第4話 恥ずかしくて人前に出れないです!!

 恥ずかしさのあまり、顔に熱が籠もるのを感じる。触手モンスター以外に観られていないのが何よりの救いか。




「変身が成功したのはいいけど、どうやってあのモンスターを倒せば……?」




 暗闇の中でもハッキリとモンスターを確認出来る。これが魔法少女の効果なのか? 一先ず戦うにしても逃げるにしても辺りを把握可能なのは有り難い。




 ゆらゆらと動き出した触手ボールのモンスターは獲物を狙うかのような動きをし、ゆっくりと私との距離を詰めて来る。


 あのモンスターは触手を鞭のように使い、攻撃してくる。そして殺傷能力は極めて高い……アレには注意して逃げないと……。




 ジリジリとモンスターから距離を取ろうと動くが、こちらの意図を知ってか洞窟の穴の方向へモンスターが塞ぐように動く。




 読まれてる……!?




 背後は行き止まりで、退路は塞がれてしまった。この状況では戦ってモンスターを倒すしか生き残る事は出来ないかもしれない。




 後退りした瞬間、足元の瓦礫に踏み身体のバランスを崩した時だった。




 パンッ っと空気を裂く破裂音が響くと胸に強い衝撃が走る。


 身体が宙を舞い、訳も分からず回る視界の中で私の身体は地面に叩きつけられた。




「かはっ……ごほっごほっ……」




 胸を見ると魔法少女の衣装が裂けてしまい、下着が顕になってしまった。




『まじかる☆ドレス の耐久値が80%になり、非ダメージ軽減率が低下しました』




『耐久値が8割以上失うと、魔法少女 が強制解除される場合があります』




 ポップアップしたウィンドウに書かれた内容によると、魔法少女の衣装はダメージを軽減してくれるらしい。この衣装が無ければ、あの2人のようにバラバラにされていただろう。




 一瞬、自分の死を連想し身体が強張る。




 モンスターはそんな隙きを見逃す筈もなく、触手をうねらせ私に向かって鞭のように放つ。




 咄嗟に両腕で顔を守ると、パンッパンッと衝撃音と共に腕に激痛が走った。




「っ痛ぅぅぅ……」




 先程の胸に攻撃を受けた時は息が詰まる適度で痛みはそれ程無かったが、両腕に受けた攻撃は痛みで叫びそうだ。




 歯を食いしばり、触手モンスターをしっかり観察する。


 左右の太い触手が鞭の役割をしている……他の触手はバランスを取るため? 他にも何本も触手は生えているが、鞭で使う触手よりも地面に接触している触手の方が細く短かった。その触手をなんとかすればバランスを崩し、強烈な鞭攻撃を防げるかもしれない。




 まずは触手攻撃を防がないと……!




 触手が次の攻撃の動作に入る。




 触手が動くのが視界に入った瞬間、鞭のように撓った触手が左太ももに当たり、スカートが裂ける。




「いったぁぁぁい!!!」




 あまりの激痛に膝を地面に突く。


 攻撃を受けた左太腿を見ると、太いミミズ腫れが出来上がっていた。




『まじかる☆ドレス の耐久値が50%になりました』




 何か防ぐ物は……そういえば、魔法を取得したんだっ! ……たしか防御魔法みたいなのがあったはず!




「まじかる☆シールド!」




『まじかる☆シールド 発動。残り10秒……』




 私の正面に虹色に輝いた半透明な丸い盾が出来た。


 その盾は触手攻撃を物ともせず弾き返す事に成功し、触手モンスターに一瞬の隙きが生まれる。




「チャンス! まじかる☆スターライト!」




『まじかる☆スターライト 発動。媒体無し……効果90%減少』




 手の平を触手モンスターに向けて魔法を唱えると、キラキラした星が1つ飛び出した。


 触手モンスターの体に当たると星がキラキラと輝き出し、ふわふわしたファンシーなエフェクトが発生する。


 命のやり取りをしている最中に、場違いな可愛らしい攻撃をしているので緊張感が欠けてくる。




「あ…やったかな?」




 触手モンスターは体を支えている触手がボロボロになり、地面を転げ回る。体が安定しないのか鞭を上手く扱えない様子だ。




『まじっく☆ウエポン非装備の魔法詠唱は、威力が半減します。まじっく☆ウエポンを装備してみましょう』




 ヘルプウィンドウが開きまじっく☆ウエポンの装備方法が表示される。




「そうか! やっぱステッキ的な物がないと魔法少女じゃないよね! 来て! まじっく☆ウエポン!」




 アニメや漫画の魔法少女達は何かしらの武器を持って戦う事を思い出し、ヘルプウィンドウに記載された方法でまじっく☆ウエポンを使用する。




 手元が輝き出し、何も無い所から現れたのは……




「……オタマトーン?」




 楽器が出て来た。


 オタマトーン、それは見た目がとても可愛い楽器で奇妙な音が鳴るのだが、ちゃんと演奏が出来る一品で、世界中に愛好家も存在しコンサートが開かれる程の人気だ。




「オタマトーンって使った事無いけど、さっきと同じように魔法を使えばいける……よね?」




 オタマトーンを触手モンスターに向け、心を落ち着かせて魔法を詠唱する。




「モンスターさん! 優しい心を取り戻して☆彡 きらきらみらくる、まじかる☆スターライト!!!」




 珍妙な音を出しながらきらきら光る星々が触手モンスターに向かって飛んでいく。




 何も持たないで撃った時よりオタマトーンを使った魔法は、使わなかった時より数倍のエフェクトが発生した。ダンジョン内を埋め尽くす程のハートと星、ファンシーなピンク色の世界が触手モンスターを包み込む。




「……ピッ、ピギャーーーー!!!」




 触手モンスターは断末魔を上げ泡が弾けるよう体から星が溢れて消えていく。


 そして消えたモンスターがいた場所から綺麗な赤い宝石が現れると私に向かって飛んで来る。




「わっ! なんだコレ?」




 赤い宝石は私の前に飛んで来ると、まじっく☆ウエポンであるオタマトーンに吸い込まれるように消えていく。




『デスボールの魔石を取得しました』




『魔石は魔法少女の強化アイテムです。一生懸命集め育てましょう』




「強化アイテム……」




 モンスターを倒すとアイテムが手に入る事は講習でも習ったが、その中でも魔石は様々な物に使用され用途の高いアイテムの1つだ。


 ハンター達はこの魔石を集め、ダンジョンセンターで売却して収益を得ているのだ。




「魔石を集めて金策は出来ないって事か……」




 これは非常に残念である。


 ダンジョンでの高価なアイテムは稀で、大半は魔石集めでお金を稼ぐ。


 稼いでるダンジョンランカー達は長く深くダンジョンアタックし、高価なアイテムを地上に持ち帰っているのだ。




「バイト探さないとな〜……。住み込みバイト出来る場所ってそうそう無いのよね」




 一瞬キャバクラが脳裏に浮かんだが、お酒がそれ程強くないし、ドレスを来て接客業が恥ずかしくて無理だ。




 溜息を吐くと、ひとつウィンドウが開いているのに気が付く。




『条件をクリアした事により、まじかる☆スキルブックに【魔法少女は普段は普通の少女】のスキルが出現しました。取得にはスキルポイントを使用して下さい』




『デスボールの魔石を取得し、スキルポイントが50ポイント付与されました』




『詳細はステータスの、まじかる☆スキルブック で確認できます』




 ウィンドウを確認すると、次々ウィンドウがポップアップしてくる。


 内容を確認すると魔石を得た事によって大量のまじかる☆スキルポイントを取得出来たようだ。


 まじかる☆スキルポイントの使い方はどうやればよいのだろうか? 講習では習わなかったが、ステータスの見方は習った。その方法は、ダンジョンカードを所持した状態でステータスオープンと言うだけで良いのだ。




「ステータスオープン」




 ステータスオープンの単語に反応したのか、突然の目の前にウィンドウが開き、大量の情報が羅列した。その中に私の個人情報が含まれているのだが、その内容に目を疑う。






 名前 まじかる☆が〜る ほのりん☆ミ(十条穂華)




 レベル なし


 ダンジョンランキング 10位


 称号 初代魔法少女


 クラス 魔法少女〈☆〉


 ひっとぽいんと ☆


 まじかるぱわー ★☆☆☆☆


 ちから ☆☆


 たいりょく ☆


 まじかる ☆☆☆☆☆


 はやさ ☆


 うん ☆






「な、何これ……」




 名前の表記が、まじかる☆が〜る ほのりん☆ミ(十条穂華)になっていた。


 ダンジョンカードは本名で登録する事がダンジョン国際条約で決まっており、その情報がダンジョンデータベースに乗り、ステータスウィンドウにも反映される仕組みになっているらしい。




「これって大丈夫なのかな……?」




 そして称号に視線を移し理解するのに数分を要した。




「ら、ランキング10位ぃぃぃい!?!?」




 それは世界中に公開されているダンジョンデータベースの中の、ダンジョンランキングに載った事になる。何故ランキングの上位に入ったのか理解できない…。




「……これって私が決めた名前じゃないのに、勝手に付けられた恥ずかしい名前が、世界中に公開されたってことーーー!?」




 ランキングに載った事が、私って知られたら恥ずかしくて人前に出れないです!!






 

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