろうし、イキナリで許可とか出せないだろうから、まず有志でってことで、このオンライン授業の「場」を借りようと思うの』


『そりゃいいアイディアだね、さくらちゃん』


『じゃあ、賛成してくれるわね?』


『もちろん!』


 チャット上でも「おれも」「アタシも」と出てくる。

 こんなご時世だ。

 だからこそ、何か面白いことをやってみたい。

 そう思っていたら、さくらがとんでもないことを言い出した。


『あ、待って! でも条件があるの!』


『何?』


『そのランチ……自分で作ったもの料理を出して欲しいの! その方が先生へのアピールになると思って』


 その後、さくらが家庭科に絡めるためとか、だから食べ物屋の人は自分の家で出しているのはダメとか言っていたような気がするが、鉄太郎はそれどころじゃなかった。


「自分で作る、だって!?」


 親が海外出張して以来、ほとんどが店屋物やコンビニで済ませている鉄太郎にとって、それはかなりの難問だった。

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