第26話 ダンジョンに出会い求めるのは…?

 穂華とルル様は渋谷ダンジョン3層のボス部屋にやって来た。道中の敵に苦戦する事もなく進み、順調と言っても良いだろう。




「ほのりんよ。10層まではチュートリアルだ。気軽に戦うがよい」


「と、言われても……見られながら戦うのが、非常にやり辛いんですが……」




 ダンジョン部屋に数組のパーティーが待機しており、約20人が穂華の一挙一動を注視していた。




 なんでこの人達は、私をジッと見ているのかな? 階層ボスと戦わないのかな……。




 彼らは私を見つけると、スマホを片手に私の後を付きまとって来るのだ。


 非常に気味が悪いが、早く次の階層に行きたい私は、彼らを無視してボスに挑もうとしているのだ。




 祭壇に近づくと、祭壇の上にある石が紅く発光し、紅いダンジョンゲートを出現させる。


 そして、ダンジョンゲートからゆっくり姿を表したのが、灰色の狼で名前をグレーウルフと呼ばれるモンスターだ。それが3体、紅いダンジョンゲートから現れた。




 ダンジョンゲートから現れるボスは、複数体出るんだよね。開幕に魔法を撃ち込んでおけば良かったかな。でもジロジロ見てるから、卑怯な技で倒すと何か言われても嫌だよね……。




 卑怯と言われるのも嫌だったが、何より恥ずかしくて、魔法を放つタイミングを逃したのはナイショだ。




「ガルルルル」


「グルルルル……」


「バウバウッバウッ!」




 グレーウルフはゆっくりと私を囲うように動き、隙きを伺っている様子だ。私はうさ耳カチューシャから聴こえる音を頼りに、背後にいるグレーウルフに警戒する。


 やがて、グレーウルフ達は最適な場所に移動できたのか動きを止め、いつでも飛びかかれる体勢になった。




 うさ耳カチューシャが背後にいるグレーウルフの動きを感じ取る。


 立体的に音を感じ取れる私は、背後から素早く迫るグレーウルフに対してタイミングを合わせ、身体を捻り腕を伸ばす。




「ほのりん裏けーーん!」




 ボゴッと鈍い音が腕から伝わる。


 私の裏拳がグレーウルフの側頭部に命中すると一撃で光の粒子に変わる。


 その光景を見たグレーウルフが慌てて飛び掛かって来るが、私はまじかる☆ウエポンのオタマトーンを呼び出す。




「オタマトーン! まじかる☆ミュージック♪スタート!」




 渋谷駅の埼京線発車メロディーを奏でる。


 新宿、大宮方面行き〜♪




「きらきらみらくる! まじかる☆スターライト!」




『まじかる☆スターライト 発動』




 まじかる☆スターライトの星は虹色の尾を引きながら旋回し、グレーハウンドの残り2匹を襲う。




「!?」


「キャイン!」




 グレーハウンドは、まじかる☆スターライトに巻き込まれると体が星に変わり、魔石を残して消えていく。






『グレーウルフの魔石を取得しました。スキルポイントを、7ポイント取得しました』






「らぶり〜ど〜る♪まじかる☆が〜る♡ほのりん☆ミが悪い子をやっつけたぞ♡」




 ぐおぉぉぉ! 人前でやってしまった…超恥ずかしいっ! 死ぬぅ〜〜。




『渋谷ダンジョン4層へのアクセスが可能になりました』




 好奇の目で見られている私は、早く次の階層に逃げたいが、目の前に出現した宝箱を放置する事はできない。さっさと中身を取り出したら次の階層に行こう。




 目の前の宝箱は少し大きめだったので期待して開けてみると、そこには丸い板が入っていた。何だこれ?




「ラウンドシールドだな」


「盾?」


「そうだ、ほのりんにとっては無用の長物だな」


「そっか、残念」




 まじかる☆ボックスにラウンドシールドを投げ込むと、私はダンジョンゲートに向かって歩き出す。


 すると突然、背後で私を呼び止める声が聞こえる。




「すみません、ちょっといいですか?」


「? 何でしょうか?」


「もし良かったらパーティー組みませんか?」


「……間に合ってます」




 そんなの無理に決まってるじゃない。私は恥ずかしいから人目を避けて、コソコソとダンジョンに潜っているのに、何故見ず知らずの人とパーティーを組まないといけないのか……。




「別にいいじゃないですか、4階層だけで良いんで一緒に行こうよ、ねぇ」


「はい?」




 何が「別にいいじゃいですか」よ、私は良くないから断ってるのに、なんなのまったくもう。




「ここのダンジョンは10層まではチュートリアルらしいので頑張って下さい。もし11層以降で出会ったら考えても良いですよ。それでは」


「あっ…ちょっと!」




 私はそそくさとダンジョンゲートに触れて、ウィンドウに表示された渋谷ダンジョン4層を選択し、ダンジョンゲートに飛び込む。






「良かったのか? ダンジョンは出逢いの場だぞ?」


「私にとっては、出遇いの場だね」


「? 同じ意味ではないのか?」




 日本語って難しいね。同じ言葉なのに意味が違うんだもん。


 ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているのだろうか? 今の時代、間違っているとは思わないが、吊り橋効果の恋愛は長く続かないと言われている。


 まぁ、女性ひとりや少数パーティーよりかは安全だと思うが、男の人は獣だ。何を考えているか分からないので、用心に越した事はない。




 ▽




 4層も3層と同じ風景が広がる洞窟だ。


 出現するモンスターは新たにグレーウルフが追加され、難易度が上がった感じがする。


 グレーウルフは群れで行動する傾向があり、最低でも2匹で行動して襲って来る。しかも頭が良いので1匹が囮をしてる間に背後から襲って来るパターンが多くて気が休まる時間は少なかった。


 それでも私とルル様は襲いかかるモンスター達を返り討ちにし、4層のボス部屋までやって来れた。




「ここには人は居ないようだな」


「ふぅ〜良かった。見られながら戦うのって恥ずかしいから」


「見られた方が魔法少女的には良いではないか」


「なんでよ、恥ずかしいだけじゃない」


「魔法少女の力の源である【ナヴァラトナ】は感情をエネルギーにしている。例えば喜怒哀楽だな。そして、ほのりんの羞恥の感情エネルギーは、基本の感情エネルギーよりも遥かに上だ」




 ナ…ナヴァ…何? 羞恥の感情エネルギーって何なの? ルル様の頭大丈夫?




「いずれ詳しく説明する。今は10層をクリアする事に専念するのだ」


「10層? チュートリアルをクリアしろって事かな?」


「そうだ。何時までもこんな場所で油を売っている暇は無い。強敵がいつ襲って来るかもわからん。早く魔法少女のランクを上げ、最強の魔法少女になるのだ! フハハハッ!」




 ルル様は見た目は可愛いのだが、口調と声質が可愛くないのが不満だ。しかし、私の知らない事を沢山知っているし、鑑定眼が有能するぎるので、いちいちダンジョンセンターの換金所で鑑定依頼で待たされる事も無さそうだ。あ、でもダンジョンセンターでも分からない物は直ぐに売れないかな……。




「さぁ、ほのりんよ。もたもたするな! 夕方までに10層をクリアするぞ!」


「え〜〜〜!」


「急げ!」


「は〜い……」




 急にスパルタになったルル様は少し怖いが、報酬も気になるので渋々と祭壇に近づく。


 私が近づくと祭壇の上にある石が紅く輝き出し、紅いダンジョンゲートが開く。




「それでは開幕の一撃、らんらんみらくる〜♡まじかる☆スターラーイト!」




 オタマトーンの口から、ファンシーなエフェクトと共に星とハートの塊が放たれると、ダンジョンゲートから出て来た巨大キノコのお化けが、まじかる☆スターライトの直撃を受け悲鳴を上げながら星になって消えていく。




「ほのりんは容赦ないな! フハハハッ!」




 続け様にまじかる☆スターライトを放ち、追加で出て来た巨大キノコのお化けを星に変えて行く。




「全く手応えがないな。早く11層に行きたいものだな」




 私はもっとゆっくりと攻略したい気持ちがあったけど、ボスを倒すと宝箱が確実に手に入るので、それが楽しみだったりする。


 ルル様の話によると、アップデート後の渋谷ダンジョンは1層から10層までのドロップ率は低く、美味しく無いそうなので、早く11層に入り稼いだ方が良いみたいだ。




 仕方ないからルル様の指示に従おう……。




 宝箱の中身をまじかる☆ボックスに投げ込み、私は次の階層へと進んだ。










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