第31話 アンデットパラダイス
ダンジョンは広い古戦場風が広がったエリアで、朽ちた馬車にボロボロの剣が地面に突き刺さり、長い年月を得て風化したのが見て分かる。
現れるモンスターはアンデットが中心で、時々ハゲタカのようなモンスターや、飢えた狼が群れを率いて襲って来たのが印象だった。
そんなアンデット達が蔓延るエリアを探索していたのだが、慣れない環境のせいか気分が悪くなってきた。
「う〜気持ち悪い……」
「そんな事では先が思いやられるな」
「だって〜」
臭すぎる。
特に臭いのがゾンビで、ゾンビが近くに居ると直ぐに分かるくらい臭いがキツイのだ。
モンスターの出現方法も洞窟ダンジョンとは違って、突然地面から出現するので察知が遅れる事がしばしば。スケルトンやゴーストならまだしも、ゾンビ達に囲まれると悲惨な目に遭う。
「ゾンビ臭過ぎるし、グロい、噛まれたゾンビになりそうだし戦いたくないな」
「噛まれてもゾンビにはならないが、毒には侵される場合があるな」
ダンジョン探索で一番厄介なのは状態異常だ。私の場合は、毒無効に強化されたスキルがあれは問題ないが、何も対策をしてい無いハンターなら命取りだろう。
遭遇したモンスター達から魔石やアイテムを回収していると、少し離れた場所から火柱が上がるのが見えた。
あの炎は……モンスターじゃない? もしかしたら他のハンターが来ているのかな。
うさ耳カチューシャを装備し、精霊のポンチョを羽織ると、私は足早に火柱が上がった場所へと進路を変えた。
▽
精霊のポンチョで姿を隠しながら火柱が立った場所付近へと辿り着くと、剣戟が響いて来た。
姿は消えているが念の為に岩陰からコッソリと覗いてみると、6人組のパーティーが大量のスケルトンと戦っているのが見えた。
「俊! こっちをカヴァーしてくれ!」
「分かった! 火炎弾!」
火の玉が真っ直ぐにスケルトンに向かい直撃すると、爆音と共に骨がバラバラに砕け散る。
岩陰から戦闘を観察すると、大きな盾を持ったタンクがひとり、剣や槍を持ったアタッカーが4人、炎の魔法を放った人がひとりの計6人の男性のみのパーティーだ。
スケルトンに囲まれながらも的確な指示と戦闘慣れした動きにパーティーの安定性を感じられる。
あ、あの人って、アイドルの館林俊たてばやししゅんだ。そっか10層からやり直しだから、遭遇してもおかしくないね。
メジャーアップデート前にダンジョンを攻略していたハンター達は10層から再スタートをしている。経験者や実力者達もやり直しなので、低層で出会う確率が上がっているのだ。
そんな彼らの戦っている場所に見慣れた物があった。それは祭壇と紅いダンジョンゲートだ。
紅いダンジョンゲートが開いているって事はボスと戦闘中? ゲートは閉じずに続々とスケルトンが出てくるけど大丈夫なのかな?
イケメンアイドルパーティーが、紅いゲートから大量に湧き出るスケルトンに対し、タンクが押され徐々に後退しているのが見える。
「あの者達はそこそこデキるが、武器の相性が悪いな」
ルル様の言うとおり、彼らの持っている剣はどれも細身で、スケルトン相手に手こずっているように見える。特に槍を持っている人は、突き刺すのを諦めたのか、頭部目掛けて槍で殴っていた。
「時間を掛ければ掛けるほど、不利になっていくね」
「ならばベストなタイミングで助ければ魔法少女的に美味しいな。良い絵が取れそうだ」
「……ルル様、また動画を撮って投稿してるの?」
「それは勿論。戦闘シーンや休憩中の一コマ、視聴者のリクエスト次第ではもっと過激な動画を作りたいな」
「ちょっと! 私に何をさせようとしてるのよ! 恥ずかしいのは嫌だからね!」
「恥ずかしければ恥ずかしいほど、感情エネルギーである羞恥エネルギーが貯まるのだ。むしろもっと恥ずかしがるのだ」
羞恥エネルギーって何なんのよ……魔法少女に謎の羞恥エネルギーなんていらないでしょうが……。
不満をルル様にぶつけるが、取り入ってくれないので諦める事にした。私の正体がバレなければ動画を撮られても、私生活に影響がないはずだ。……そうあって欲しい。
「む、ほのりん! あれを見てみろ!」
ルル様の言葉に反応し、イケメンアイドルグループの方を見てみると、紅いダンジョンゲートから鎧を着たスケルトンが3体現れた。あれがボスだろうか?
「くっ、この状況でボスを相手にするのはキツイ! 一旦体制を整えて仕切り直すぞ!」
「「おう!」」
イケメンアイドル館林俊の指示に皆が従う。
そして、撤退を始めたした時、退路を塞ぐ形で大量のアンデット達が地中からワラワラと湧き出してくる。
「ううぅぅぅ……」
「オオォォォオオォォォ……」
「カタカタカタカタ……」
「ほのりんよ出番だぞ! 練習通りにするのだぞ! そして奴らを助けて優越感に浸るのだ! フハハハッ」
「人助けはするけど、優越感に浸るのは嫌だよ……」
ルル様のキャラが分からない。少しサイコパス寄りなのが気になるが、それよりもイケメンアイドルグループを助けないといけない。
私はうさ耳カチューシャと精霊のポンチョを外すと隠れていた岩の上に立つ。
「わ…私は魔法少女ほのりん!」
突然の名乗りにイケメンアイドルグループの動きが止まると、アンデット達も襲うのを止めて私に視線を送る。
ひぃ! な、何で止まるの! 戦っててよ!
穂華の心の叫びは届く事なく、アンデット達やイケメンアイドルグループも無言の圧力を掛けてくる。
「え、え〜と……私が来たからには、モンスター達に好き勝手にさせないわ! 私のまじかる☆イリュージョンで星に変えてあげる! ……さぁ、私が相手にしている内に早く逃げて下さい! ……ほら! 早く早く!」
「お、おう……」
訳の分からない状況だが、館林俊率いるイケメンアイドルグループ達は、動きの止まったアンデット達の横をすり抜けると、安全地帯へと辿り着く。
ふう。緊張したぁ……。恥ずかしくて膝が震えてるのバレてないかな? それよりも、あのアンデット達、私を見たまま硬直してるけどどうしたのかな?
そんな事を思った瞬間、アンデット達が私に向って歩き出した。
「うわ! びっくりした!」
「ほのりん、まずはまじかる☆ドレスアップの耐久値とオタマトーンの攻撃力、格闘の威力をテストする。モンスター達の群れに突っ込め!」
「こ、怖い」
「安心しろ。ピンチになったら、例のまじかる☆アタッチメントを使ってみるんだ」
「……分かった」
私は【跳躍】を発動させると、岩を蹴り、モンスターの群れの中に飛び込む。
「ほのりーんキーック! ってうわーーー!」
跳躍で加速された“ほのりんキック”はスケルトンに直撃すると、抵抗無く骨を砕き貫通していく。多数のアンデットを巻き込みながら砂煙をあげてようやく止まった。
「あ痛たたた……」
思ったより飛び過ぎたし、スケルトンが脆くて失敗しちゃったよ……それでも注意を引けたし、実験も兼ねて暴れますか!
「ていやー!」
カタカタと音を鳴らしながらを迫りくるスケルトンに対し、素手で殴ったり蹴りを入れたりしながらモンスター達をなぎ倒していく。
以前テレビで見た回し蹴りをしてみたが、身体が硬いのか姿勢が悪く、足が全く上がっていない回し蹴りだった。それでもスケルトンの当たれば骨が砕け散り地面に倒れ落ちるので、頭蓋骨を踏み砕いて止めを刺す。
「うわ、ゾンビだ。アレには触りたくない……」
オタマトーンをくるくるっと回しポーズを取り、アメージンググレースのワンフレーズを演奏する。
「集え解放の光よ! ゾンビさんに安寧の眠りを! まじかる☆スターライト!」
強化されたまじかる☆スターライトはゾンビに直撃すると、半径役2mの範囲に星が溢れ出し爆発する。近くにいたゾンビやスケルトン、ゴースト達も巻き添えに遭うと、次々と光の粒子へと変わり消え去った。
その後も淡々とアンデットを殴りつけ、大剣を持ったスケルトンの攻撃も、まじかる☆シールドの耐久テストの実験に付き合って貰った後に昇天してもらった。南無。
『魔石を取得。スキルポイントが106ポイント付与され、合計が252ポイントになりました』
『12層へのアクセスが可能になりました』
「魔石ゲットしてもスキル取得無しか〜」
「魔石から得られる、まじかる☆スキルは特殊モンスターかクエストを達成しないと得られないな」
「なるほど、私が倒したあのモンスター達は特殊モンスターだったのか」
たしかに今思い返すと、デスボールやアリーフアネモネは擬態した触手モンスターだった。他のモンスターとは見た目も強さも違ったので、レアモンスターを探すのも良いかもしれない。
イケメンアイドルグループが近づいて来たのが分かったので、慌てて宝箱の中身をまじかる☆ボックスに投げ入れる。
「ほれ、我もドロップアイテムを集めて来たぞ」
「ありがとう助かる〜」
戦闘中はいちいち回収できないのでルル様が回収役である。
ダンジョンゲートに触れ12層を選択し、逃げるように私は次の階層へと向かった。
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