第33話 蠢く陰謀

 ダンジョン19層ではボロボロの穂華が、祭壇の下で寝息を立てていた。


 デスライダーとリッチの連携攻撃と高威力の攻撃について行けず死の手前まで戦い、力を使い果たし気を失ってしまった。




 こんなところで寝ていてはモンスターに襲われてしまう可能性もあったが、祭壇周辺には特にモンスターの気配もなく、ルル様も特に辺りを警戒する事もなかった。




「さて、寝顔シーンときわどいシーンも撮れたし、ほのりんを起こさくてはな。ほら、いつまで寝ている! 起きろ!」




 ルル様は短い前足で穂華の頬をペチペチ叩く。


 ピンクの肉球が心地良いのか、穂華の表情が緩む。


 ルル様が必死に顔を叩くと穂華の目がぱっちり開き、慌てたように突然立ち上がる。




「おわっ」


「あれ? モンスターは!?」


「痛たたた…突然起き出すな、痛いではないか」


「あ、ルル様……私、生きてる…。本当に死んだかと思ったよ」




 まじかる☆アタッチメントのアメイジングコスモは1回の変身に3回までしか使えない切り札だ。


 狙った所に必中するこの武器はオタマトーンに、アメイジングコスモを装着することで、使用可能になるのだ。




「まじかる☆ドレスアップの強化をしていなかったら死んでいたな」




 ルル様に言われて強化したけど、私も何となく強化しないといけないような気がして、追加で強化したのが功を奏したよ……。


 強化を怠っていたら、衣装の耐久値が30%を切って変身が解け、確実に私は死んでいたもん……。




 想像しただけでも背筋が凍る。




「っ、痛い」


「いくら魔法少女の衣装でダメージで軽減しているとはいえ、肉体にダメージは通る。ポーションを飲んで傷を癒やすのだ」




 ルル様言われた通りに、まじかる☆ボックスからポーションを1本取り出し、ポーションを飲み干す。




 うっ……苦い。




 苦いと思ったのも束の間、みるみる火傷や擦り傷が治っていく。




「おお〜、凄い」


「危ないと思ったら直ぐに飲むのだ。死んでからでは飲めないからな」




 ごもっともです。


 次からは気をつけます。




「さて、お楽しみタイムだ。今日のダンジョンで得たスキルポイントやアイテムを整理しよう」




 ルル様が私の目の前に、デスライダーとリッチから得たドロップ品を置いた。




「スキルクリスタルを落としたんだ」


「先に鑑定は済ませてある。説明するからよく聞くのだ。デスライダーから得たスキルクリスタルは【加速】だ。デスライダーの機動力を考えるとこのスキルを使っていたのだろうな」




 デスライダーに攻撃しても直ぐに回避されたり、私から即座に距離を取ったと思うと、槍を構え突撃して来た。あの急加速はスキルの効果だったのか。




 まじかる☆スキルブックを開くとスキルポイントの合計が、673ポイントに増えていた。11層から19層までひたすら走り、出遭ったモンスターは片っ端から倒して来たので、スキルポイントはそこそこ貯まっていた。




「次はゲットしたアイテムだね」




 まじかる☆ボックスの中身を覗いてみる。


 ウィンドウに表示されたのは今回の探索で追加されたアイテムだ。




 スキルクリスタル〈剣術初級〉×2


 スキルクリスタル〈盾術初級〉×1


 スキルクリスタル〈部隊指揮初級〉×1


 スキルクリスタル〈加速〉×1


 スキルクリスタル〈水撃魔法初級〉×1


 スキルクリスタル〈暗視〉×1


 クラスチェンジオーブ〈戦士〉×1


 クラスチェンジオーブ〈騎士〉×1


 人骨 ×75


 朽ちた鉄の剣 ×12


 ゴーストの霊核 ×6


 謎の腐った肉 ×6


 死体漁りの羽 ×4


 ポーション ×8


 ハイポーション ×2




「お〜、そこそこ手に入っているね」


「そうだな。ほのりんが使っても便利なスキルクリスタルは【加速】と【暗視】と【水撃魔法初級】だな」


「とうとう、私も魔法少女専用魔法以外を覚えられる日が来た!」


「他にも前回手に入れた【剛力】を使っても良いかもな」


「ちなみに剛力の効果は?」


「力持ちになれるぞ」




 一瞬、脳裏で筋肉ムキムキの厳つい私が巨石を持ち上げている映像が浮かぶ。




 いや~、無いな……でも、トラックに轢かれそうな子供を救う時に素手で受け止めるのは憧れる。


 限定的で使いみちは無さそうだけど、一応使っておきますか。




「それじゃあ、ルル様オススメのスキルクリスタルを使用します」




『スキルクリスタルを使用し【加速】【暗視】【剛力】【水撃魔法初級】を取得しました』




『魔法【水撃魔法初級】が、クラス【魔法少女】の影響により、【まじかる☆アクアプリズン】に変化しました』




「ん? 名前が変わったよ何で?」


「我も驚いたが、取得した魔法は全て魔法少女専用魔法に変換されるのかもな」




 元の魔法名が分からないけど、魔法名が長くなるのはデメリットでは…と思ったが、アニメの主人公達は飽きもせず毎回技の名前を言って使っている。


 そんな私も毎回、まじかる☆スターライトって言っているけどね。




「ってルル様! 私何時間寝てた?」


「2時間くらいだな。外界は21時頃だと思う」


「えーー! 咲さんに怒られちゃう……」


「今更落ち込んでも仕方がない。須藤と言う女に会って今後の事を話し会ってくるのだ」


「はーい……」




 私は売却用のアイテムをリュックサックに移し、変身を解くとダンジョンゲートに飛び込んだ。




 ▽




 ―― 4/31 21:05 東京 新宿歌舞伎町某マンション




 新宿にある、とあるマンションの一部屋のベットにひとりの男と3人の女達が絡み合っている。


 酒を飲み、テーブルには違法な薬が散乱しており、傍から見ても決してまともな状況ではない。


 しかし、男と彼女達はそんな事はお構い無しに、己の欲望をぶつけている。




「不二木様〜、もうダメ〜死んじゃう〜」


「おら! 死ね!」


「あああああ!」




 不二木と呼ばれた男が激しく動くと、部屋に喜悦の声が響く。




 不二木嵐斗、33歳。


 渋谷の拠点に置く半グレ集団、渋谷ナンバーズのナンバー1だ。


 彼の下に9人の実力者がおり、さらにその下に不良や犯罪に身を置く者達が数多く所属している。


 彼らの収入源はカツアゲだったり、カンパだったり、さらにはダンジョンから得られるアイテムや金を上納金として、渋谷ナンバーズのトップ達に納めている。正に金と暴力とSEXを具現化した組織だ。




 ベットに横たわる不二木と女達は暫くベットの上で愛を囁いていると、ベットルームの扉をノックする音が聞こえる。




「入りますよ」


「……神峰さんか、どうだい? 一緒に混ざるか?」


「遠慮しておきます」




 秘め事をしていた部屋に、若い男が平然と入って来る。


 神峰と呼ばれた男は高級そうなスーツに身を包み、髪も綺麗に纏められており、ビジネスマンと言うより青年実業家の雰囲気を出している。




「ところで、今話題のニュースを知っていますか?」


「ニュース?」


「ええ。巷で話題の魔法少女です」


「あ〜……興味ないな、俺はこうゆう女が好きだからな」


「あん♡」




 不二木が女の豊満な胸を鷲掴みにして揉みしだき、神峰に見せつける。




「貴方の好みの話をしている訳じゃないんですけどね」


「神峰さんは女興味ないのか?」


「強いて言えば、何でも言う事を聞く女は興味ありませんね、私の事が全く興味が無かったり、反抗的な女を無理やり従属させるのが好きですね」


「神峰さんには敵わねぇや」




 不二木が下品な笑い声を上げると、神峰は咳払いをする。




「金になる話があります」


「金? ……どんくらいだ?」


「100億ですね」


「まじか」


「えぇ、ちょっと魔法少女が欲しくなりましてね、腕利きを集めないといけません。どうです? 人選はお任せしますので、やってみません?」


「100億か〜、うちのメンバーも最近ダレてるから楽しめるイベントになりそうだ」


「交渉成立ですね。手段は問いません、よろしくお願いします」


「おう」




 神峰が部屋から出て行くのを確認すると、不二木はスマホを操作し始める。




「久々の狩りだ。まずは他の連中に連絡しないとなっと」




 グループチャットに文字を打ち込んでいく。


 その内容は、魔法少女に関する情報を些細な事でも集める事と、ナンバーズの集合命令だ。




「さて、吉報はヤッて待てって言うしな! ヤッて待つかー!」


「やだ不二木様〜♡」


「ギャハハハ」




 ▽




 神峰はマンションから出ると、マンションエントランス前にスーツを着たひとりの女性と1台の黒い高級車が停まっており、スーツを着た美しい女性が一礼した後、車の後部座席の扉を開ける。


 神峰は無言で乗り込んだ後、先程のスーツの女性も一緒に乗り込む。




「この後は、予てから進めている十条グループのヒュージマテリアルジャパンとの、新素材の契約についての話し合いがあります」




 スーツの女性が手元のタブレットを見ながら、神峰に次の予定を伝える。


 高級車の窓の外を眺めなら、神峰は深く溜息を吐くと気だるそうに口を開く。




「この前も、あそこの代表夫婦と食事をしたけど、突然娘さんを紹介されて困ったよ」


「左様ですか」


「僕と繋がりを得る為か何だか知らないけど、今の時代、娘を差し出すなんて気が狂っているよね」


「国や企業の発展には昔から行われて来ましたよ」


「十条グループの会長は経営手腕は素晴らしいけど、2代目はそれほどでもないね」


「どの会社も2代目はあまり良くないと聞きます」


「ははは、僕も2代目なんだけどね」


「神峰様は独立して成功しておられますし、他の2代目とは出来が違います」


「そういう事にしておくよ」


「……その、十条グループの2代目の娘さんを紹介されて、神峰様はどうですか?」


「どうと言われてもね……まぁ、箱入娘は調教のしがいはあるけどね。あの娘と結婚して、十条グループを中から食うのも良いかもしれないな……」




 神峰は不敵な笑み浮かべる。




 神峰奏司は28歳で、父親が経営する会社の一部の業務を分け独立し、日本トータルバイオミィテイクスの社長として務めている。


 ダンジョン産の素材を使った新しい技術で急成長し、ベンチャー企業の中でも特に成長した企業のひとつである。






「……ところで、例のプロジェクトは進んでる?」


「滞りなく」


「なら、いいさ。そのまま続けてくれ」


「畏まりました」




 神峰を乗せた高級車は首都高に乗ると、速度を上げ、夜の東京に溶け込んで行った。




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