第14話 珈琲の魅力
翌朝、目が覚めると既に日は昇っており、布団から這い出るとダイニングへと向かう。
ダイニングにはコーヒーの香りとパンの焼ける香りが漂っており、まだ眠そうな目が覚醒していく。
「おはよう。昨日はよく寝れた?」
「おはようございます、咲さん。お陰様でぐっすり眠れました」
「それは良かった」
椅子に座るよう促され私は着席すると、昨日も飲んだ香りが豊かな珈琲と美味しそう焼き目が付いたトーストが目の前に出される。
「どうぞお食べ」
「いただきます」
トーストはバターのみだが塩味がバターの甘みとトーストの甘みを引き立て、ブラックコーヒーを一口飲むと口の中をリセットしてくれる。
ブラックコーヒーの香りと苦味で完全に目が覚醒すると、咲さんが私の前に座り話しかけてくる。
「穂華、うちでバイトしない?」
「バイトですか?」
「そうそう、モーニングの時間帯だけやらない? まひるを保育園に預けたり家の事を少しやりたいのよ」
「全然いいですよ、元々バイト探すつもりだったので」
「んじゃ決まりね。宿代を安くしてあげるからしっかりやってもらうよ」
「宜しくお願いします」
咲さんから、『喫茶しぐれ』について説明を受ける。
モーニングの時間とは早朝からお昼前までの時間を営業している事を言う。
喫茶しぐれのオープンは朝7時からオープンするので必然的に朝6時前には仕込みを始めないといけない。
朝のモーニングメニューは決まっているので、作り方をおぼえれば比較的楽なバイトであるが、あえて大変な例を言うならば珈琲の淹れ方を覚えるのが一番難しいらしい。
珈琲豆の種類にブレンドの比率、珈琲を淹れる道具に淹れ方など、覚えることは沢山あるがやり甲斐はありそうだ。
「うちの店は注文を受けてから珈琲豆を手動のコーヒーミルで挽いて提供してるから作るのに少し時間がかかるよ」
「コーヒーミルってなんですか?」
「コーヒーミルはこれだよ」
咲さんが見せてくれたのは、金属のハンドルがついた箱だった。
上部は金属で出来ていて、ハンドルを回すことができるようだ。下部は木の箱になっており、ここに豆を入れるのだろうか?
「使い方はこうだよ」
金属の部分が開くと豆を入れる場所が出て来た、ここに入れてハンドルを回して豆を挽くのだろう。
「このギャップと言われるパーツを締めたり緩めたりすると、豆の細かさを調整出来るよ。うちは粗めでやってるけど、珈琲の淹れ方や好みもあるから色々試してみて」
「おおお……」
よく分からないけど凄い……。
コンビニやファーストフードのコーヒーを淹れる機械を見た事があるけど、あれはボタンを押すと勝手に豆を挽いてコーヒーを作ってくれる機械だったはず。
今手元にあるコーヒーミルは手動で豆を挽くタイプなので小さくて可愛い。
「あ、そういえば下のお店に沢山コーヒーミルが置いてありましたね」
「そうそう、実はあれも売り物でね、たまにお客さんが買っていくよ」
あれも売り物だったのかと少し驚いた。
大小様々なコーヒーミルが置いてあり、縦長の物もあれば、携帯用なのか小さい物あったり、動物の形をした可愛いコーヒーミルまであった。
珈琲を飲みながらコーヒーミルを眺めるのも中々乙なものかもしれない。
「穂華にも豆を挽いてお客さんに出して貰うから、しっかり練習してね。古い豆なら沢山あるかいくらでも挽いて作ってみなさい」
「わ、わかりました」
咲さんからコーヒーミルを手渡され、早速豆を入れてガリゴリ挽いてみると珈琲粉が出来た。挽きたての香りがとても良い匂いだ。
コーヒーカップにドリッパーを置き、ペーパー乗せ、珈琲粉を入れてお湯を注ぐと、ポタポタと濃い茶色い液体が出てくる。
お湯を注ぎ足し、最後まで珈琲を出し切って完成だ。
「飲んでみて」
言われるがまま、私が初めて淹れた珈琲を飲んでみると、珈琲の味はするが薄く雑味があり苦い。お世辞でも美味しいとは言えない物だった。
「…美味しくないです……」
「あははは、この豆は少し古いけど朝淹れた物と同じ物だよ」
「えー! 全然味が違うんですけど!」
「フッフッフッ。珈琲は豆もそうだけど、淹れ方次第で美味しくなるのさ」
「ほほ〜」
珈琲の奥深さにとても興味が湧いた。
毎日美味しい珈琲を飲む為には美味しい淹れ方をしっかり勉強する必要がある。
暫くは喫茶しぐれにお世話になるのでお小遣いを稼ぎつつ、珈琲の勉強ができるなんて最高の環境だ。
咲さんと珈琲についてアレコレ話していると、隣の部屋から寝ぼけまなこな顔をした1人の女の子がダイニングに入って来た。
「おはよう〜…むにゃむにゃ…」
「あ、まひるちゃんおはよう」
私は寝起きのまひるちゃんに朝の挨拶をする。
寝ぼけたまま私の顔を見て固まったこの幼い子は、咲さんの愛娘の肱田 まひるちゃん5歳の年長さんだ。
私の顔を見て固まっていたまひるちゃんは目が覚めたのか大きな声で私の名前を呼んだ。
「ほのかおねーちゃんだー!」
「まひるちゃん久し振りだね〜、前に会った時より、お姉さんになってるね」
「なんでなんで!? ほのかおねーちゃんいるの?」
私がお風呂に入っている間に、既にまひるちゃんは夢の中だったのだ。
よく寝るし早起きの元気印のまひるちゃんは、早朝に私がいるのでとても驚いている様子だった。
「実はね、まひるちゃんのお家にお泊りしたの」
「えーなんでなんで?」
「なんでだろうね〜?」
「こら、まひる。保育園の準備するから朝ご飯食べちゃいなさい」
「はーい」
咲さんの言う事をしっかり聞くいい子のまひるちゃんはとても可愛い。
私もこんな可愛い妹が欲しかったが、私が23歳になっても結局妹も弟もできなかった訳だが……。
まひるちゃんの朝食はトーストに苺ジャムを乗せ、サラダと目玉焼きに牛乳、デザートにバナナでとても健康的だった。
美味しそうに食べるまひるちゃんに私は話しかける。
「実はお姉ちゃん、暫くまひるちゃんのお家にお泊りするからよろしくね」
「えー!? 本当!? やったー!」
素直に喜ぶまひるちゃんに私も笑顔が溢れる。
はぁ可愛い。癒やされる〜。
可愛い笑顔のまひるちゃんを見ながら、私が淹れた珈琲を飲む。不味いけど幸せだ。
「ほら、時間無いわよ早く!」
咲さんがまひるちゃんを叱るが、悪びれる様子もなく、私が泊まる事をずっと喜んでいた。
まひるちゃんは朝食を済ませて着替えを終えた後、咲さんに連れられて保育園に行ってしまった。
もう少しお話をしたかったが、まひるちゃんが保育園から帰って来るまでお預けだ。
その後、保育園にまひるちゃんを送った咲さんが帰ってくると、咲さんから珈琲の淹れ方を徹底的に教わった。
豆の種類から挽き方、ドリッパーやペーパーを、お湯で洗うひと手間や、お湯を注ぐ時の注意点などを教われば教わるほど珈琲の魅力が伝わってくる。
何杯も珈琲を作っていると、最初に作った珈琲よりもエグ味が消え、なんとか飲める珈琲になった。
咲さんからも「これならぎりぎりお客さんに出せるわね」と言われたので、しっかりメモを取った。
最後にお店で使うサイフォンの使い方も習ったが、科学実験をしているみたいで楽しかった。
「はぁ〜……ダイニングが珈琲の香りでいっぱいだ」
5杯目くらいでお腹がタプタプになってしまった。
カフェインを取り過ぎるとカフェイン中毒になると咲さんから注意されたので、コーヒーを淹れる練習はここまでにした。
その後昼食を食べ、一息つくとステータスウィンドウを開く。
名前 十条穂華
ダンジョンランキング 圏外
レベル 1
称号 なし
クラス なし
HP 10/10
MP 1
力 1
体力 1
魔力 0
速さ 1
運 1
私のレベルは上がっていない。
魔法少女のレベルもなしになっていた。
魔法少女の魔法や衣装は強いが、レベルが上がらないと強くなれないのでは? と思ったが、初めて魔法少女になった時に表示されたウィンドウのう内容を思いだす。
『魔法少女の力は無限大です、貴女の目指す魔法少女を創り上げて下さい』
『それは唯一無二です』
成長しない魔法少女。
しかし魔法少女の力は無限大。
唯一無二の魔法少女。
どう言う意味かは分からないけど、ダンジョンに行って色々試さないと分からない事だらけだ。
バイトが終われば暇な時間がいっぱいあるし、他のスキルの事も知りたいので、ダンジョンへ行くのも良いかも知れない。
「さてと……咲さん、少し外に出に行ってきます」
「夕食までには帰って来なさいよ」
「はーい」
まるで本当のお母さんみたいだ。
昨夜の内に洗濯してもらった服に袖を通し、私は駅に向かい渋谷へと足を運んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます