第6話 顔から火が出る思いだ

 ゆっくりと警戒しながら洞窟内を歩いていると、モンスターらしき生物を発見した。


 そのモンスターは大きなモンスターで、二足歩行をしており、片手には大きな斧、頭には2本の角を生やした牛顔のモンスターだった。あれは何だっけ……ミノタウロス?




 ゲームやアニメでは定番のモンスターだ。進行方向に対してこちらに向かっているので、このままでは接敵し戦闘になるだろう。


 私は辺りを見渡すが身を隠せるような場所は見当たらなく、どうしようかとオロオロしている間に、こちらに気が付いたミノタウロスが、雄叫びを上げながら走ってこちらに向かって来る。




「速っ!」




 体が大きいので鈍足かと思いきや、100メートル程の距離を8秒ぐらいで私に詰め寄り、大きな片手斧を振りかざす。




「きゃあああ!」




 咄嗟に回避し避けたのは良いが、回避した場所が洞窟の壁際で後が無い……。


 ミノタウロスは勝ち誇ったような表情を浮かべると、刃が鈍く光った片手斧を振り下ろす。




「まじかる☆シールド!」




『まじかる☆シールド が発動しました。残り10秒……』




 虹色の半透明な盾が正面に現れると、金属と金属をぶつけたような音が響き、ミノタウロスの片手斧を弾き返す。




「グアアアッ!」




 片手斧を持った手が痺れたのか、ミノタウロスは斧を落として、右手を抑え苦しみだす。今なら隙だらけだ!




「今がチャンス!!」




 オタマトーンをクルッと回し、口元をパクパクさせる。きらきらぼしを奏でる。




「ミノタウロスさん! 優しい心を取り戻して☆彡 トゥインクルミラクル〜、まじかる☆スターライト!」




 オタマトーンから気の抜けたメロディと共にキラキラ光る星とハートが飛び出し、ミノタウロスを包み込む。




「フゴッ! フゴッ! グガアアアア……」




 ミノタウロスは一瞬優しい瞳になったかと思うと、そのまま光の粒子になり消えていってしまった。


 そして、残されたのは赤い宝石、ミノタウロスの魔石である。


 ふわふわと魔石の周りが輝きながら私の下に飛んで来ると、まじかる☆うえぽんのオタマトーンの口の中に消えていった。




「あ…口の中に入っていったんだ……」




 魔石がどのように、まじかる☆ウエポンに吸収されるのか観察していたら、まさかの口に入って食べていたのだ。可愛くて思わず笑みが溢れる。




『ミノタウロスの魔石 を取得し、スキルポイントを1ポイント取得しました』




「あれ? ミノタウロスを倒しても起きない?」




 モンスターを倒せば、まじかる☆スキルブックに新しいスキルが出現すると思っていたが、そうでは無いらしい。


 もしかしたらモンスターによって覚えられるスキルが違うのかもしれない、そうなると色んな種類のモンスターを倒して魔石を集めながら新たなスキルを出現させ、スキルポイントを集めて覚える必要がある。




「はぁ〜……先が長いな〜……。でも唯一無二の魔法少女を育てるって響きが良いよね。私、がんばれ!」




 ヘルプウィンドウに書いてあった唯一無二の魔法少女、一生懸命育てましょうの言葉を思い出す。


 このクラス魔法少女はレベルが存在せず、スキルポイントを使用して強化していくタイプのようだ。


 世間ではレベルが上がったとか、テレビ番組でダンジョンランカー達のレベルを紹介して、いかに凄いかをジャーナリストやコメンテーターが説明していた事を思い出す。


 しかし、魔法少女はレベルが『なし』なので全く関係ないし、隠蔽の効果で魔法少女の名前以外は隠蔽されているので、他のランカー達と比べられる事はないだろう。




 衣装についた汚れをはたき落とし、先に進む事にした。


 あのチャラい2人組とダンジョンに入って2時間以上は経過しただろうか? 途中、意識を失ったので時間感覚が曖昧だ。




 魔法少女に変身してからはそれ程疲労を感じず、ゴツゴツした悪路を歩いているが、それでも生きている以上お腹は空く。


 ダンジョンに入る前に菓子パンをひとつ食べただけでそれ以降は何も口にしておらず、鞄の中に入ってい飴も鞄と一緒に行方不明だ。




 空腹のせいでヨロヨロと歩いていると十字路に出た。どの道も暗く奥まで見渡せないが、微かに何かがぶつかり合う音やモンスターの叫び声、人の声が聴こえてくる。




「!? 人の声が聴こえる……でも……」




 モンスターや人の声が音が聴こえると言う事は戦闘中なのだろう。


 今は極力戦闘は回避し、人目を避けることを先決にした方がよい。


 何故ならトラブルに巻き込まれる可能性もあり、謎の魔法少女の姿で現れても、いらぬ誤解を招きそうだ。




「……っちだ……撤た…しろ!」




 十字路のひとつから、先程の微かに聴こえていた人の声がハッキリと聴こえてきた。


 そして、足音と共に灯りが近づいて来る。




 やばっ! こっちに逃げて来たじゃん!




 どっちの道に逃げようか迷い、オロオロしている間に迷彩服に身を包んだグループと遭遇した。


 そのグループの背後には得体のしれないモンスターが這って迫って来ているのが見えた。




「!? 人か!? モンスターか!?」




 迷彩服に身を包んだ1人の男性が私を見て驚いていた。私をモンスターと見違えるなんて大変失礼な人ですね。




「え? 人ですよ? モンスターに見えますか?」




 私は特に表情を変えるでもなく否定する。




「ちょっと何言ってんの!? 私達以外、人がいる訳ないでしょ!」




 迷彩服を着た女性も駆け足でやって来た。


 このパーティーは装備から見てサバゲー風の衣装でダンジョンアタックしているのだろうか?




「周防院! 俺は正気だぞ、ハンターらしき人物発見! 各隊員はここであのモンスターを迎え討つ!」




「「了解!」」




 ……あ、この人達知ってる……。




 すぐ側まで迫りくるモンスターを迎え討つ為に、必死に準備をしている人達の事を私は知っていた。


 彼らは陸上自衛隊のダンジョン攻略と調査をする為に結成されたエリート中のエリートだ。




 十年前、突然世界中にダンジョンが現れた時、世界中は大混乱に陥った。


 勿論、日本も大混乱になったが、国連と日本政府が何年も掛けて法整備をしている中、ひとつの組織が編成された。


 それは自衛隊による特殊訓練を受けた専門のチームであり、名称は「japan Dungeon Survey Team」通称「JDST」だ。


 彼れらJDSTは十名以上のチームで活動し、企業と日本政府から支援を受けて日本のダンジョンを攻略し、ダンジョンの秘密を解き明かす為に活動している。




 その中でも有名なのは中村 俊夫なかむらとしお 一等陸尉、そして女性である周防院 萌すおういんめぐみ 准陸尉のふたりだ。


 その二人はダンジョンデータベースのランキングにTOP30に入っている強者なのだ。


 そんな彼らはJDSTは渋谷ダンジョンの最前線にいるはずなのだが……。




「ぬぅおおおおおぉぉぉぉ……」




 JDST達を追って洞窟の奥から現れたのはヌメヌメしたナメクジモンスターだった。


 ただのナメクジではない、ミニバンサイズの大きさなので、ああいった虫が苦手な私にとっては鳥肌が立つくらい嫌で後退りする。




「誰だが知らないが、手を貸して欲しい。物理攻撃が全く効かないし、魔法もいまいち通らないんだ」




 JDSTの隊員達の装備は銃を使わず剣や槍などの武器を使っており、何故威力の高い銃を使わないか疑問に思う。




「銃で倒せないんですか?」




「は? 跳弾したら危ないだろ、何言ってんだ」




 中村さんは呆れた表情で私を見ると、何かに気が付いたのか、私の事を上から下までじっくりと観察する。




「……お前はダンジョン舐め過ぎだろ……」




 そう言われてハッとし、私は衣装が破れた胸元を隠す。


 魔法少女の姿をしている事をすっかり忘れてたよ…隠れる事もできなかったし……恥ずかしい……。




 可愛らしいデザインの魔法少女風の衣装は白とピンクを基調とした甘ロリな衣装で、ハートや星の刺繍が可愛く、背中に小さな天使の羽が生えている。




「……話は後だ、ここまで来れるって事はそれなりに戦えるって事だろ? 協力してくれ」


「……ハ、ハイ……」




 必死に戦っているJDSTの隊員達の中に入ると、好奇の視線に晒され、顔から火が出る思いだった。

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