第34話 魔法少女専用クエストを考えた奴はクリアさせる気が無い

 昨夜は須藤さんに中々返してもらえず、ビジネスホテルにチェックインしたのが日付が変わる頃だった。


 ビジネスホテルは須藤さんが用意してくれたので、無料で泊まる事ができたのでラッキーだった。


 そして遅い夕食をコンビニで買い込んできた。買ったのはコンビニスイーツとお酒だけど。




 シャワーを浴びた後、卸したてのガウンを着るとテレビの電源を点け、ニュース番組にチャンネルを変える。


 ニュース番組の内容はダンジョンの仕様が変わったせいか、11層からの死傷者が多数出ている事について、司会とコメンテーターが熱い議論を交わしていた。




 うわぁ……凄い数の人が死んでる、これって私のせいなのかな? 私が女郎蜘蛛の巣をクリアしちゃったから、世界中のダンジョンの難易度が変わって多くの人が死んじゃったのかも……。




 罪悪感で胸がいっぱいになる。


 こんな時、ルル様なら何て言うだろうか? 励ましてくれるだろうか? それとも怒るだろうか? ダンジョンを元に戻せるかどうか聞いた方が良いかもしれない。




「はぁ、久し振りに飲んじゃおっかな……」




 コンビニで買ってきたカシオレのプルタブを開けると、プシュっと音が鳴る。グラスに移すとカシオレの良い香りが鼻孔をくすぐる。




 カシオレをひと口飲むと、視界の隅にウィンドウが表示された。えっとナニナニ……?




『毒無効 発動。アルコールを無効化しました』




「えー!」




 アルコールを無効化した? それよりもスキルが発動した!? 




 私はステータスを表示させる。




 名前 十条穂華




 ダンジョンランキング 圏外


 レベル 1


 称号 なし


 クラス なし


 HP 10/10


 MP 1


 力 1


 体力 1


 魔力 0


 速さ 1


 運 1




 ステータスに変化は無く、スキルも空欄で未取得だった。




「【魔法少女は普段は普通の少女】が発動しているって事よね」




 そうなると、ひとつの仮説が生まれる。魔法少女に変身しないと使えないスキルと、変身しなくても使えるスキルが存在し、魔法少女に変身しないと使えないスキルはまじかる系の専用スキルのみで、通常スキル、例えば跳躍や剛力などは普段の私でも使えるのでは? という仮説である。




 早速私はテレビを持ち上げてみる事した。


 薄型のテレビだが大きいので、女性ひとりで持ち上げるには大変なサイズである。




「せーのっ」




『剛力 発動』




 スキルが発動し、難なくテレビを持ち上げる事ができた。まるで発泡スチロールのような軽さだ。


 毒無効もそうだが、スキルクリスタルで得たスキルは、普段の私でも使えることが分かった。そして【魔法少女は普段は普通の少女】の影響で、普段の私のステータスの他にスキルも隠蔽されている事になる。




「これからは使えそうなスキルクリスタルはどんどん使っていこうかな」




 最近は魔法少女の衣装を来ていないと不安で仕方ない。魔法少女の姿でないと、転んだだけで致命傷になるかもしれないと思うと怖くなってしまうのだ。


 早く魔法少女に変身したい……これは依存症なのかな?




 不安を恐怖を紛らわす為に350mlのお酒を2本飲み干すが、即座に毒無効スキルが発動し、アルコールが分解される。




「駄目だ酔えない。まぁ…お酒弱いし、カシオレしか飲めないから、今後飲まなくていいか……」




 お酒を飲む魔法少女ってなんかイメージ湧かないし、今後お酒は控えよう。


 私はこの日を堺に自発的にお酒を飲む事を辞めた。




 ▽




 翌朝、ホテルを早めにチェックアウトすると、そのままダンジョンゲートに向かう。


 何故ダンジョンセンターにアタック申請をしなかったというと、須藤さんからフリーパスでダンジョンを利用できる許可を得たのだ。


 須藤さん曰く、ダンジョンゲートは勿論、昨日の夜に入ったダンジョンセンターの関係者用の裏口から、出入りできるようになるそうだ。




 私のダンジョンライセンスカードを係の人に見せると、ダンジョンゲートの最前列に案内してくれた。


 列に並んでいる人ごめんなさい……。私は心の中で謝罪し、ダンジョン20層を選択する。




 ダンジョンゲートに飛び込むと、目の前に見えるのは、不気味で大きな城であった。


 城門は固く閉じており、外敵を何人たりとも入れないといった印象を感じる。




 私は早速魔法少女に変身するとルル様を呼ぶ。




「今日は早いな」


「ルル様おはよう」


「アイテムは売れるようになったか?」


「うん、オークションに出す事になったよ……でも、そんな事よりメジャーアップデート後のダンジョンで死んでいる人が沢山いるの……元のダンジョンに戻せない?」




 ニュース番組でもやっていた悲惨なニュースだ。日本国内でも、死者行方不明者100人超え、重軽傷者は1,000人を超えていた。


 海外はもっと酷く、発展途上国の貧しい地域のダンジョンでは、まともな装備なんて無い人達がダンジョンに挑戦し、大半が死亡したり大怪我をして帰って来る。


 そんなニュースで報じられた映像を見た私は、罪悪感で押しつぶされそうになるほど辛い気持ちになっていたのだ。




「ダンジョンは進化した。これは止められない」


「……ダンジョンってそもそも何なの?」


「我に答える権限は無い」




 知っているけど答えられない…ね。ルル様はダンジョンから生まれたと言っても良い。


 そんなルル様は、私のサポートをしてくれている以上に頼りになる存在で、今後の私が目指すべき事も教えてくれるだろう。




「ルル様。私ってこれからどうすればいいの? このままダンジョンを攻略すればいいの?」




 私の相談に、ルル様は短い前足で腕を組む素振りを見せる。組めていないのがなんか可愛い。




「今は力をつけるべきだ。これから迫る脅威に対抗する為には己を鍛え、魔法少女用クエストを達成するのだ。そしていずれ手に入る9つの宝石【ナヴァラトナ】を集め我に捧げよ」


「その【ナヴァラトナ】ってどうやって集めるの?」


「かなり複雑な条件があるゆえ一概には言えないが、ほのりんの心の力が魔法少女と連動し【ナヴァラトナ】が生まれる」


「…ん〜。何となく? 分かったよ!」




 …とは言ったものの、ルル様の話している事がよく分からない。


 私の心がナヴァラトナなる物を生み出す事が出来るようなので、ナヴァラトナが生まれたらルル様に上げよう。




「話は変わるが、チュートリアルをクリアした時に、魔法少女用クエストが表示されるようになっただろう。それを見てみるのだ」




 あ、忘れてた。そういえばそんなのもあった気がする。


 私はステータスのタブから魔法少女用クエストを開くと、クエスト一覧が表示された。




 ダンジョン20層クリア


 ダンジョン40層クリア


 ダンジョン60層クリア


 ダンジョン80層クリア


 ダンジョン100層クリア


 他のハンター達と協力しレイドをクリアする


 小規模ダンジョンをクリアする


 ダンジョンランキング1位になる


 100億円稼ぐ


 沢山人助けをする 


 知名度を上げる


 沢山悪人を倒す 


 悪の組織の野望を食い止める


 ナヴァラトナを開放する




 これは…大半のクエストが無理じゃないかな…? ダンジョン100層とか狂気の沙汰だし、ダンジョンランキング1位とか100億円稼ぐとか冗談にしか聞こえない。


 このクエストを作った人は頭がおかしいと思う。




「これらのクエストはクラス【魔法少女】の強化の為に必要だ」


「魔法少女の☆印が増えるとステータスが上がるけど、もしかして基礎能力ってクエストをクリアしないと上がらない?」


「上がらないな。魔法少女は特別なクラスゆえ、ほのりんのレベルが存在しない。魔法少女のランクを上げて強化するしか方法は無いのだ」




 ……なるほど、レベルが上がらない理由が分かった。私の場合はモンスターを倒してレベルアップではなく、クエストを消化して条件を達成しないといけないようだ。何度か魔法少女のランクが上がり☆が増えたが、クエストをクリアしていたようだ。




 取り敢えず、暫く目標は20層と40層のクリアが目的になるだろう。


 後は条件が厳しすぎてクリアできるか不明だ。




「さて、喋ってばっかりでは先にへは進めない。【剛力】を使ってこの扉を開けでみよ」


「分かった」




 扉の前にたって分かったけど、城はとても高くて跳躍をつかっても上には登れないだろう。


 ルル様の言うとおりに、私は門を力強く押す。




【剛力 発動】




 20層の新しいエリアに現れた大きな城の扉を剛力を発動させて押してみると、ゆっくりと音を立てて扉が開く。




「よし、開いた!」




 私達は冷たい空気が漏れる城の扉から、恐る恐る中に入って行く。




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