第24話 Chrome Tempest
―― am8:00 USA Los Angeles某ホテル。
2日前、穂華がルル様と共に渋谷レイドダンジョンを前代未聞のソロでクリアし、ダンジョンのメジャーアップデードが始まって約1時間が過ぎた頃、ダンジョンランキング1位のMike R.Evansが『Chrome Tempest』のチームメンバーと拠点にしているホテルに集まっていた。
鍛え抜かれた身体に、長髪でホワイトブロンドの髪が特徴のマイクは、ワインを片手にソファーに腰を深く沈めて、正面にある大型のテレビを見ていた。
そんなマイクを見兼ねてか、髪色はブラウンで短髪、全身を筋肉の鎧で包んだ同チームメンバーのCalvin Mark Lynnが話しかけた。
「ヘイ、マイク? ダンジョンから締め出されて機嫌が悪いのか?」
「最高に機嫌が悪いな」
「あんだけ準備して、いざボスに挑戦しようって時にこれだもんな」
マイクとカルビンが見ていた大型の液晶に映し出されているのは、ロサンゼルスにあるグリフィスダンジョン前だ。
つい1時間ほど前まで、マイク R.エバンス率いるハンターチーム、クロムテンペストが階層ボスに挑もうとしていたのだが、それが突然のダンジョンからの強制退去である。
エバンスは顔には出てないが、普段飲まない酒を飲み、テレビに映し出される世界中のダンジョンの状況を確認していた。
「ねぇ、マイク」
「なんだメアリー?」
Melanie Cross。メアリーと呼ばれた女性は、クロムテンペストのメンバーで、モデル並みの体型と美しい顔にプラチナブロンドの長い髪持つ彼女は、戦闘要員ではチームの紅一点である。
そんな彼女がタブレットPCを片手に、マイクが座るソファーの横に座ると、身体を絡みつかせる。
「興味深い情報を見つけたわ。まずコレを見て」
メアリーがタブレットPCに表示させているのはダンジョンデータベース、通称DDBのトップ画面が映し出されていた。
「ん? これは?」
「DDBのトップに、現在ダンジョンで起こっている事が書かれているわ」
マイクが目を通すとそこには、世界で初めてレイドダンジョンの攻略と初めてソロでレイドダンジョンをクリアした者が現れた事が書かれていた。
「これは本当か? フェイクじゃなければ、かなりクレイジーだ」
「これは事実よ」
カルビンがビール瓶を一気飲みをし、ゲップをするとエバンス達に向かって話し出す。
「それが事実なら俺達より強いって事になるぜ? 何せ俺らは8年前に全滅しているからな」
「「……」」
今から約8年前、ここにいるクロムテンペストのチームらは、元アメリカ海軍のUnited States Navy SEALsのメンバーだった。
当時、アメリカは軍を投入してダンジョンを攻略し、ダンジョンから得られる資源を回収していた。
そして、とある部隊が約30センチの銀色の鍵を見つけ、アメリカのダンジョン研究所で詳しく調べられた。
その結果、この鍵はダンジョンゲートに差し込むと、別のダンジョンへ挑戦できる物だと判明。
マイク達が所属するUnited States Navy SEALsに攻略命令が下されたのだ。
そして、その鍵を使いレイドダンジョンに挑戦したはマイク達は、地獄を味わう事になる。
3つのチームが本作戦に投入されたが、僅か30分で部隊は半壊してしまったのだ。
Navy SEALsを半壊させたモンスターは、大型のカマキリだった。それも無数の数に襲われたのだ。
必死に抵抗したが、空を縦横無尽に飛び回り、巨大な鎌を一振りすれば隊員達の身体は両断され、大きな口で頭から捕食されていく。
そんな光景を見た隊員達はパニックを起こし、精神を壊す者や逃げ出す者が続出したのだ。
当時の部隊長が、作戦を続行する事が不可能と判断し、全部隊の撤退命令を下した。
必死に撤退する中、殿を努めた大半の隊員が死亡してしまったが、マイクを含めカルビンとメアリーは命からがら、レイドダンジョンから抜け出すことができたのだ。
「あのダンジョンをソロで? どんな奴がクリアしたんだ?」
今も夢に出て来るほどに、あの作戦は地獄だった。
あの作戦に参加したNavy SEALsの半数は軍を退役し、残りの半分は病院送りだ。エバンス達も1ヶ月休養した後、軍を辞めた。
その後、アメリカ政府の要請により、エバンスはダンジョンの調査と攻略、人材の育成の為に、当時あの作戦に参加していたカルビンとメアリーを誘い、私設部隊を立ち上げたのだ。
「これも見て」
メアリーがタブレットPCを操作し、ダンジョンのメジャーアップデート情報が記載された文を見せる。
「ダンジョンのステージ変更?」
「ええ、他にもモンスターの強さの調整、宝箱の出現調整、世界中に小規模ダンジョンの追加、攻略階層のリセットよ」
「なんだって!?」
メアリーが説明すると、大声を上げたのはマークリンだった。
「俺たちの8年はなんだったんだ。このアップデートの内容もゲームみたいだ。俺達の仲間はこんなクソゲーの為に死んだのか?」
「カルビン=マークリン、落ち着けよ」
「……すまねぇ。少し感情的になっちまった」
「お前の気持ちも分かる。これはクソゲーだ。正真正銘のな」
重い空気が広がるスイートルームにはテレビ流れる中継の音声だけが流れるが、そんな重い空気をぶち壊す情報を持ったクロムテンペストの隊員が、エバンス達がいるスイートルームの一室に飛び込んで来た。
「隊長! いますか!」
「どうしたの? マイクならいるわよ?」
「レイドダンジョンをクリアした奴の動画が出回ってるんです!」
「何ですって!?」
「これを見て下さい」
スイートルームに設置されたPCを操作し、先程からテレビ中継を流していた大型液晶の画面が切り替わる。
「これは……」
「巫山戯た格好をしているな」
「……だが強いな。顔立ちからしてアジア人? 日本語を話してるから日本人だな」
「あら、マイクは日本語わかるの?」
「横須賀基地にいた事があった」
「ふ〜ん」
映像から流れる景色は、マイク達が味わった地獄と酷似していた。ひとつ違うとすれば、戦っているモンスターがカマキリではなく、蜘蛛だと言うことくらいだ。
「こいつはDTuberなのか?」
エバンスがマークリンに聞くとマークリンは首をすくみ答える。
「わからねぇな。メアリー分かるか?」
「ん〜、今日登録したばっかりのチャンネルね。しかもリアルタイムで登録者と再生が伸びてるわ。名前は……マジカルガール・ホノリンって名前ね。これってダンジョンランキング9位にいる人と同名の人じゃない?」
カルビンは新しいビールを冷蔵庫から取り出すと、数日前にネットで話題になっていた人物を思い出す。
「……あいつか…数日前に話題になった奴だな。名前をイジった不正ハンターってネットで騒がれていたな」
「日本のアニメにマジカルガールを題材にした物があったな。だから見た目が戦闘には向かないフリフリした派手な衣装なのか」
「マイクは日本カルチャー好きなのか?」
「好きか嫌いかで言えば好きだな。例えば一発殴ると、どんな強敵でも倒せるヒーローアニメとかだな」
そして映像は変わり、超巨大な女郎蜘蛛が姿を現し、少女を捕食しようと、薄気味悪い顔を近づけているシーンが映し出される。
「フ◯ック! レイドダンジョンの奥にはこんな化け物がいたのかよ!」
「私達が行ったレイドダンジョンにもボスがいたかもね」
「…………」
《届け煌めく流星、まじかる☆スターラーーーイト!》
手に汗握る戦闘が続き、マジカルガールが黒い棒に丸い顔が付いた物を操作すると、アニメの必殺技のようなエフェクトが画面を覆い尽くす。
そして、その攻撃の直撃を受けた巨大な女郎蜘蛛は爆散し、宝石箱の中身をばら撒いたかのように美しく散っていった。
「「おー」」
思わずマイクも唸ってしまった。
それ程マジカルガールは強く美しかったのだ。
見た目はアレだが実力は本物で、未知のクラスに未知の武器に未知の魔法とスキル。
どれもエバンスの知識にはない物だった。
「欲しいな」
「え?」
「俺はあの女が欲しい」
「マジかよ! マイクってロリータコンプレックスなのか? どうみても14から16歳くらいだぜ?」
「……クロムテンペストにって事だよ」
「もう! 私を抱かないで、あの女を抱いたら怒るわよ!」
メアリーの発言に興味が無いのか、動画をまた最初から見直し始めるマイク。
「……ダンジョンの攻略層はリセットされるんだよな?」
「そうらしいわよ」
「なら、俺達は日本に行くぞ」
「はぁ!? ちょっと待てよマイク。スポンサーや政府からの依頼はどうすんだよ?」
「その為に俺達が育てている奴らがいるだろう。部隊を再編成し、グリフィスダンジョンを攻略させろ。俺達は日本へ行く」
「俺達!? 俺とメアリーもか?」
「なんだ不服か? 断ってもいいぞ」
「ハハッ! 行くに決まってんじゃん。日本は飯が美味いって言うからな楽しみだぜ!」
「私も行くわ。マジカルガールに興味あるし」
「なら決まりだ。荷物を纏めてパトリオット・エクスプレスで行くぞ」
「「了解」」
その日の深夜、Los Angeles空港から日本の米軍基地に向けて1機の旅客機が飛び立った。
その旅客機にはダンジョンランキング1位のMike R.Evans、12位のCalvin Mark Lynn、そして、15位のMelanie Crossと数人のChrome Tempestの隊員が乗り込んでいた。
そのニュースは即話題になり、彼らの動向に注目が集まる事となった。
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