第35話 須藤さんは行動力の化身

「あっ帰って来た!」




 その声に反応するように視線を向けると、須藤さんが心配した表情を浮かべ、走り寄って来た。




「もう心配したんですよ!」


「ご、ごめんなさい?」




 あれれ? 何で私が須藤さんに怒られているのかな?


 遅くなってしまったのは仕方がないけど、須藤さんは何故ダンジョンゲート前で私を待っていたんだろう? 




 突然のことで戸惑い、動きを止めていると、須藤さんが怒ってはいるが優しい口調で話す。




「私は穂華さんのハンター専属協会員ですから、心配して当然ですよ。怪我はないですか?」


「だ、大丈夫です!」




 須藤に抱きつかれ、全身を撫で回される。


 セクハラじゃないのかな? 今汗臭いから近づかないで欲しい……。




「本当に大丈夫そうですね。立ち話もなんです、一度個室にご案内いたします」




 須藤さんの柔らかい手に引っぱられへ、ダンジョンセンター裏口から専用エレベーターで6階へと辿り着くと、そこは広いラウンジとなっており、有名ダンジョンランカー達をチラホラ見かけた。




「あの、私がここに来ても大丈夫なのでしょうか?」


「大丈夫ですよ。その資格は有りますもの、さあ、こちらです」




 空いている個室へ2人で入室すると、須藤さんは扉の鍵を閉めた後、急に彼女は私の側に詰め寄って来る。




 ちょっ…近い近い! 須藤さん!? 目つきが怖いよ……あっ!




 須藤さんが迫って来るので後退りしていると、勢い余ってテーブルの縁に腰を乗せ、座ってしまった。




「ここの部屋はカメラも盗聴もされていいません」


「は、はひぃ……」


「専属の件、相談して貰えましたか?」


「……はい、専属を受けようと思います。私はとあるハンターの荷物運び、ポーターとしてですが……」


「ウフフ……良かった」




 須藤さんは頬が紅潮すると、艶っぽい表情を浮かべ、私はドキッとしてしまう。


 あの表情は市立の高校や女子大に通っていた時に、度々私にそういった表情を向ける友達がいたのだ。


 彼女達とは特にこれといった事は起きた事はないが、あの表情の意味が同性の私でも未だに理解できなかった。




 閑話休題。




 ルル様と相談した結果、普段の私は荷物運び専門でポーターと呼ばれる職業に付く事にした。


 ポーターは戦闘は苦手だがダンジョンを探索したい人や、安くてもいいから、ダンジョンでお金を稼ぎたい人がやる仕事だ。


 報酬は低いが、それでもコンビニでバイトするよりかは稼げるのだ。




 須藤さんが私の両手を取ると、テーブルから降ろしてくれる。まるで、女子校での甘い風景のようだ。




「それでは、正式に日本ハンター協会から派遣されました、十条穂華様専属サポーターの須藤奈々子です。宜しくお願いします」




 優雅にお辞儀する須藤さんはとても綺麗だった。


 元々キャリアウーマンのように格好良く、仕事がデキる女性の立ち振舞いだったので、その姿に見惚れてしまった。私とは真逆の存在だ。




「まず最初の仕事をしましょう」




 須藤さんは懐からスマホを取り出すと、電話を掛け始める。




「あ、もしもし、先日お世話になりました穂華ちゃんとお友達の須藤奈々子です。あ、いえいえ〜。今、穂華ちゃんとダンジョンセンターにいるのですが、帰りが遅くなってしまうのですが大丈夫ですか? はい、はい、え? 良いんですか? なら伝えておきます〜! は〜い、分かりました。ご心配お掛けして申し訳ございません。それでは失礼いたします」




 スマホを懐に仕舞うと、須藤さんは満面の笑みを浮かべる。




「十条様。今夜はお泊りOKだそうで、バイトも明日お休み頂きました」


「えー! なんで!?」


「とても話が分かる伯母様ですね」 




 ちょっと須藤さん何してくれちゃってるのー! バイトは私の唯一の安らぎなのに……。


 この人、行動力の化身だ……。




「ところで、十条様」


「はい?」


「連絡先を交換したいのですが、よろしいですか?」




 あ、私のスマホはダンジョンの中に落とたっきりだ……。他にも貴重品も無くしてしまったんだっけ……これは困ったな、どうしよう。




「実はスマホや貴重品を、ダンジョンの中で紛失してしまって持って無いんです」


「あら、そうでしたか。見つかる事はまず無いですけど、念の為に紛失届けを出して新しいスマホを用意しますね」


「用意?」


「ええ、スマホはハンター協会から支給されますので、お使い下さい。無料ですし、使い放題ですよ」




 おお、これは有り難い。


 スマホの契約は面倒だったので、この前の日曜日に契約するつもりだったが、熱が出てしまったので行けずじまいであった。




「なら有り難く使わせて貰います」


「ええ、明日の朝には使えるようにしておきますね」




 仕事が早くて助かる〜。流石須藤主任! 渋谷ダンジョンセンターで働いてることはあるね。


 細かい所にも気づくし、アフターケアもしっかりしていそうだし、信頼はできそう。




「十条さん、ダンジョンで得たアイテムはお持ちですか? もしよろしければ、私が預かって鑑定に出しますよ」


「あ、鑑定は済んでるので、売却の手続きをお願いします」




 私がそう言った瞬間、須藤さんは目を見開き、私の両肩を掴むと激しく揺さぶる。




「鑑定済みですって! 何時何処で誰に!」


「あわわ……揺らさないで〜」


「はっ!? これは失礼しました……つい興奮してしまって……」




 須藤は正気を取り戻し、照れくさそうにしている。普段は真面目そうな雰囲気だが、取り乱した姿が妙に可愛い。




「とあるハンターの知り合い? が鑑定できるので全てアイテムは鑑定済みです」


「日本に数人しかいない鑑定持ち……他にもいたなんて……」




 狼狽した須藤さんを横目に、私はリュックサックを降ろし、テーブルの上にダンジョンで得たアイテム並べていく。




 スキルクリスタル〈麻痺攻撃〉×1


 スキルクリスタル〈毒胞子〉×2


 スキルクリスタル〈跳躍〉×1


 スキルクリスタル〈溶解液〉×1


 スキルクリスタル〈アイテムボックス〉×1


 スキルクリスタル〈軽量化〉×1


 スキルクリスタル〈剣術初級〉×2


 スキルクリスタル〈盾術初級〉×1


 スキルクリスタル〈部隊指揮初級〉×1


 クラスチェンジオーブ〈戦士〉×1


 クラスチェンジオーブ〈騎士〉×1


 クラスチェンジオーブ〈侍〉×1


 クラスチェンジオーブ〈陰陽師〉


 クラスチェンジオーブ〈モンスター使い〉×1


 クラスチェンジオーブ〈魔法使い〉×1






 ちなみに、クラスチェンジオーブの大きさは軟式野球で使うボールと同じくらいの大きさで、スキルクリスタルは人差し指くらいの長さの水晶体だ。




「ななななな……」


「ななな?」


「何ですか!? この量は!」


「え? マズイですか?」


「マズくはないですが、凄い量ですね! 十条さん、よくこんなに取れましたね? 何かコツがあるんですか?」


「いや、私が取ったんじゃなくて……」


「このクラスチェンジオーブも鑑定済みなんですよね? 効果を教えて下さい!」




 駄目だ…人の話を聞いていない。


 須藤さんは私を確実に魔法少女だと思って話している感じがするよ……どうしてバレてるのかな?




 考えても仕方ないので、クラスチェンジオーブの効果をひとつずつ説明していくと、須藤さんは喜びの舞を踊っているのか、終始浮かれ気味であった。




 なんでこの人はこんなにテンションが高いのかな? 硬いイメージとは真逆だよ……。




 仕事がデキる風の須藤奈々子の素はこんな感じなのだろう。どうしてここまで人が変わってしまったのか謎だが、クラスチェンジオーブが珍しいのか興奮しながら見比べている。




「この【侍】と【陰陽師】は未確認クラスですよ! とんでもない価値が付きますよ〜ウフフ〜♪」


「そうなんですか?」


「ええ、クラスチェンジオーブ自体が激レアなのに、未確認クラスのオーブですからね……。あっ! オークションにかけましょうよ! 売上の20%は引かれますが、税金や手数料を引かれても、7割は入りますよ!」




 熱心に営業してくる須藤さんに引きつつも、オークションには興味がある。普通にダンジョンセンターで売るより、オークションなら高値がつく可能性が高いからだ。




「でも手間暇かかるんじゃ?」


「いえいえ、全て私共でやりますので安心して下さい。今日中に出品すれば明日の昼には入札が始まり結果が分かるので、今日中に出品しましょう!」




 気が早いな須藤さん。


 お金の話になったら生き生きしてきたよ……。




 須藤さんに詳しいオークションの説明を聞いた。


 匿名でオークションに出品する事が可能で、海外からも入札が可能らしい。


 購入後は国内の鑑定持ちに鑑定してもらい、初めて購入者の手元に届くそうだ。




 その後、落札された商品と引き換えに、お金が振り込まれるので口座も作って貰う事になった。


 これでお金とアイテムの問題はクリア出来そうだ。




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