第10話 青春はまぶしい
「そっちにいったぞ!」
「オッケー! 俺にまかせろ!」
岩陰からこっそり覗くと、男女4人のグループがモンスターと戦っていた。
ビッグイヤーラビットが地面に3匹も倒れており、残り1匹を4人で囲っているのが見える。
おおっ! あんな素早いビッグイヤーラビットを3匹も倒したのか〜、凄いな〜。
一匹倒すのにもあんなに苦労したのに、彼らは上手く連携を取り、安全に戦っているのが分かる。
男性陣はナタとバットを持っており、女性陣はアーチェリーとゴルフクラブを持っているので、ゾンビ映画に出てくる装備と似ている。
アーチェリーかぁ……使えたら格好いいね。アニメの中でも弓を使って格好いい魔法を使っているキャラが居たし、私も使ってみたいなぁ。
アニメの主人公や仲間の武器は個性があり、演出も違う。特に弓矢での攻撃は派手で強力な印象なので、是非欲しい魔法のひとつだ。
「よし! 倒した!」
「おつかれ〜」
「さて、アイテム回収しようぜ」
モンスター達は光の粒子に変わると、魔石に変わる。
男女のグループは魔石を拾い集めていると、その内のひとりが私が隠れている岩に向かって指をさす。
「あ、まだ一匹いるぞ、あれも狩ろうぜ!」
4人の視線が集まり、咄嗟に岩陰に隠れる。
な…なんでバレた…? あ、このうさ耳カチューシャか……。
うさ耳が飛び出しているので、岩陰から覗くとどうしてもうさ耳が岩陰から飛び出してしまう。
このうさ耳を見て、彼は私の事をビッグイヤーラビットと勘違いしたのだろう。
「私が射止めるから、誘き出して!」
「おう! 任せろ!」
は!? 何言ってんの? 射止めるってアーチェリーの子が? やばいやばい…それは洒落にならない…本気で死ぬ!
「ストップ! 撃たないで! 今出るから攻撃しないで!」
「な、なんだ? 人か? 足立、まだ攻撃するな」
「う、うん……」
撃たれないように必死にアピールしながら、うさ耳をピョコっと出し、両手を上げながら岩陰からゆっくりと出る。
とても恥ずかしいが、矢に撃たれて死ぬよりマシだ。
「な、なんちゅう格好をしてるんだ……」
「わぁ可愛い……」
魔法少女+うさ耳カチューシャは女子には好評な様子だ。
「す、すみません。私もハンターです、驚かせてごめんなさい……」
「紛らわしい耳を着けているから、モンスターと勘違いした」
「ごめんなさい、音が聴こえてきたので見てました」
「1階層にいるって事は初心者?」
アーチェリーを持っている女の子が聞いてきたので私も答える。
「そうです。初心者です」
「私達も半年目だから初心者同士仲良くしましょう。私の名前は足立 花美あだちはなみ、高校2年よ」
「私は深瀬 優梨ふかせゆうり、花美とは同じクラスよ」
「俺は壷川 誠つぼくらまこと、3年でこの子達の先輩だな」
「僕は魚原 賢一うおはらけんいち 同じく3年で、城神高校ダンジョン部の部長をしている。僕達は休日はこうやってダンジョンを探索してるんだ」
どうやら彼らは近くの高校の学生らしい、確か今日は平日だったと思うが、魚原君が休日と言っていたので学校は休みなのだろう。
そんな彼らは部活の一環でダンジョンに来ているらしい……青春だ……、私は電車賃を稼ぐ為にダンジョンに来ているのだが……。
「ところで……貴女の名前を教えてもらっても?」
アーチェリーを持ている足立さんが私の名前を知りたがっている…向こうが自己紹介を終えたのに私がしないのは失礼だろう。
「……私の名前は……ほ、ほの……」
「ほの?」
「ほのりん☆ミ……です…………」
「「…………」」
洞窟内に静寂が訪れる。
は、恥ずかしいーー!
私の心音が爆音で鳴っており身体の中と、うさ耳カチューシャの耳の両方で心音が聴こえるので、とてもけたたましい。
本名は明かせないので、魔法少女名を名乗るしかないのだ。
「……ほのりんさんに聞きたい事があるんだけど。僕達の先生を見ませんでしか? 杉林 静すぎばやししずかっていう名前で黒いジャージを来た女性なのですが」
バットを持った魚原君が先生について尋ねてきた。
顧問の先生だろうか、生徒達を置いて何処に行ってしまったのか?
「私達と一緒にダンジョンに来たんだけど、モンスターの群れに襲われた時に逸れちゃたの。まぁ杉林先生なら大丈夫だと思うけど」
ゴルフクラブを持った深瀬さんが杉林先生について補足する。
どうやら彼らの顧問である杉林先生はこのダンジョンの何処かにいるらしい。
モンスターの群れに襲われたと聞いて無事なハズはないと思うが、彼女達の反応からして冒険者としてそれなりの実力があるのかもしれない。
折角だし魔法少女らしく人助けをしようかな。
彼女達の先生が何処に逃げたか分からないが、うさ耳カチューシャが音を拾ってくれるだろう。
「ちょっと待ってて下さいね。近くにいれば見つけられるかも……」
「本当か?」
ナタを持った壷川君が胡散臭い人を見るような視線を私に向ける。
私は目をつむり、うさ耳カチューシャに意識を集中させると、やがて女性の声が聴こえてくる……。
(………………あ〜まいったな~、子供達と逸れちゃったよ〜…また保護者達にどヤされるよ〜はぁ…………)
この声が杉林先生なのだろうか、現在はモンスターには襲われてはおらず、それほど遠くない場所にいることが分かった。
これならすぐに会えるだろう。
「……先生は無事ですね。私の後について来て下さい」
「え? 本当に見つけたの? 信じられないわ」
「優梨、私達が闇雲に探してもダンジョンの中じゃ探せないよ……ついて行ってみようよ」
「…部長の判断にまかせるわ」
「俺も〜」
「……まぁ見た目はアレだけど悪い人には見えないし、ついて行こうか」
ダンジョンの中で突如現れた、うさ耳を着けたコスプレ女を疑う気持ちはよくわかるよ……私だったら怖くて近寄らないもん……。
信じてくれる部長の器に感謝し、うさ耳カチューシャから聴こえてくる音を頼りにダンジョン内を歩き進める。
15分くらい歩いただろうか、少し広い空間に出ると岩に腰掛けている1人の女性が見えた、黒髪ショートカットで眼鏡を掛けた女性で木刀を持っていた。
「お? なんだ? ダンジョンでコスプレか?」
「杉林先生! 探したんですよ!」
「おー! お前達生きてたかー?」
「こっちは心配したんですよ!」
杉林先生の周りに学生達が集まりワチャワチャしてる。
私にもあんな時代があったなと思い出すが、それも数年前の話だ。
先生と生徒もお互いの状況を確認し、怪我も無いと判断すると、杉林先生がこちらに向き直って頭を下げる。
「ほのりんさん、生徒達をここまで連れて来てありがとうございます。本来なら私が彼らをしっかりと引率しないといけない立場なのですが、彼らを危険に晒してしまいました。大変ご迷惑をお掛けしました」
「あああいえいえ、私は特に何もしてないですし、彼らもダンジョンの怖さを知っているようで、先生の指導がとても細かく行き届いてるかと思います」
お互いペコペコしだし、収まりがつかなくってくる。
大人になるとよくあるパターンだ。
「ほら先生、出口探して帰ろうよ」
「腹減ったわ〜、帰りにモズバーガー寄って帰ろーぜ」
「なら魔石を換金して分配してから、みんなで食べて帰るかー」
壷川君はモズバーガーを食べたいらしい、他の子達も特に反対はしないので、これからダンジョンから出て打ち上げに行くのであろう。
……とても偉やましい。
杉林先生が学生達を引き連れて帰ろうとするが、突然私に振り返る。
「…出口用のダンジョンゲートの場所ってわかる? 実は今何処にいるか分からないんだよね」
あははと笑う杉林先生に生徒からブーイングがあがるが、生徒達も笑っていることから杉林先生は生徒達から慕われているのがわかる。
これも人助けの一環だと思い、彼らをダンジョンゲートの場所まで案内することになった。
うさ耳カチューシャソナー起動!
「あっちですね」
「まじかっ! 見た目魔法少女っぽいけど魔法つかってるの?」
やたらグイグイ来る杉林先生に、黙ってても恥ずかしいので仕方ないので答える。
「……ま、まあ…魔法少女なので……」
「うおぉ! 魔法少女!」
魔法少女が好きなのか杉林先生は興奮している。
もしかしたら私と同じように魔法少女に憧れていのたかも知れない。
「魔法使えるから魔法少女コスプレなのか、たまにいるよなそういう人」
「私が知ってるのはアニメキャラになりきってダンジョン攻略するD Tuber の隼人君かな」
「知ってる知ってる。たまにテレビ出てるよね」
コスプレをしてダンジョン攻略している先駆者がいたとは驚きだ。
D Tubar には詳しくないが、D Tubar とはダンジョン探索の映像を編集してネットに投稿する人達のことだ。
彼らは危険なダンジョンで死闘を繰り広げたり、高価なアイテムをゲットしたりして視聴者を楽しませたりしている。
私の魔法少女の衣装はコスプレではなくガチの魔法少女なのだが、あまり詮索されたくないのでコスプレで通すことにした。
「ダンジョンゲートに着きましたよ」
「は〜疲れた」
「ほのりんさん、ありがとうございます」
「先生を探すのも手伝ってくれたりゲートまで案内してくれたり、本当にありがとうございます」
「いえいえ、お互い様ですから」
「もし良かったらSNSのIDか連等先を教えてくれませんか?」
「あ…ごめんなさい、今スマホ無くて……」
「そうですか……」
足立さんが少し残念そうな表情を浮かべる。
本当にスマホがないので連絡先の交換はできないし、スマホを持っていたとしても恥ずかしくて無理に決まっている。
「花美と一緒に写真撮ろうよ、ほらくっついて」
「わわわ、ちょ…ちょっと待って…!」
「にこにこのにー!」
カシャ。
足立さんが片腕ガッチリとホールドしてしまったので逃げる事もできず、深瀬さんがスマホで写真を取ってしまった。
「んじゃ、また何処かで会いましょう」
「バイバイ魔法少女の人」
「またな!」
「それでは失礼します」
「ほのりんさん頑張ってね!」
城神高校の生徒と先生はダンジョンゲートに入ると地上へと消えて行ってしまった。
写真撮られちゃった…ど、どうしよう……。
勝手にネット上にアップされるとは考え難いが、もしネットに出回ってしまったらどうしようかと悩む。
いくら『魔法少女は身バレしない』があるとはいえ、写真は残ってしまうのだ。
そうなったらもう誰にも止められなくなり、ロハスな生活から遠退いてしまう。
恥ずかしいからネットに流出させないでーー!
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