第23話 ルル様の鑑定眼

「ところで、ほのりん。女郎蜘蛛の巣から持ち帰ったアイテムがあるだろう? 我が鑑定してやろう」




 急に話の話題を変えてきたルル様に思うところはあるが、ルル様の発言内容に興味が湧いてきた。




「え? 鑑定できるの?」


「フッフッフッ。我には、この! 鑑定眼! があるからな」




 鑑定眼とは? スキルなのかな? それがあったから女郎蜘蛛の弱点を見つける事が出来たのか。ルル様の鑑定眼があればモンスターの弱点やアイテム鑑定に役に立ちそうね。




「なら、まじかる☆アタッチメントの精霊のポンチョの効果を教えて」


「ふむ。鑑定眼を使うまでもない。精霊のポンチョは身につけると、身体が軽くなるのと同時に、人やモンスターから姿を隠せる優れ物だ。しかし、激しく動いたりダメージを受けたりすると、精霊のポンチョが外れてしまうから注意せよ」




 精霊のポンチョ。使いようによってはかなり便利かもしれない。


 例えば、モンスターから隠れる時や、他のハンターから隠れる時にも使えると思うの。




「じゃあ、次はこれを鑑定してみて?」




 私は、まじかる☆ボックスから3つのスキルクリスタルと3つのクラスチェンジオーブ、3本の液体が入った薬を取り出した。




「ほうほう……まずはスキルクリスタルだが、【麻痺攻撃】【跳躍】【溶解液】だ」




 跳躍は被ってるので要らない。麻痺攻撃は兎も角、溶解液って……。




「溶解液ってなんですか?」


「口から物を溶かす液を吐いて攻撃するスキルだ」




 いらない……。溶解液を吐いて攻撃って、もはやモンスターじゃん。個人的にも魔法少女的にも絶対にいらないので売ってしまおう。




「スキルは重複しても効果は出ない、跳躍はいらないだろう。次は麻痺攻撃だな。これは噛みついたり、引っ掻いたり、武器で攻撃しないと発動しないタイプだな」


「なら私にとってはハズレかぁ……」


「スキルは様々な物があるが、今回はハズレだったようだな」




 戦っていれば、スキルクリスタルはその内手に入るだろう。




「ルル様、この瓶に入った薬は分かる?」


「どれどれ……これはポーション、ハイポーション、性転換薬だな」


「んん!? 性転換?」


「そうだ。ほのりんなら女性から男性に変わる。永遠にな」




 ひぇ〜。これは欲しい人には喉から手が出るほど欲しいアイテムじゃん! これは高くうれそうだ。




「しかし、これらのアイテムを売るとなると、ほのりんの正体がバレてしまうのでは?」


「ハッ!?」




 そうだ……。元が底辺な私が、こんなに沢山のアイテムを売りに来たら怪しまれちゃう。


 正体を隠して売ることはできないかな?




「ルル様、私が正体を隠してお金を得るには、どうしたら良い?」


「う〜む、いくつか方法はあるが……そうだな…まず、協力者を得て売って貰う方法だな」


「それって私の正体を知った上でってことよね?」


「そうなる。他には魔法少女の姿で換金所に行くかだな」


「……どれも却下。恥ずかしいから無理」


「そうなると、倉庫の肥やしになるな」


「ぐぬぬ……」




 ルル様が提案した案は、どれも現実的で確実に換金できるけど、私の正体をバラしてまでお金を得たいとは思わない。魔法少女のままダンジョンセンターに行くのなんて、どんな羞恥プレイだろうか。私にそんな性癖はない……と、思う。




「回復手段が無いから、ポーションとハイポーションは売らなくてもよいと思うぞ」


「そうだね。持っておくよ」




 そうなると無難に売れるアイテムが蜘蛛の糸が10個だ。


 先日、蜘蛛の糸を鞄に9個と、まじかる☆ボックスに1個を入れたので、小出しで売れば疑われる心配もないだろう。




 さて、最後のクラスチェンジオーブだ。


 私は魔法少女から変えるつもりはないけど、このクラスチェンジオーブから、どんなクラスに成れるのかが知りたい。




「ふむふむ。ほのりんには全く必要の無いアイテムだが、鑑定してみよう」


「お願いします!」




 ルル様の金色の瞳がキラリと光る。




「出たぞ。これは【侍】【陰陽師】【モンスター使い】のクラスチェンジオーブだ。どれも珍しいクラスだが、魔法少女に比べると劣るな」


「ほへ〜、どれも高く売れそうね」


「売れ無ければ、ただのゴミだがな」




 確かに私が使わない以上、換金以外使い道がないのが事実だ。


 ダンジョンセンターで売ると目立つし、かと言って路上で販売するにもリスクがある。それは、お金が払われない場合や、奪われたりする事があるので、ダンジョンセンターで売買しない場合は契約書を交わし、適切な場所で取引する必要がある。残念ながら今の私に、そんなことをする余裕はないのだ。




 まじかる☆ボックスに鑑定したアイテムを投げ入れる。






 スキルクリスタル〈麻痺攻撃〉×1


 スキルクリスタル〈跳躍〉×1


 スキルクリスタル〈溶解液〉×1


 クラスチェンジオーブ〈侍〉×1


 クラスチェンジオーブ〈陰陽師〉×1


 クラスチェンジオーブ〈モンスター使い〉×1


 ポーション ×1


 ハイポーション ×1


 性転換薬 ×1


 蜘蛛の糸 ×10


 鞄 ×1




 まじかる☆ボックスには鞄を入れてある。これには理由があって、まず、魔法少女に変身すると戦闘の邪魔になる可能性がある。そして、普段の私と魔法少女の私の持ち物が、同じなのを避ける為である。






「さて、アイテム整理も終わったことだ。先日、ダンジョンのメジャーアップデートが行われ事は知っているか?」


「たしか、ニュースでやってた。ハンター達がダンジョンゲートから締め出されたって話しを聞いたよ」


「そうだ、世界中に在るダンジョンの中が、かなり様変わりしているはずだ」




 私は辺りを見渡すが、特に変わった様子は無いように見える。岩が剥き出しの洞窟のダンジョンだ。




「ルル様、何が変わったの?」


「まず、全てのハンター達は10層からやり直しになった」


「え? なんで?」


「元々、以前のダンジョンはチュートリアルとして機能しており、本来の運行は行われていないのだ。そして先日、ほのりんが渋谷レイドをクリアした事により、正式にダンジョンが稼働した訳だ」




 今までのダンジョンは、ゲームで言うとβテストを行っていたようだ。私が渋谷レイドをクリアした事によって、全てのテストが終わり正式にサービスが開始されたのだろう。




「なんかゲームみたい」


「残念ながらゲームではない。しかし、神と呼ばれる超常的な存在から見れば、このダンジョンはゲームなのかもな」


「え…神様っているの?」


「……我が神だ。讃えるがいい! フハハハッ!」




 ……ルル様は使い魔なのか使者なのか…それとも神なのか分からない。ただ偉そうな空を飛ぶ猫とオコジョを足して2で割った謎の生物なのは分かる。天使の輪が頭部の上に浮かんでいるが、背中にはコウモリの羽のような物がパタパタしており、天使か悪魔なのかもハッキリもしない。本当に謎である。




「そんな事より、私も41層に行けないって事?」


「そうだ。ダンジョンゲートには選択肢は残っているが、転移できない。最大で10層からスタートする事になっている。ほのりんは3層からだな」


「なら、トップランカー達も10層から再スタートなんだ。大変だね」


「大変だろう。なにせ10層毎から環境ダンジョンが設置され、中には入る度に構造が変わるエリアもある。更にモンスターの強さが1段階上がり難易度はイージーモードからベリーハードモードに変わったからな」




 い、1段階どころじゃない! 3段階や4段階も上がってるじゃない。これではまともに攻略するのも、難しくなってしまったのでは……。




「その代わりアイテムのドロップ率も上がっているし、強くなる機会はいくらでもある。それはほのりんも同じ事だ。ライバル達を蹴落とし、ランキング1位を目指すのだ! フハハハッ!」




 ダンジョンが出来て早10年。


 その10年で様々な事が起きたが、実はまだスタートラインにも我々は立っていなかったのだ。




 ダンジョンとは何なのか? 


 世界の混乱はまだまだ続きそうだ。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る