第9話 お金がないならダンジョンに行けばいいじゃない
私は今、究極の選択を強いられている。
渋谷から歩いて埼玉の親戚の行くか、ダンジョンの1層に入ってお宝を見つけるか……。
徒歩の場合は約四時間くらいかかりると予想すが、そんなに歩けないので却下。
やっとの思いでダンジョンから出れたと思ったのに、お金が無くて再度ダンジョンに入るとは……ぐぬぬ……。
親戚の家に行くにもお金がかかり、治療費を払うのにもお金がかかる。
勿論食費は無いので、病院に設置された無料の自販機で砂糖多めのラテを3杯飲んでエネルギーを蓄える。
「ふぅ。お腹がたぷたぷ……これで半日は動ける…はず……」
左腕の点滴の跡を擦りながら病院から出て、その足で真っ直ぐにダンジョンセンターに向かう。
昼夜問わず大勢の人混みで賑わっており、換金所では大金を手に入れた者が大はしゃぎしているのが見えた。
「見ろよ! この金!」
「打ち上げに行こうぜ!」
「ねえねえ、私にはいくらくれるの?」
高価なアイテムが売れたのだろうか? 非常に羨ましく思う。
私は電車代の数百円を稼ぎたいが為にダンジョンに入るのだ……。
受付の人にダンジョンアタックの申請をして手続きを終えると、早速裏手にある渋谷ダンジョンのゲートへ並ぶ。
昨日は夕方からダンジョンに入ったが、何時間もダンジョンの中を歩いたせいか、ダンジョンを脱出した時の渋谷は暗かったように思える。
現在は正午前だが、渋谷ダンジョンは沢山の人で賑わっている。
「ねえ君1人?」
「俺達とパーティー組まない?」
……私は同じツテは踏まないのよ!
そんなナンパハンター達を避けながら、ダンジョンゲートの前に立つ。
どこに転移しますか?
ダンジョンセンター前〈現在地〉
渋谷ダンジョン 1層
渋谷ダンジョン 41層
勿論、渋谷ダンジョンの1層を選択しゲートに飛び込む。
ゲートの先は明るい洞窟であり、41層の真っ暗な空間では無い。
魔法少女にクラスチェンジしてからは、あの暗闇でも洞窟内を見渡すと事ができたが、変身を解除すると真っ暗になり怖い思いをした。
ここの1層は魔法少女に変身しなくてもよく見えるし、洞窟の先まで見えから人やモンスターも見つけやすい。
背後のダンジョンゲートを見てみるとゲートは閉じておらず、帰ろうと思えば直ぐに帰れるはずなので、ここを拠点として探索を開始する。
「私の鞄落ちてないかな……?」
もしかしたら私が襲われた所に鞄が落ちている可能性があるかもしれないなー。最悪なパターンは誰かに拾われたか、ダンジョンに吸収されたか、41層の瓦礫のどこかに有るかだけど。
その中のダンジョンに吸収されるパターンは、ダンジョンの中で物を捨てたり死んだ場合、1日から3日程でダンジョンに吸収されるってことよね……。
ダンジョンゲートが確認されて以来、その中に大勢の人が中に入った。
そして、ゴミや死傷者が大量に出るとそれらを回収できなくなる事態が起き、いざ回収しに行くと現場には何も残っていなかったのだ。
当初は死体漁りやモンスターの仕業かと思われたが、匿名の手紙が日本政府に送られてきた。
その内容は「ダンジョンが人を食う」といった内容であったが、半信半疑の日本政府は検証する為に食用の肉をダンジョン内で放置すると、個体差にもよるが10時間から36時間の間でダンジョンに吸収される事が確認されている。
ダンジョンに吸収されていなければ見つかるかもしれないけど、広大なダンジョンの中で私の鞄を見つけるのは難しいよね……だからといって41層に行っても同じ事だしなぁ……。
極力41層には行きたくない。
帰れる自信も無いし、あの暗闇の中を歩くのは精神が削れてしまう。
さて、人の気配はしないし、今のうちに変身しちゃおうかな。
「らんらんらぶはーと♡まじかるどれすあっぷ!」
キラキラした虹色の粒子が辺り一面に溢れ出し、私の周りが花で埋め尽くされる。
可愛らしいデザインの魔法少女の衣装が、次々と装着されていく。
そういえば背中に天使の羽根があるんだよ。
『魔法少女 に変身しました』
「らぶり〜きゅ〜と♡まじかる☆が〜る♡ ストロベリーほのりん☆彡」
キラッとポーズをとると、恥ずかしくなり体温が上がる。
強制的に台詞やポーズをとらされるので、どうにもならい。
地味に変身エフェクトや変身後の台詞が変わってる……視聴者のマンネリ対策に演出を加える事があるけど、私の変身にマンネリ対策を追加しても意味がないような気がする。
『是非、ご自身でもオリジナルの可愛らしい台詞やポーズをキメて下さい。良い事があるかも?』
……ポップアップしたウィンドウの一言コメントが気になる。
この謎仕様があっても、魔法少女の変身シーンを人に見せる訳にはいかない。
見せるのはモンスターだけだ。
さてと……。
洞窟内を歩きだしたが、死んでしまった二人の場所は分からないし、ダンジョンゲートに入るとパーティーを組んでいない限りランダムに飛ばされるので、2人の遺体の場所まで辿り着くの非常に難しいだろう。
取り敢えずモンスター探してみよう。
ダンジョンを歩き出して数分、目の前に大きな耳が特徴な白い兎がいる。
ぴょんぴょん跳ね、大きな耳を忙しく動かして警戒しており、私の姿を見つけるとジッとこちらを見つめている。
わぁ、うさぎさんだ〜…ってここは渋谷ダンジョン。
誰かがペットを捨てたとは考え難く、目の前の白い兎はモンスターだと思った方がよいだろう。
いざ戦おうと思いオタマトーンを構えるが、赤い小さなつぶらな瞳が攻撃を躊躇わせる。
くっ……動物虐待じゃないのかなコレ……。
どうしようかと迷っていると、白い兎の姿が視界から消える。
「ごふっ!?」
白い兎が鳩尾に体当たりしてきたのだ。
痛みも少なく吐きはしなかったが、鳩尾に攻撃を受けたことによって息ができなくなり、膝を突きうずくまる。
『まじかる☆ドレス の耐久値が95%になり、非ダメージ軽減率が低下しました』
白い兎はうずくまる私を更に体当たりして攻撃してくる。
その攻撃は右の脇腹に命中し、私の身体は地面を数回転がり止まる。
『まじかる☆ドレス の耐久値が90%になり、非ダメージ軽減率が低下しました』
つ、強い……なんでウサギがこんなに強いの…犯則でしょ!
先程の攻撃より今の攻撃はの方が痛かった。
まじかる☆ドレスの非ダメージ軽減率が影響しているのだろう。
何度も攻撃を受けたら、まじかる☆ドレスの耐久値が減り、変身が解けちゃう。それはイコール死だ。
「ぐっ…まじかる☆スターライト!」
『まじかる☆スターライト 発動。条件が不完全の為、威力が70%減少します』
ありゃ…弱々しい星が1個しか出ない……兎モンスターにあっさり回避されちゃったよ…。
兎モンスターは地面を蹴り、加速して飛び込んで来る。
「ひいいい! こっちに来ないで!」
目をつむり、必死にオタマトーンを振り下ろすと、鈍い音と柔らかい物を叩く感触が手に伝わってくる。
恐る恐る片目を開けて確認してみると兎モンスターは地面に横たわり、ピクリともしない。
ナメクジモンスターのように、また突然動き出すかもしれないので様子を伺うと、兎モンスターは光の粒子に変わり魔石がひとつ出現すると、オタマトーンの口の中に吸い込まれていく。
『条件を達成し、まじかる☆アタッチメント【うさ耳カチューシャ】が追加されました』
『ビッグイヤーラビットの魔石を取得し、まじかる☆スキルポイントが1ポイント追加されました』
ポップアップしたウィンドウに、まじかる☆アタッチメントなる謎の表記が書かれていた。
スキルじゃなくてアタッチメント? …なんだろう?
取り敢えずステータスオープンを開くとタブが増えており、『まじかる☆アタッチメント』と表記されているのを確認できた。
念の為に画面をタップし中身を確認してみると、そこには『うさ耳カチューシャ』が表示されている。
「……うさ耳カチューシャ…? 被り物?」
ピコン。
電子音と共にヘルプウィンドウが表示され、内容を読んで見る。
『うさ耳カチューシャは魔法少女の専用拡張装備です』
『魔法少女の専用拡張装備が使用できるようになったので、まじかる☆アタッチメントを一生懸命集めて、可愛くオシャレコーデをしちゃおう』
着せ替えキターーーーー……ん? はて? 魔法少女シリーズに着せ替えモノなんてあったかな?
全ての魔法少女が出てくるアニメや漫画を確認した訳もでもないので、もしかしたらコーデ系の魔法少女が存在するのかもしれない。
ダンジョンデータベースがどのように魔法少女の情報を集めたかは知らないが、まじかる☆アタッチメントを上手く利用すれば、ダンジョン攻略が捗るかもしれない。
早速、うさ耳カチューシャを選択すると、頭の上にうさ耳カチューシャが自動的に装着された。
自分の姿は確認できないが、頭部のうさ耳カチューシャの耳の部分がピョコピョコと動いているのが分かる。
「ふぬぬぬ……ぬ?」
……お? おお!? 何か聴こえる…!!
先程まで静かなダンジョンだったが、色んな音が聴こえてくる。
それも立体的に広く細かく分かる。
後ろでブーンっと鳴っているのはダンジョンゲートの音だろう。
そして正面から聴こえてくるのは……。
……人の喋る声だ。
声から判断すると男女2人ずつの4人組で若い人達だと思われる。現在モンスターと戦闘中で特に苦戦している訳でもないようだ。
ん〜、来た道を引き返すのもあれだし、冒険者達の戦いを観察してみようかな?
1階層で活動している彼らの動きを見て勉強すれば、ダンジョンでの活動が少しでも楽になると判断したからだ。
注意しなければならない事はひとつ、決して彼らに気取られぬよう行動しなければならない。
……うさ耳カチューシャを頭につけた23歳の魔法少女って恥ずかしすぎる!
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