第8話 魔法少女は身バレしない
その後、私はゲートの場所を見失わないように、近場でモンスター達を待ち伏せをする事にした。
魔法少女らしからぬ戦法だが、同時に複数相手にするのは危険と判断したのだ。
今いる階層は何階か分からないがJDST達が探索を進めている場所はダンジョンの最前線、つまり渋谷ダンジョンの最深層なはなずだ。
凶悪なモンスター達がうろうろする暗いダンジョンは非常に危険で、魔法少女のクラスを得られなかった死んでいただろう。
暫くすると、岩に隠れた私の横を大きな蟻が横切って行くのが見え、他にモンスターの姿は見えない。
しめしめ……運が良ければスキルゲットチャンス、駄目でも初めてのモンスターだし深い階層だから沢山ポイントが貰えるはず! よし、あの蟻はこちらに気が付いてない、チャンス!
「アリさん、お仕事ご苦労さまです! ゆっくり休んでね☆彡 きらきらみらくる、まじかる☆すたーらいと〜!」
『まじかる☆スターライト 発動』
軽快なメロディに合わせて、まじかる☆すたーらいとが、巨大な蟻目掛けて飛んでいくと不意討ちの一撃を回避することもできずに光の粒子になって消えていく。
魔石がだけが取り残されると、オタマトーンに吸収される。
「よし! 楽勝楽勝♪」
『ジャイアントアントの魔石 を取得しました。スキルポイントを5ポイント取得しました』
『まじかる☆スキルポイントの合計、62ポイントになりました』
『詳細はステータスの、まじかる☆スキルブック で確認できます』
蟻モンスター、ジャイアントアントを1匹倒したけど、新たなスキルは得られなかった。
その変わり、まじかる☆スキルポイントを5ポイント取得し合計62ポイントを取得できた。
これで身バレ対策のスキルはゲットできるね。
早速、まじかる☆スキルブックを開くと、今回はちゃんと文字が光っており、『魔法少女は身バレしない』を取得可能になっていた。スキルをタップすると……。
『【魔法少女は身バレしない】を取得しました』
『人々から変身前と変身後の区別がつかなくなりました。※注意、人が見てる前で変身をしたり解除をすると正体がバレます』
……だよね〜…。
大半のアニメの魔法少女は人前で変身しないし、変身する時は予め変身しているか、敵の前で変身するパターンが多い。
そうなると、ダンジョンに入って変身して、帰る時はゲートの近くで変身して帰る方がいいかも?
魔法少女のまま渋谷ダンジョンから出るのはリスクが高いし、魔法少女の衣装が恥ずかしいのもあるけど、変身を解除する場所が少ないのよね……。
たしか、ダンジョンセンターの更衣室はロッカーのみで仕切りが無かった。
トイレの個室で変身を解除するにしても、セリフを言いながら変身解除しなければならないし、必ず派手なエフェクトが発生するのでどうしても目立っちゃう。
必然的にダンジョン内で魔法少女に変身したり解除する事になりそう……。
「完璧にバレないスキルがあれば良いけど、魔法少女的にはそれはテンプレじゃないよね……」
アニメや漫画では身内や友達、好きな人にバレるかバレないかヒヤヒヤするのも醍醐味だ。
リアルでは落ち着かないので困るが、魔法少女の設定上、仕方ないと割り切るしかないと思う。
「んじゃ…帰りますかね……」
オタマトーンをクルッと一回転させ、片足を上げて可愛くポーズをとり、秘密の呪文を唱える。
「普通の女の子にな〜あれ♡」
可愛らしい音と綺麗なエフェクトを発生させると魔法少女の衣装は瞬く間に消えて、ダンジョンに来る前の服装に戻った。
「よしよし、髪型も戻ってる。オタマトーンも消えたし問題無し! さぁ帰ろう」
黒いゲートに触れるとウインドウが現れる。
どこに転移しますか?
ダンジョンセンター前
渋谷ダンジョン 1層
渋谷ダンジョン 41層〈現在地〉
「好きな所に行けるんだ……って、ええ!? もしかしてここって41層…なの?」
数日前のニュースでJDSTが40層のダンジョンボスを倒した事で話題になっていた。
約3ヶ月ぶりのダンジョンの攻略だったので、連日ニュースになっており、私も何度もそのニュースを見たり聞いたりしていたので記憶に新しい。
「う〜ん、デスボールとアリーフアネモネは強かったけど、ミノタウロスやジャイアントアントは攻撃を受けなければそれ程強く感じなかったなぁ…。あ、でもミノタウロスが持っていた斧で切られたら死んでたかも……」
実際デスボールの一撃は人を容易く切断する威力があった。
何度か鞭を受けたが、魔法少女の衣装のお陰か怪我は軽症で済んでいる。
もし、生身で攻撃を受けたり、ミノタウロスのような強力な一撃を受けて、衣装の限界を超えるような攻撃を受けた場合、想像しただけで恐怖で震えてくる。
もたもたしているとモンスターが来るかもしれないので、転移先をダンジョンセンター前に選択しゲートの中に飛び込むと、身体に纏わりつく液体に包まれる。
「おかえりなさい、怪我はありませんか?」
目を開けるとそこにはダンジョンセンターの職員が立っていた。
周りにも大勢の人がおり、次々とダンジョンゲートから出てくる。
安心したのか疲労と空腹で、私はその場で尻餅をついてしまった。
「大丈夫ですか!? おい! 誰か担架を持って来てくれ! 医療センターにも連絡を!」
「だ…大丈夫です、ちょっと安心したら力が……」
喋っている途中で意識が遠退く……。
ピコン。
『特定の条件が達成されました』
『魔法少女のランクが〈☆→☆☆〉になりました』
『各ステータスが上昇しました』
遠退く意識の中、ウインドウが表示されたような気がしたが眠気に逆らう事ができずに、私はそのまま意識を手放した――――――。
▽
深い微睡みの中、意識が浮かんでくる。
重い瞼をゆっくり開けると白い天井が見え、横を向くと何人もの人がベットに横たわっていた。
……ここは病院…?
そうか私、ダンジョンから出たら倒れたんだっけ……。
ダンジョンセンターの職員に心配そうに抱えられた記憶しかなく、あの後、意識を失い病院に運び込まれたのだろう。
「お目覚めですか? 今、担当医師をお呼びしますので少し横になっていて下さいね」
「はい、ありがとうございます」
看護師の女性がそう言うと部屋から出ていくと、白衣を来た男性がやってくる。
「気分はどう? ダンジョンの前で倒れたのは覚えてる?」
「はい、疲労と空腹で意識が朦朧としていました」
「駄目だよ、あんな軽装でダンジョンに入っちゃ。毎日大怪我して何人もここに運ばれてくるんだ。その大半はしっかりと装備を整えていないのが原因なんだよ」
重症や死亡の大半は、初心者やダンジョンを甘く見ている人達だ。
原因はどうあれ、私もそのひとりだったので身に染みる思いだ。
「はい、十条さん。ダンジョンカードはここに置いて置くよ。胸と腕、左太腿は大した怪我じゃなかったから薬を塗って包帯をしてある。一週間分の処方箋も出してあるから帰るときに貰ってね。それじゃお大事に」
「ありがとうございました」
お医者様にお礼をいうと、足早に彼は去って行った。
しかし困った事がある。
お金がない……。
ダンジョンで手に入れられるはずのアイテムが、いっさい無いのだ。
魔石は全て、まじかる☆ウエポンに吸収されてしまうし、モンスターからのドロップアイテムも無い。
手に入れた高価なアイテムは自身に使ったし、貴重品もダンジョンに落とした。
まさに八方塞がりである。
取り敢えず着替えを済まし、会計カウンターまで行く事にした。
「すみません」
「はい何でしょう?」
「退院したいのですが、現金が無くて支払いが出来ないのですが、どうしたら良いですか?」
「こちらの必要事項にご記入下さい」
名前と住所、年齢などだ。
仕方なく実家の住所を記入していく。
「身分証明書はありますか?」
「ダンジョンライセンスカードでもいいてすか?」
「大丈夫ですよ、お預かりします」
暫くして手続きが完了し、治療費は後日の支払いでもよいそうだ。
そして処方箋の紙を貰えたので薬局に行けば薬が手に入るだろう。
「お金を稼がないと食べ物も無ければ寝泊まりする所もない、このままじゃホームレス魔法少女になっちゃう……」
想像しただけでも悲しいくらい可愛くない魔法少女なので、全力で回避するしかない……。
「ダンジョンに戻る……?」
お金が無いからダンジョンに潜り、怪我して入院してお金が無いからダンジョンに潜る……。
地獄のループが、今始まる……かもしれない。
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