第7話 身バレしたら恥ずかしくて生活できません!

「伏せろ!」


「フラググレネード!」




 訳も分からず伏せると、耳を劈くような物凄い音と衝撃が洞窟内に響き渡る。




「ぬぅぅぅううううぅぅぅ……」




 頭を上げ、ナメクジモンスターを見てみると、体の一部が無くなっており、体内から見てはいけないグロい物が飛び出していた。




「効いているぞ! 周防院、スキルの使用を許可する! 他の隊員は援護しろ!」


「「了解!」」




 周防院さんが腰に差した軍刀を抜きナメクジモンスターに向かって走り出し跳躍すると、軍刀が帯電しバチバチと青白い雷光が迸る。




「はぁあああっ! 雷神撃っ!」




 軍刀がナメクジモンスターの体を切り裂き、感電したかのように激しく痙攣を起こす。


 辺りにはなんとも表現し辛い焦げる臭が充満し、気分が悪くなってくる。




「やったか?」




 それフラグって言うんですよ……




 JDST達はモンスターが死亡したか確認する為にゆっくりと近づくと、ナメクジモンスターの色が白から色鮮やなオレンジ色に変わる。




「お前達! 離れろ!」


「え!?」




 ナメクジモンスターが急に動きだし、体から無数の触手を伸ばすと周防院さんや他の隊員達を触手で絡め取られてしまった。




 うわぁ…また触手だよ…もう嫌……。




 ナメクジモンスターから続々と触手が伸びて、JDSTの隊員達を拘束していく。




「くっ…離して!」




 周防院さんは必死に抵抗するが、軍刀を持つ手も触手に拘束され逃れられない。




「戦える者は触手を切り落とし仲間を助けろ! 出し惜しみは無しだ、スキルや魔法を使え!」




「「了解!」」




 動けるJDSTの隊員達は次々と触手を切り落としていくが、再生するのか触手の数を減らすどころか増えていく。




 そしてナメクジモンスターは次第に姿を変えていき、イソギンチャクのようなモンスターに変貌する。




「た、隊長ーー!」




 触手に絡め取られた1人の隊員が、イソギンチャクの真上にある場所にゆっくりと降ろされいく。




 あれは……人を食べようとしているの!? 止めなきゃ!




「まじかる☆スターライト!」




『まじかる☆すたーらいと 発動。条件が不完全な為、威力が半減します』




 咄嗟に放った、まじかる☆すたーらいとは、本来の威力を発揮しなかったが、それでも大量の触手を薙ぎ倒し捕食されそうになった隊員を助ける事に成功する。




「まだ! 捕まってる人がいる……助けないと! お願い、まじかる☆スターラーーイト!」




『まじかる☆スターライト が発動』




 JDST隊員に絡みつく触手を狙って、煌めく星が虹色の尾を引きながら飛んでいく。




「な!? 危ない!」




 中村さんが叫ぶ。


 ナメクジモンスターが触手で捕まえた周防院さんやJDST達を盾にしたのだ。




 私の放った魔法、まじかる☆スターライトは……周防院さんや他のJDST達を傷つけることなくすり抜け、触手とナメクジモンスター本体にダメージを与える。




「ぬぐぉぉぉぉおおおぉぉぉぉ……」




 盾にできなく苛立っているのか、ナメクジモンスター暴れだし、さらに触手を体中から伸ばしてくる。




 まじかる☆スターライトは、人には効果がない? なら、全力で魔法を使うチャンスは今しかない!




 先程より遥かに触手の量を出し、動きが早くなったナメクジモンスターは私達をすぐにでも殺しにかかろうと動き出したのが分かる。




「そうはさせないよ、ナメクジモンスターさん♡荒ぶる心を鎮めて、元のナメクジさんに戻ってね☆彡 きらきらみらくる、まじかる☆すたーらいと〜!!」




 オタマトーンからビブラートを効かせた音が鳴り、キラキラ輝く星々を勢いよくナメクジモンスターに向かって放つ。


 洞窟内がファンシーな世界いっ色に染まる。




「な…何なんだ……これは……」




 近くにいた中村さんの声が聴こえたが、今は目の前のモンスターに集中する。




「んぐぉぉぉぉおおおぉぉぉぉ……」




 まじかる☆スターライトは、ナメクジモンスターに当たり魔法が体内に留まると、ナメクジモンスターの体が星やハートに変化し、細かく散っていく。


 ファンシーな世界で覆い尽くしていたエフェクトは徐々に消えていき、洞窟内に静けさが戻る。




「らぶり〜ど〜る、まじかる☆が〜る♡ほのりん☆ミが悪い子をやっつけたぞ♡」




『胸の前に手でハートを作り、あざと可愛くポーズをするのがおすすめです。人前ではしっかりアピールしましょう』




 モンスターを倒して気を抜いた瞬間に勝手に口と身体が動くと、恥ずかしいセリフとポーズをとる。


 恥ずかしさのあまり急激に体温が上がり、穴があったら入りたいくらいだ。




 顔を真っ赤にさせていると、ナメクジモンスターがいた場所から魔石が飛んできて、オタマトーンの口の中に入る。




『条件を達成した事により、まじかる☆スキルブックに【魔法少女は身バレしない】のスキルが出現しました。取得にはスキルポイントを使用して下さい』




『アリーフアネモネの魔石を取得し、まじかる☆スキルポイントが50ポイント付与されました』




『まじかる☆スキルポイントの合計は、56ポイントです』




『詳細はステータスの、まじかる☆スキルブック で確認できます。』




 お〜ラッキー! 何かの条件を達成したみたい。名前からすると、変身しても知り合いにばれないテンプレのやつかな? 後で確認してみよう。




「おい、ちょっといいか」


「っひゃっ……」




 ウインドウを読みウキウキしてると、背後から突然声をかけられ、驚いて飛び上がる。




「驚かせてすまない。隊員達を救ってくれてありがとう。あのままでは死傷者が出ていたはずだ」


「私からもお礼を言わせて、ありがとう」




 中村さんや女性隊員の周防院さん、他の隊員達からも感謝の言葉受け、胸がドキドキする。


 あぁ…これがアニメで活躍していた魔法少女達の気持ちなんだな……。


 傷つきながらも悪と戦い、救った人から感謝の言葉を告げられる。


 とても気持ちよく心が幸せな気持ちになる。




 恥かしいなんて言ってられない。魔法少女……頑張ってみよう。






 JDSTの人達は、これから撤退するそうだ。


 被害も大きく物資も不足しているのでこれ以上の探索は危険と判断したそうだ。




 そんな彼らをよそに、まじかる☆スキルブックを開き、【魔法少女は身バレしない】を探すと、目的の物は見つかったが文字が光っておらず、ウインドウをタップしても反応しなかった。




『【魔法少女は身バレしない】の取得にはまじかる☆スキルポイントが4ポイント不足しています』




 別のウインドウが開き、ポイント不足を伝える。




 あちゃ〜、このスキルは60ポイントも使うのか……。




 どうしようかなと悩んでいると、ひとりの隊員が袋いっぱいの魔石を運んでいるのが見えた。


 交渉していくつか分けて貰う事が出来ないだろうか? 善は急げである。




「あの……中村さん」


「ん、あぁ君か、ほのりん? だったか? どうした?」




 ほのりんと呼ばれ顔が熱くなるのを感じる。今は我慢だ。




「あの〜お願いがあるのですが、魔石って譲って貰う事って可能ですか?」




 私の言葉に中村さんは難しい顔をする。




「すまない、我々が取得したアイテムは全て日本政府の物なんだ、恩人の君には申し訳ないのだが今は謝礼も出せない。もし良かったら連絡先を教えてくれないか?」




 これには困った。


 魔石が無いとスキルが覚えられない、外に出たら明るい場所に出てしまうので、身バレする可能性がある。中村さんと連絡先の交換なんてした日には大変な事にる。




 私は親から離れ、ロハスな暮らしをしたいのだ。


 魔法少女は……隠れてやりたい……。




「ごめんなさい。連絡先はちょっと……」


「あはは、隊長断られてやんの」


「……おい、帰ったらお前達連帯責任で腕立て百回だ」


「「……了解です」」


「気が向いたらここに連絡してくれ」




 名称を渡される。


 そこにはJDSTのロゴと、japan Dungeon Survey Team、中村俊夫、一等陸尉と書かれていた。


 有名人の名刺なんて初めて貰った私は、魔石の事なんてすっかり忘れてしまった。




「さて、我々はゲートに向かうが君はどうする? 一緒に帰還するか?」


「ゲートの場所分かるんですか!?」


「あぁ、ここのエリアのマッピングは半分完了している。30分も歩けばゲートにたどり着くだろう」


「行きます行きます! ご一緒させて下さい!」




 これは棚から牡丹餅、勿怪の幸いである。


 出口も分からずさまよっていては、餓死して死んでしまう。


 私はJDSTと喜んで一緒に行くことにした。




 道中出てくるモンスター達を倒していくJDST達、流石ダンジョンランカー達と言ってもよい強さで、私が加勢するまでもなくモンスター達を薙ぎ倒していく。




 JDST達が倒したモンスターの魔石を、オタマトーンが食べてくれないかなと思い口をパクパクさせるが、不協和音を奏でるだけで何も起きなかった。




「よし着いたぞ、各自ゲートに入れ」




 JDSTの隊員達の緊張の表情が晴れ、次々とゲートに入って行くのを見送った。


 中には握手を求めてくる人もいたが、拒否する理由もないので、快く握手に応じる。みんな手の平が大きいなぁ〜。




「ほのりんさん、ゲートに入って帰りましょう」




 周防院さんが私にゲートに入るよう促す。


 しかし、ゲートに入ると魔法少女のまま外に出る事になっちゃうし、大衆の面前に出るのは恥ずかしいよ。


 JDST達と出るタイミングをずらすか、魔法少女は身バレしないを覚える必要があるね。




「私、もう少し魔石を集める必要があるので、皆さんとはここまでですね。お世話になりました!」


「貴女1人で大丈夫なの?」


「私は大丈夫ですよ〜」


「……そう、貴女の強さなら大丈夫だと思うけど無理はせず、危なくなったらゲートに飛び込むのよ?」




「分かりました!」




 ビシッと敬礼すると、周防院さんは笑顔を見せてくれた。その笑顔はとても可愛かった。


 はぁ、こんな姿で一緒に帰ったら大変だったよ……早くスキルゲットしなくちゃ……。




 JDST達を全て見送った後、私はダンジョンの探索を再開する。スキルを取得する為にモンスターを探すのだ。




 私が魔法少女やってるのを、知り合いに身バレしたら恥ずかしくて生活できません!




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