第32話 アメイジングコスモ

 はぁはぁはぁ……つい先日も、汗だくに為りながら10層まで走ったけど、チュートリアルをクリアした時よりも何倍も楽かもしれない? なんだかんだで19層へ到達してしまったよ。




「だいぶ魔法少女の衣装の力を引き出せるようになったな」


「もしかして、まじかる☆ドレスアップの強化でスタミナも上がってる?」


「そうだ、まじかる☆ドレスアップの強化は耐久値だけではない、魔法少女の衣装は剣であり、盾であり、パワードスーツでもある」


「ふむふむ。それならばスキルポイント全振りしても良さそうだね」


「スキルポイントを多く稼ぐには、時間は掛かるが深層に行くか、他のダンジョンを攻略しても良いな」


「他のダンジョン? メジャーアップデートで追加されたってやつ?」


「そうだ、渋谷から近い場所は、伊豆と呼ばれた場所に出来ているな」




 伊豆か〜、微妙に遠いな〜。北海道や名古屋、熊本まで行くよりかは近いけど、バイトの休みを使えば伊豆のダンジョンを日帰りで行けそうだね、機会があったら行ってみても良さそう。




 ルル様と今後の事を相談しながら走っていると、うさ耳カチューシャが祭壇特有の音をキャッチする。進路を変え暫く走ると、祭壇が見えてきた。




 今までの階層ボスの出現傾向は、次の階層で現れるモンスターが出てくる。ボスを倒せなければ、次の階層に現れる雑魚モンスターにも勝てないぞ、っていう警告なのかもしれない。




「それではいざ尋常に〜」




 私が祭壇に近づくと、祭壇の上にある石が紅く輝きだし、紅いダンジョンゲートを出現させる。




 私はオークの件以来、開幕先制攻撃は控えている。その理由は一度どんなモンスターか確認してから行動しないと、カウンターを受ける可能性があるからだ。


 モンスターは決して馬鹿ではないし、システムで動いている訳でもない。彼らも生きているのだ。




 紅いダンジョンゲートから現れたのは、骨の馬に乗り、長い槍を持った髑髏の騎士に、ボロボロのローブを着たアンデットの2体だけ現れると、紅いダンジョンゲートはゆっくりと閉じていった。




「ほぉ…あの2体の名は、馬に乗っているのがデスライダー、ローブのアンデットはリッチだ」


「強いの?」


「そこそこだな。気をつけなければいけないのが、デスライダーの速度から繰り出される突きだ。攻撃を受けるのではなく、避ける事に専念せよ。次にリッチだが、遠距離から高火力の魔法を放ってくるので、これも回避するのだ」




 ……ルル様は、今まで出会うモンスターに対して適当に解説をしていたけど、このボス2体に対して注意を促したって事は、それだけ強いって事だよね? 今までの経験をぶつけてみるチャンスだね。




 私は深呼吸をすると、目の前のアンデット2体を注視する。


 相手も私がどう出るか見ている様子だ……それなら先行いただきます!




「まじかる☆グリッターネイル!」




『まじかるグリッターネイル 発動。デスライダーの視覚を奪いました』




 髑髏の騎士にキラキラした星が現れると、激しく発光する。




「からの〜アンデットさん! 成仏してね! まじかる☆スターラーイト!」




『まじかる☆スターライト 発動』




 虹色に光り輝く星々がデスライダーに当たるかと思いきや、アンデットの馬が素早く動き回避すると、そのまま加速し私に向かって来る。




「くっ! 間に合わない!」




 加速した馬体に激しく跳ねられ、視界がぐるぐると周り地面に叩きつけられる。




『まじかる☆ドレス の耐久値が80%になり、非ダメージ軽減率が低下しました』




 ぐうう。目眩ましは聞いたはずなのに……何故? 


 確かに、まじかる☆グリッターネイルは発動し効果はあった。なのに、まじかる☆スターライトは回避され、真っ直ぐに私を攻撃をした……まさか!




 まじかる☆グリッターネイルは効果はあった。しかし、効果があったのはアンデットの馬に乗っている髑髏の騎士だけで、馬には当たっていなかったのだ。


 恐らくだが、デスライダーは2体で1体の扱いなので、紅いダンジョンゲートから馬と髑髏の騎士、リッチの3体としてカウントされていた可能性がある。




 体制を立て直そうとした瞬間、私の視界が赤く染まる。




「きゃあああ!」




 熱い、熱い! 息ができない…救けて! 




 必死に身体を転がし灼熱の空間から抜け出す。




『まじかる☆ドレス の耐久値が45%になり、非ダメージ軽減率が低下しました』




 ……動ける。強化した魔法少女の衣装に感謝しないと。そして、あの熱い攻撃をしてきたのは…リッチ。




 リッチに視線を移すと、ボロボロのフードから覗く腐り落ちた表情は、獲物を痛めつけるのが楽しいのか笑っていた。


 私はその表情を見ると恐怖で身体が硬直する。




「ほのりん! 避けろ」




 視界の端にデスライダーが高速で詰めてくるのが見えた。


 私は必死に身体を捻り防御に専念する。




「まじかる☆シールド!」




 まじかる☆シールドを削るような嫌な音が耳元で聞こえる。


 いくら防御が成功したとしても、運動エネルギーを打ち消す事は不可能で、私の身体はボールを蹴り飛ばすように弾け飛ばされる。




 !? 来る!




『跳躍 発動』




 咄嗟に発動した跳躍で回避し、私が先ほどいた場所に火柱が上がる。


 リッチの火炎魔法だろうか、あれを受けた時、正直死んだかと思ったくらい辛かった。二度とあの魔法は受けたくない。




『跳躍 発動』




「お返しだあああ!」




 跳躍で一気にリッチの懐に潜り込むとオタマトーンを胴体に捩じ込む。




「はああああ! 全力全開! まじかる☆スターラーーーイト!」


「オオォォォ!」




 体内で放たれたまじかる☆スターライトは、リッチの体内で暴れだし、星とハートの煌めきが身体から溢れ出し爆散する。




「まじかる☆スターライト!」




『まじかる☆スターライト 発動。威力が30%減少しました』




 咄嗟に放ったまじかる☆スターライトは背後に迫っていたデスライダーの頭部に当たる。


 しかし、デスライダーの速度は落ちない。




 デスライダーの槍を攻撃を回避するが、馬と接触し弾き飛ばされる。




「…くはっ……」




 痛い……身体がバラバラになりそう……。




 も…う限界……し、死ぬ……あともう少しなのに……。




『まじかる☆ドレス の耐久値が36%になり、非ダメージ軽減率が低下しました』




 デスライダーの髑髏の騎士は頭部を失っても健在で、デスライダーは次の一撃で決めようとしているのか、距離を取り始める。




 どうする…逃げる? どこに? まじかる☆スターライトを当てる? 早くて無理……死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬしぬしぬしぬ……。




 思考が死で埋まる。




 私の魔法少女はここで終わりなの……?




「ほのりん! 諦めるな! まじかる☆アタッチメントを使うのだ!」




 ルル様? 


 ……そうか…あの、まじかる☆アタッチメントを使えば…………。




「まじかる☆アタッチメント!【アメイジングコスモ】オン!」




 まじかる☆スキルブックから、虹色に光る宝石を取り出し、オタマトーンの口に入れる。




『オタマトーンが形態変化します』




 オタマトーンの形が綺麗な弓へと変わる。


 その弓はまるで月のように美しく、星の結晶が集まったように輝いている。




 そして、弦を強く引くと光の矢が形成され、その矢からは力強いエネルギーを感じる。




「ほのりん。相手をよく見て感じるのだ。後は矢が敵を射抜いてくれる」


「うん…」




 デスライダーが方向転換し、私に向って駆けて来る。


 みるみるとデスライダーの姿が大きくなり、後数秒もすれば、鋭い槍で私を貫くだろう。




 息を止め、光輝く鏃に意識を集中する――










「銀河を駆け抜けろ! アストラルシューティング……スターーーっ!」




 矢を放つ。




 まじかる☆スターライトほどの派手さは無いが、加速した馬の頭部と髑髏の騎士の胸に、一筋の光か貫く。


 最後の悪足掻きなのか、デスライダーの右手から伸ばされた槍が私の頭部を正確に貫く瞬間、デスライダーと槍諸共、光の粒子になって霧散していく。




「……やった……」




 ギリギリの精神状態で戦ったせいか、私の緊張の糸が切れると、膝から崩れ落ち意識が暗転していく。






「今は眠るがいい……」




 ▽




「――しかし、この程度で苦戦するなんて…肉体がオーブの性能を出し切れてないんじゃない? 他に候補はいなかったの?――」




「――肉体の変えは効くが、この娘から得られるエネルギーは想定以上だ。【ナヴァラトナ】の覚醒も近いと我は感じる。それ故、我はこのまま進めたいと思う――」




「――そうなると、さらなる試練が必要だよ――」




「――なに、少し煽って情報をくれてやれば、勝手に動くだろう――」




「――いいよいいよ。フフフ、楽しくなってきたね――」






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