第27話 チュートリアル強行軍

 私は汗だくになりながら、ダンジョン内を駆け回っています。何故ならルル様が、夕方にまでに10層をクリアしろと無茶振りをしてきたからです。


 必死にうさ耳カチューシャで祭壇がある場所を探し、ひたすら走ってはモンスターを倒し、祭壇を見つければボスを撃破し、新しい階層の更新を進めています…………。




「ぜぇはぁぜぇはぁ……うう……吐きそう……」


「もう少しで10層のボスだ、頑張れ」


「ひぃ〜」




 も、もう限界……。




 足が縺れ、私はうつ伏せに倒れてしまった。




 み…水……私に水をおくれ……。




「ふむ、仕方がない。一息つくがいい」


「ははひぃ、ありがとう…ございます……」




 まじかる☆ボックスから水を取り出し、ごくごくと喉を鳴らしながら水を飲み干す。




「ぷは〜、疲れた〜」


「まだまだ修行が足りんな」


「そんな事言われても……」




 キツイのはキツイ。


 かれこれ4時間くらいは走っている気はする。


 普段の私なら30分も走れば疲労で走れなくなるが、魔法少女の姿だと不思議な事にそれほど疲れないのだ。しかし、流石に4時間も走り続けながらモンスターと戦い、ボス部屋に辿り着けばすぐに戦闘が始まるのでとても辛い。部活のシゴキ以上に辛い。




 特に1番辛かったのは、9層のボス部屋にある祭壇の前で、ルル様がわざと祭壇の前に近づき、紅いダンジョンゲートを起動させたのだ。


 ルル様のドSっぷりに抵抗できるハズもなく、私はヒィヒィ言いながらボスを倒した時が1番辛かった。




 私はまじかる☆ボックスから携帯バランス食を取り出し、2本の内1本を口に入れた。ちなみに味はフルーツ味だ。




「ほのりんよ、それは何だ?」


「携帯バランス栄養食の2本満足だよ、1本食べる?」




 食べたそうな顔をしているルル様に1本あげると、不思議そうな表情をしながらも一口噛じると金色の瞳を輝かせる。




「な、なんと! これは美味い……こんな物が外界にあるとは……これは興味深い……」




 小動物のように少しずつ噛じりなが、味わって食べるその姿は可愛いく見える。


 私も残りの2本満足を食べ一息つく。




「……なるほど、戦闘シーンだけではなく、素の時の映像もウケそうだな」


「ん? 何?」


「いや、こちらの話だ。さて休憩はもう済んだ。10層のボスに挑もうとではないか」


「……は〜い」




 私は重い腰を上げ、ボス部屋に入ると祭壇がある場所へと向かう。


 祭壇の上にある石が紅く輝き、紅いダンジョンゲートが開くと、1匹の巨体なモンスターが出て来た。




「わっ…人面豚? あ…オークかな?」


「そうだ、あれはオークと呼ばれるモンスターだ。力が強くタフだから気をつけろ」




 ファンタジー物の定番モンスターのオークだった。オークはよくゲームにも登場するモンスターで、人を襲う厄介者だ。


 ルル様の助言から判断すると、オークに近づくのは危険そうだ。




「!?」




 オークが紅いダンジョンゲートから出て来た瞬間、オークが手に持っていた石斧をこちらに向かって投げてきたのだ。


 咄嗟に回避し、石斧を投げて来たオークを再度目視すると、オークの背後に更に3体のオークが出現していた。




 くっ…私がやっていた出落ち先制攻撃作戦を、逆にやられた。オークの特性? それとも……。




 オークは地面を鳴らしながら、こちらに向って来くるのを確認すると、私は一番近くにいるオークに対して魔法を放つ。




「近寄らないで! まじかる☆スターライト!」




『まじかる☆スターライト 発動』




 キラキラ光る星の塊がオークに当たる直前、光の壁のような物に当たると、まじかる☆スターライトの威力が弱まったのか、オークに当っても一撃で倒せなかった。




「何で?」




『障壁の発動を確認。まじかる☆スターライトの威力が軽減されました』




 ポップアップしたウィンドウには、見慣れない内容が表示されていた。




 障壁? あのオークが何かやったのかな。でも予備動作は無かったから他のオーク? 




 背後にいるオーク3匹を確認すると、1匹だけ深緑色のローブを着ており、片手には短い杖を持っているオークがいた。もしかしたら、あのオークが私の魔法の威力を軽減したのかもしれない。




「ほのりんよ。モンスター達もパーティーを組んで来る場合があり、その者達は多種多様なスキルや魔法を使ってくる事がある。心してかかるのだ」




 心してかかれと言われても、既に戦闘は始まってるのですが……。


 弱気になっていては勝てる戦いも勝てない。


 セオリー通りに後衛から排除するのが楽かもね。




 私は正面から迫るオークに対して距離を取るべく走り出し、まじかる☆スターライトを連射する。




『まじかる☆スターライト 発動。威力が70%減少しました』




 減少しても構わない。これは牽制であり注意を逸らす為の攻撃だ。




『障壁の発動を確認。まじかる☆スターライトの威力が軽減されました』




 まじかる☆スターライトはオーク達に当たると、肌をポリポリと掻くだけでダメージらしいダメージを与えられていなかった。




 デスボールやミノタウロスだって直撃すれば一撃で倒せた魔法も、障壁の前では力不足のようだ。




「『まじかる』のパワーが足りないのかしれんな。本来なら障壁すら難なく貫く魔法少女の魔法だぞ?」


「むむむ。どうしてだろう?」


「連戦し過ぎたか」


「ルル様のせいじゃーん!」


「だが負ける気はないだろ?」


「勿論」


「なら行動で示すのだ!」


「言われなくても!」




 牽制攻撃のまじかる☆スターライトを放つ。


 威力を最小限に抑えながら指先に意識を集め、まじかる☆スターライトを唱えると、オタマトーンや手の平以外でも、まじかる☆スターライトが放てる事が分かった。


 指先から出るまじかる☆スターライトの威力は低いが、連射出来る事が分かったので、上手く活用していく。




『まじかる☆スターライト の派生魔法を確認』




『【まじかる☆グリッターネイル】を取得』




『【まじかる☆グリッターネイル】は即時発動可能です。威力は低いですが、目眩ましの効果があります』




 突然、指先から出していた、まじかる☆スターライトが変化し、爪が綺麗なネイルをしたかのようにキラキラ輝いている。




「何これ綺麗……じゃなくて急に新しい魔法覚えたんだけど!」


「まじかる☆スターライトの熟練度が上がったののだろう。使いこなしてみるがいい」


「……こうかな?」




 右手のネイルアートが施された爪先をオークに向けると、煌めく小な星がオーク達を襲う。


 眩しい閃光がオーク達の視界を塞ぎ、動きを止める事に成功した。




 お? これは使えるぞ。まじかる☆スターライトの劣化版だけど発動速度が早く、目眩ましの効果で相手の動きを封じる戦い方が可能になったね。




「ブモオオオ!」




 目の前で光のシャワーを浴びたオーク達が、苦しそうに目を抑えながら暴れだす。


 オーク同士がぶつかり合いバランスを崩すと、深緑色のローブを着たオークの杖が地面に転がり落ちる。




「ほのりん! チャンスだ!」


「わかった! まじかる☆ウエポン! おいで、オタマトーン!」




 オタマトーンが目の前に現れる。それを掴み、新体操のバトントワリングのようにくるくると回転させる。




「女性の敵、オーク! 成敗します! まじかる☆スターラーーイト!」




『まじかる☆スターライト 発動。威力が10%増加しました』




 キュートな世界がボス部屋を覆い尽くし、オーク達は纏めて星の海に飲まれていく。やがてオーク達はミルキーウェイの一部になると、魔石だけを残していった。




「みっしょん☆コンプリート! ……はぁ〜疲れた」


「最後が締まらないな」


「いや、もう限界だもん」




 ピコン。




『おめでとうございます。10層のボスが撃破された事を確認しました』




『チュートリアルをクリアした事により、魔法少女用クエストが表示されるようになりました。是非チャレンジしてみて下さい』




『チュートリアルをクリアした事により、女郎蜘蛛の巣クリア特典の報酬が支払われます。まじかる☆アタッチメント【アメイジングコスモ】を取得しました』




『渋谷ダンジョン11層へのアクセスが可能となりました』




『オークの魔石とオークメイジの魔石を取得しました。スキルポイントが20ポイント付与され、スキルポイントの合計は、1215ポイントになりました』






 ちょっと待って欲しい…色々ツッコミどころが多いぞ……。




「ふむ、混乱しているようだな? まずは順に説明してやろう」


「お願いします」


「まずは、クエストの表示と報酬だ。これは、ある条件をクリアすると度々得られるスキルやアイテムだ。これは今まで非表示だったのだ」


「それは何で?」


「テスト中だったダンジョンでは、これらの機能の一部を制限していたのだ。今回のメジャーアップデートで全てのハンター達が、このクエストの恩恵を得られるだろう」


「なら、私も今までクエストの内容を知らないで条件をクリアしていたの?」


「そうなるな」


「どんだけ簡単だったの……」


「簡単ではないぞ、ほのりんのEXクラス【魔法少女】はクラスの中でも最難関のクエストばかりだ。今までクリア出来たのが奇跡だ」


「え…そうなの?」


「そうだ。本来、最初に得るはずだった【魔法少女の相棒】は、適当にボスを倒せば我を召喚する事が出来るはずだったのだ。しかし、ほのりんは何故か色々と工程をすっ飛ばしてしまったのだ」


「え〜……」




 何かおかしいと思った。


 普通、魔法少女といったらサポート役に使い魔が居るはずである。


 それを得ずに数日ダンジョンの中を彷徨っていたのである。下手すれば、クエストの内容が分からず、ルル様とは中々会えないままだったかも知れないのだ。




「結果的に本来のルートに戻って来たから良しとする」


「いや全然良くないし」


「細かい事は気にするな」


「……次はアメイジングなんちゃらってアタッチメントの効果教えて」


「随分と適当だな……まぁ良い。このまじかる☆アタッチメントは、まじかる☆ウエポンに装着する事によって武器の形態が変わり、魔法少女専用の必殺技が使えるようになるのだ! どうだ凄いだろう! フハハハハッ!」


「それは凄いね。今度使ってみよう」


「そうだな。さて、宝箱の中身を回収して今日は切り上げようか」


「は〜い」




 宝箱を開けるとオークが着ていた深緑色のローブと、クラスチェンジオーブが入っていた。ルル様の鑑定によると、深緑色のローブは魔法耐性が上がるローブだった。そして、クラスチェンジオーブは【魔法使い】だった。




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