番外編 騒ぎの原因は体質にあり。


 風呂上がりの日明あきらはうなされる。


「う〜ん、ひ、引っ張り出せない。足が滑る」


 日明あきらは幼き日の夢を見ているようだ。

 うなされるという事は悪夢に違いないのだが一体何が引っ張り出せないというのだろう?


「も、もう少し、が、頑張れ、破れた、パンツは、諦めろ」


 いや、本当にどんな夢を見ているのだろう?

 

「もう少し、もう少しだから、が、がんばれ!」


 直後、日明あきらは目を覚まし、目の前にて涙ぐむ優希ゆきに気づく。


「え?」

「ぐすっ」


 起き抜けに呆然とした日明あきらは、


(お、俺は一体? 確か、風呂で・・・あっ!)


 倒れる直前の出来事を思い出す。

 それはフラついて優希ゆきに覆い被さった事だった。その前の出来事までは覚えていないが、日明あきら優希ゆきに覆い被さった事だけは覚えていた。


(というか、この妙な既視感は何なんだ? 唇に当たった感触といい、直前で見た夢といい)


 日明あきらの見た夢。

 そこには大変可愛らしい女の子が居た。

 妹の夏海なつみより可愛いと思える女の子。父方の親戚との話だったが、見た目が母方の親戚に思えた日明あきらだった。

 悪夢は親戚の子供等と遊んでいる最中の事。

 女の子は身内の子供等から近所のため池に落とされて、危うく溺れてしまうところだった。

 ため池の周囲には実父に良く似た小柄の男も居て、気持ち悪い顔で笑っていた。さっさと死んで生命保険とかなんとか発しながら。

 それを見た日明あきらは慌てて駆けつける。小柄の男は慌てて逃げる。子供ながらに濡れに濡れた重たい女の子を引っ張り上げた。

 最後は勢い余って口づけを交わしてしまい、


(い、一体、過去に何があったっていうんだ)


 そこで日明あきらは目が覚めた。


(忘れていた何かだという事は分かる。だが)


 呆然と見上げる日明あきらは、何故か涙を流す優希ゆきへと手を差し伸べる。

 

「何を泣いてるんだ。可愛い顔が台無しだろ」


 その言葉は不意に出た言葉。日明あきら自身が考えて発した言葉ではない。

 日明あきらの言葉を聞いた優希ゆきは更に涙を流す。


「お、思い出してくれたんですね・・・」

「は、はい?」


 日明あきら優希ゆきの言っている意味が理解出来ないでいた。

 思い出すも何も、女の子だけを思い出しただけで、それが優希ゆきと何か関係があるとは思っていない日明あきらだった。

 日明あきらは呆然としたまま周囲を見回す。


「と、ところで、ここは?」


 優希ゆきは涙を拭って答えた。


「ぐすっ。あ、女子寮のリビングです」

「お、俺の服は?」

「私が着せたと言いたいところですが、夏海なつみさんが着せました」

「そ、そうか。まぁいいか、夏海なつみなら」


 今更、妹に見られたところで恥ずかしい気持ちなど無かった日明あきらだった。

 だが、ここで日明あきらは妙な違和感に気づく。


「も、もしかして、膝枕か?」

「もしかしなくても膝枕です」

「わ、悪い、重かっただろ」


 日明あきらはそう言いつつ頭を持ち上げようとした。

 しかし、


「もう少し横になっていて下さい。お風呂で倒れてからまだ数分しか経っていませんから」


 優希ゆきによって強引に膝の上へと戻された。否、膝の上ではなく膝の間が正しいだろう。


「うわぁ!?」

「きゃっ!」


 優希ゆきは知らず知らずの内に自身が身につけていたバスタオル内側へと日明あきらの頭を収めていた。勢い余ってバスタオルも解け、息苦しさからバスタオルを取っ払った日明あきらの目が点となった。


「は、は、はだ、裸? はだ・・・」

「え? あ、日明あきら君? ちょ!」


 目が点になって、鼻血を垂らし、またも気絶した日明あきらだった。

 そう、まだ数分しか経っていないのだ。

 夏海なつみ達が日明あきらを外に連れ出す間、優希ゆきも共に外へ向かったままだったから。

 バスタオル一枚でリビングに向かい夏海なつみ達を追い出して日明あきらの膝枕を行っていた優希ゆきだったのだ。

 すると外で様子見していた夏海なつみが駆け寄る。


「お兄ちゃん!? 優希ゆきねぇはなんてはしたない格好で悩殺してるのよ!」

「悩殺なんてしてないわよ!!」

「悩殺しているから、女の子に免疫の無いお兄ちゃんがぶっ倒れているんでしょ?」

「うっ」

「はいはい、痴女は出ていった、出ていった、ここからは私が面倒を見るから!」

「ちょ、ちょっと!?」


 その日の優希ゆき日明あきらに対して、思い出したかどうか問い詰める事も出来ないまま、戻って来た夏海なつみによってリビングを追い出されてしまった。


「あれは、思い出してくれたんですよね?」


 ボソボソと呟けど答えは返って来なかった。

 リビングに残った夏海なつみは、


「いい加減、自分がラッスケ誘発者だって気づいて欲しいよね。結婚を約束したのもパンツが脱げて、全て見てしまったお兄ちゃんから言い出した事だけどさ。とはいえ、何のためにゆうさんと同じ部屋にしていると思っているんだか。お世話して余計なお世話までしてどうするのよ、まったく!」


 端で佇む、苦笑中のゆうを眺めながら、呆れと共にブツブツと呟いていた。


「お、檻って酷いよぉ」

「でも、本当の事ですよね」

「そ、それは言い返せない」

「ラッスケ誘発者が二人揃うと何かが起きるって母さんが怯えたほどだからね?」

「ごめんなさい」



  §



 《あとがき》


 可能なら続編も書きます。

 その時は練り直してからになるかもだけど。


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