第15話 渋谷ダンジョンへ
私は渋谷ダンジョンセンターにやって来た。
明日からはバイトも始まるし、お金に困らなくなったのでダンジョンに来なくてもよかった。
しかし、憧れの魔法少女になれたのだからバイト終わりの後は、ダンジョンで魔法少女として密かに活動しようと決めた。
新しいスキルや、スキルポイント集めたり、まじかる☆アタッチメントなる物を集めるのも面白いかもしれないと思ったからだ。
私はこういった収集系は結構好きだったりする。
特に、新しいスキル『魔法少女の相棒』はとても気になる。
可愛らしいデザインのお供が仲間になったらテンションが上がること間違い無しだろう。
そういえば、昨日ダンジョンから出てからスキルロック解除のウィンドウが出たけど、あの条件って何だったのかな?
思い返しても特別何かしたとは考え難い。強いて言えば1階層のボスであるゴブリンを倒したくらいだろうか?
ボスを倒してスキルゲットチャンスがあるなら是非挑戦したいものだ。
ひとまず、ガイドブックも買ったし、まだ会ったことのないモンスターを退治しつつポイント集めかな……。
渋谷ダンジョンセンターでアタック申請を済ませ、渋谷ダンジョンゲートへ辿り着く。
明日から土日の連休だから人が多いな〜。1層が凄い混むもしれない。
渋谷ダンジョンは日本で最大規模のダンジョンである。
現在、東京には渋谷ダンジョンしかないが、他にも札幌の時計台ダンジョン、名古屋の白鳥ダンジョン、九州の熊本城ダンジョンがある。
どのダンジョンも大きいが渋谷ダンジョンが広域で1番深いと言われており、アクセスの良さから冒険者達が1番集まると言われている。
私の番になるのに、昨日の倍の30分も掛かってしまった。
早速、ダンジョンゲートに入ると既に先客がいるようで2組みのパーティーがいた。
うわータイミング悪ぅ…、これじゃ変身できないじゃん……。
男性のみのパーティーと男女混合のパーティーがダンジョンの中で何やら大声で話しているのが聞こえる。
その会話の内容を聴くと、どうやらどのグループがこの先の一本道を先に進むかで揉めているらしいのだ。正直どっちでもいいので早く決めて欲しいのだが……。
「俺達が先にゲートから来たんだから俺達が先だろう」
「は? ほぼ同時だろ、なんでお前達が先になるんだよ」
「五月蠅え殺すぞ」
「あぁ!? やんのかコラァ」
お互いのリーダー同士だろうか、顔面を近づけて凄い形相でいがみ合っており、キスしちゃうんじゃないかとハラハラして見ていると、男性グループのパーティーの1人が私の姿に気がつくと近寄って来た。
「ねえねえ、もしかして君ひとり?」
「そ、そうですけど……」
「見た感じ手ぶらだけど大丈夫? 俺達のパーティーに来ない?」
明らかに下心丸出しの男に嫌悪感を感じる。あの時死んでしまった2人組の思いだしてしまった……。
こういったパーティーと関わると、ろくな目に遭わないので塩対応で拒否するのが良いだろう。
「結構です。私、先を急ぐので先に行ってもいいですか?」
「「ふざけるな!」」
え!? なんで?
2グループのリーダーっぽい人達が声をハモらせ私に対して怒鳴りだす。
私何か悪い事した? 何なのこの人達……。
変身できないとモンスターとも戦えなしい、前にも進めない。
この状況をどうやって乗り切るか困っていると、ダンジョンゲートからまた1つのパーティーがやってくる。
どれほどの人数が渋谷ダンジョンに詰めかけているのだろうか? これだけ1つのダンジョンゲートから複数の人が出てくるとなると、1階層の人口密度は高く、モンスターの取り合いにもなるだろう。
これ2階層も同じよね……。
週末の渋谷ダンジョンを甘く見ていた。
まさかここまで人が多いとは思わなかったのだ。
ここで押し問答を繰り広げても1円も稼げない。私はここである手段を思いつく。
べつにここで魔法少女に変身する必要ないじゃん。
私はダンジョンゲートに触れ、ウィンドウを表示させる。
どこに転移しますか?
ダンジョンセンター前
渋谷ダンジョン 1層〈現在地〉
渋谷ダンジョン 2層
渋谷ダンジョン 41層
思いついたある手段とは、単純に41層に一度移動し、変身してから1階層へと戻る作戦だ。
これなら人目を気にせず魔法少女へと変身が可能だと思ったのだ。
私はウィンドウに表示された41層を選び、ダンジョンゲートに飛び込む。
ダンジョンゲートを潜った先は、1階層とは違って光がほぼ無く真っ暗な空間だった。
恐怖が直ぐに襲い、身体が強張る。
早く変身しないと何も見えないし、モンスターが怖すぎる……。
「らんらんらぶはーと♡まじかる☆ドレスアップ!」
秘密の呪文を唱え、あざと可愛くポーズをとる。
誰も見てないと分かっていても慣れないなぁ……。
辺りが星とハートで溢れ、魔法少女の衣装が身体に合わさっていく。
『魔法少女に変身しました』
どこに転移しますか?
ダンジョンセンター前
渋谷ダンジョン 1層
渋谷ダンジョン 2層
渋谷ダンジョン 41層〈現在地〉
「再度1層へ」
ダンジョンゲートに飛び込み1層へと辿り着くと、辺りには人の気配はしなかった。
「さっきのゲートはハズレだったってことよね」
ダンジョンには数多くのダンジョンゲートが存在しており、転移した先はランダムと言われているが、私を含め、3つのパーティーが1つのゲートから出てくるのは異常すぎる。
あまり考えたくはないが、もしかしたら渋谷ダンジョンの浅い階層に約5万人が押し寄せている可能性すらある。分かりやすく例えると、東京ドームの最大収容人数に近い人達が渋谷ダンジョン浅い部分に集まって来ていると思われる。
スキルポイントは現在6ポイント。
『魔法少女の相棒』を調べて見ると、このスキルを取得する為には、スキルポイントを100ポイントも消費する必要があったのだ。
兎やゴブリンを100体も倒す必要があり、かなり長い道のりになると思う。
新しいモンスターや強いモンスターを倒せば大量にスキルポイントを貰えるので下層へ行くのも手だが、死んでしまっては意味がない。
ここは地道にポイント稼ぎをするべきだろう。
うさ耳カチューシャを装備し、音を聞き分ける。
なるべく他の冒険者と接触せずにモンスターと戦いたいので、このうさ耳カチューシャのソナーが頼りだ。
音を聞き分け索敵して分かったが、想像したとおり人口密度は非常に高く、いたる所に人が喋っていたり戦っている音が聴こえてくる。
これでは色んな音が反響してモンスターを捜しに難い。
人がいる方を避け、耳を澄ましせながらダンジョン内を進むと聞き慣れない音が聴こえた。
「ん~? モンスターの音かな? 聴いたことのない音がする」
ずるずる引き摺った音と共に水っぽい音が聞こえる。
もしかすると、もしかするかもしれない。
早速駆け足で音がする方へと向かうと――
「お、発見」
そこにはゲームでお馴染みのモンスター、スライムっぽいのがいた。
水色の綺麗な体はゼリーように透き通っており、中央に核のような物が見える。
「スライム可愛い。仲間にしたり魔王になったりするのかな?」
見た目は可愛いがこのスライムと呼ばれる魔物はハンターにとって嫌われ者らしい。
渋谷ダンジョンセンターのショップで1,000円で売られていたガイドブックによると、このスライムは物理攻撃が全然通じず、武器で攻撃しても強力な酸で武器が傷んでしまうそうだ。
弱点は核を狙って攻撃したり、魔法で攻撃するか火で焼いて倒すしかないらしい。
注意しないといけないのは、スライムがダンジョンの天井から落下して、ハンターを襲ってくることがあるそうだ。
その場合は松明の火などで追い払う必要があり、対応が遅れると頭部の大火傷や、口を塞がれ窒息死に至る恐れがあるので、ソロのハンターは特に注意が必要らしい。
スライムの他にも、このガイドブックには低層と呼ばれる階層に出現するモンスターが数種類載っているので、これらのモンスターを探すのが今日の目的になる。
「じゃ、早速ですが、きらきらみらくる~まじかる☆スターライト☆彡」
『まじかる☆スターライト 発動』
セリフは少し省略したが、魔法を放つときの動きを大げさにやると威力減少のペナルティが発生しなかった。これは発見である。
威力がMAXのまじかる☆スターライトは、スライムを跡形もなく消し去ってしまった。残ったのは魔石だけである。
『条件を達成【まじかる☆ボックス】のスキルが出現しました』
『スライムの魔石を取得し、スキルポイントが、1ポイント付与され、スキルポイントの合計は、7ポイントになりました』
スキルブックを開くと、まじかる☆ボックスが表示されていたが、グレーアウトしており取得できなかった。
『まじかる☆ボックスの取得には、スキルポイント100ポイント必要です』
「えぇ…ムリだよこんなの……」
魔法少女の相棒でスキルポイントを100ポイントを使う予定なのに、新たなスキルを覚える為に更に100ポイント必要になってしまった。
このまま、ちまちまスキルポイントを稼いでいたら何ヶ月かかるのだろうか……。
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