第3話 魔法少女になれた

 ――ハッと意識が戻る。




 辺りは真っ暗で何も見えないが、ここがダンジョンの中なのは分かる。


 ゆっくり身体を動かすと腕のベルトが緩んでいる事に気が付き、腕を抜く事ができた。その流れで足に巻かれたベルトを取り外し、脱がされたロングパンツを履き直すとベルトで縛られた腕や足を擦る。




 ふう、怪我は…無い……それよりモンスターってあんなに強いの?




 魔法が使えると言っていた2人をあっさり殺した強さのモンスターが初心者ゾーンの1階層にいたのだ、あんなのがいるダンジョンに素人が敵う筈がないと思う。


 何故私は無事なの? 何故先程とは別の場所にいるのか分からない……。今は一刻も出口を見つけダンジョンから抜け出さないと…先程の赤い蛍光色のボールが何時現れるか分からない。




 辺りを見渡しても真っ暗で何も見えない……いや、微かに光ってる?


 目が慣れてくると僅かだか壁や天井が光っている事に気が付く。




 そう言えば、あの人達がダンジョンの下層に行くほど暗くなるって言っていたけど、ここってダンジョンの下層なのかな?




 1階層は洞窟の中とは思えない程明るかった、しかし今いる場所は僅かに光っている程度でまともに歩くことすら不可能に近い。


 鞄の中にスマホや財布などを入れていたが、あの2人組に奪われてからは行方不明だ。幸いな事にダンジョンライセンスカードはパンツのポケットに入っていた。




 ん? あれは……?




 僅かだが、キラキラと輝く物が見える。


 ゆっくり歩き瓦礫に埋まったものを取り出すと、それは金色に輝く丸い宝石のような物だった。




「綺麗……」




 ダンジョン内で手に入るアイテムには高価なアイテムが存在し、それひとつで数億円の価値がある物まで存在するのだ。この金色に輝く宝石も価値の高い物かもしれない。




 そんな綺麗な宝石を眺めていると、目の前に液晶画面がポップアップした。


 突然の出来事に驚いてしてまったが、これも講習で受けた内容にあった。




 これはウィンドウあるいは窓と呼ばれ、様々な情報が書かれた物だ。


 地球上にゲートが現れダンジョンカードが配布されると、このウィンドウが表示され様々な恩恵を得られるようになったのだ。




「えーと、なになに」




『クラスチェンジオーブ〈EX〉を使いますか?』




 クラスチェンジオーブとは何だろうか? 特に説明は無く、このクラスチェンジオーブ〈EX〉を使うか使わないかが表示されているだけであった。




「売れば暫く生活出来るかな?」




 高価そうなアイテムなので持ち帰れば纏まったお金にはなるだろう。


 しかし、それは持ち帰れたらの話で、死なずにダンジョンから出る必要がある。




「死んだら意味ないよね……この状況を打破する為には使ってみることに賭けるしかない……か」




 意を決し、クラスチェンジオーブ〈EX〉を使用するを選択する。




『クラスチェンジオーブ〈EX〉が使用しました。なりたいクラスを思い浮かべて下さい』




 なりたいクラス? クラスってそもそも何?




 クラスとは一体なんの事か理解出来なかったがその問題は直ぐに解消された。


 目の前に『クラスについて』のヘルプウィンドウが開いたのだ。




 そのクラスについてのヘルプウィンドウを読むと、クラスとは職業であり、ある一定の条件を満たすとクラスの変更が出来るそうだ。


 ダンジョンに潜りモンスターを倒したり、一定の行動をする事によって経験値を得られると、その人物の特性を活かしたクラスに変わる事があるそうで、ステータスの補正やスキルや魔法も覚えたりする事が可能だったりする。他にもアイテムを使って任意に変更する事も可能性だそうだ。




 即ち私が今使ったクラスチェンジオーブ〈EX〉は、ダンジョンで優位になる為のアイテムって事か……それなら




 なりたいクラスを頭の中に思い浮かべる。幼少期からなりたかったアレだ。


 コスプレは家で何度かやった事はあったが、恥ずかしくて人に見せる事はなかったが……。


 このアイテムを使用し、本物の魔法少女になれるのならなってみたい。




『クラス【魔法少女】が選択されました。


 世界で初めてクラス 魔法少女 が誕生しました』




『世界で初めて登録されたクラスなのでボーナスが適用されます』




『世界中にある 魔法少女 についての情報を統合し、ダンジョンデータベースに登録します』




 次から次へと文字がウィンドウに表示され、読むだけで精一杯だ。




『【まじかる☆スキルブック】が開放されました』




『条件が達成されると隠されたスキルが出現するようになり【まじかる☆スキルポイント】を消費することによってスキルを取得出来るようになりました』




『特典ボーナスが適用され、スキルポイントが10ポイント付与されました』




『【まじっく☆ウエポン〈☆〉】を取得しました』




『スキル【全ステータス補正〈☆〉】を取得しました』




『魔法【まじかる☆スターライト〈☆〉】を取得しました』




『魔法【まじかる☆シールド〈☆〉】を取得しました』




『EXスキル【まじかる☆ドレスアップ〈☆〉】を取得しました』




『詳細は【ステータス】で確認可能です』




 何が何だか分からないが、初回特典的な物が貰えてお得? なようだ。


 更にウィンドウが開き注意事項が表示される




『クラス【魔法少女】はEXスキル【まじかる☆ドレスアップ】を使用しないと、クラスの変更はされません』




 なるほど、魔法少女は変身しなければ普通の女の子だもんね~。




 ニヤニヤしてる自分に気が付き表情を引き締める。


 今はこんな場所から一刻も早く脱出しなくてはならないのだ、早速EXスキルまじかる☆ドレスアップを使用する事にしたが、あれ…変身しない? どうやって変身するんだろう?


 不思議に思っているとウィンドウが開き変身方法のヘルプが表示される、とても空気を読んでくれるウィンドウさんで非常に助かる。




『変身の秘密の呪文は らんらんらぶはーと♡まじかる☆ドレスアップ です。可愛くやるのが成功するコツです』 




「え~……」




 流石に23歳にもなって「らんらんらぶはーと♡まじかる☆ドレスアップ!」と可愛く言うには少し抵抗がある……。


 しかし、ここでやらない選択はない。


 恥ずかしさを堪え秘密の呪文を唱える。




「らんらんらぶはーと…まじかるドレスアップ……」




『可愛さが足りません。 魔法少女 に変身が失敗しました』




「なんで! 精一杯やったじゃん! 可愛さが足りないって……地味にショックなんだけど……」




 青いウィンドウに表示された一文にメンタルを削られ、恥ずかしさに悶ていると離れた場所にある瓦礫が音を立てて崩れる。


 僅かに光る洞窟内に照らさるその姿は、私や暴漢2人組を襲った来た赤い蛍光色のボールの形をしたモンスターだった。


 鈍い赤色を反射させ、ゆっくりと此方に向かって来るのが見える。


 まずい……私が騒いでいたせいで動き出したのかも……?




 非常に危険な状態だ、今まで近くに居たのかもしれない。


 呑気に魔法少女の秘密の呪文を唱えていたのが仇になってしまったようで、この暗闇で走って逃げる事は不可能。恐らく変身出来るチャンスは一度きり。




 ゆっくりと近づいてくるボールのモンスター。




 やるしかない、全力で可愛く……!




 緊張で喉か乾く。


 深呼吸し、秘密の呪文を唱える準備を整える。




「らんらんらぶはーと☆まじかる☆ドレスアップ!!」




 眩い光が洞窟内を照らすと、身体の変化に気がづく。




「あわわわわ……!」




 星やハートが身体から吹き出すと辺りに広がり、ファンシーな空間が広がる。


 更に着ている服が消え去り、産まれたての姿になってしまった。


 身体が虹色に輝いているお陰か、見えちゃいけない物は隠せているが身体のラインがハッキリと分かってしまう。


 ヤダ…恥ずかしい…ダイエットしなきゃ……。




 キラキラした虹色の粒子が辺り一面に溢れ出し、効果音と共に身体にジャストフィットする可愛らしいデザインの魔法少女風衣装が次々と装着されていく。


 いっぺんに変身しないのはアニメの演出と同じだろうと理解出来る、しかし変身中に攻撃されないかとヒヤヒヤしながらもモンスターに視線を送ると、当のモンスターは微動だにせず動きを止めていた。




 待ってくれているのかな? ……そんなまさか。


 攻撃出来るチャンスはいくらでもあるが、モンスターは何もしてこない。


 変身が終わるまで攻撃をしないお決まりのパターンなのかな?




 そんな事を考えている間に変身が終わる。




「らぶり〜まじかる☆が〜る♡ ストロベリーほのりん☆彡」




 何故か変身後のポーズを身体が覚えてるかのように動き、決め台詞が勝手に口から漏れると、恥ずかしさのあまり死にそうになった。


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