ウチの寮生(クラスメイト)達があり得ない距離感で迫ってくる!?─ポンコツ寮は今日も大騒ぎ!─
白ゐ眠子
第1話 茫然自失な現実。
「なんだこれ・・・親父の野郎、電話代払ってねぇ。払えって渡したはずなのに何処に消えやがった?」
ある日の夕方・・・
「更地だよな・・・周囲に人っ子一人居やしねぇ。一体何があったんだ?」
肩に掛けてあったドラムバッグはあまりの出来事に力が抜けたのか道路に落ち、ボスンと音を立てて転がった。
「はぁ? 火事だって!? 原因は不明? 火元は一階? ウチではないか」
ニュースの内容は死傷者無しとあった。昼間の誰も居ない時間帯に発生したもので原因は消防が調査中とのことだ。更地となっているのはそれだけ火の手が凄まじかったということだろう。よく見ると両隣にまで影響を与え、ブルーシートで覆われて半焼となっていることが分かる。
「制服も無い。教科書も無い。唯一、修理でバイト先に預けている単車が無事なことだけは良かったが、車検証とか書き換えが面倒になったぞ。肝心の親父も居ねぇし・・・どうすんだこれ?」
それまでの三日間は入学した県立高校の宿泊研修に出席していた。それはクラスメイトたちとの親睦を深める名目の課外活動であり、ぼっちでコミュニケーションとは無縁の
なお、
バイト先はバイク屋ともあってそれほど接客をしなくてもよい店とのことだが。
「母さんに。いや、この時間は忙しいって言ってたし、連絡すると怒られるか?」
電話の相手は
失踪した父とは故あって離婚し、陽キャの妹・・・
「いや、連絡を取らないと野宿確定だ。ええい、ままよ!」
ちなみに、肝心の妹からはキモいという理由でブロックされており連絡はつかない。街中で出会おうものなら白々しい視線とともに無視をくらう。例外があるとすればフルフェイスヘルメット姿で単車に乗っていると、荷台に乗っかってくるという不思議な行動を取るくらいだ。それこそ顔を隠せば真面と思われているようだ。
顔立ちは兄妹ともあって大差ないが、似ていることが恥ずかしいと思っているらしい。
なお、
電話はしばらく待つと留守電に切り替わる。
「親父が居なくなった。家もない。野宿確定」
実に率直なメッセージだ。余計なことをツラツラと言うと時間の無駄と怒られるため必要不可欠なことだけ伝えたようである。
「新作が入ったから買ってみれば、隣街に向かう電車賃が無いとは。定期も真逆だし・・・いや、ホント参った。せめて単車が直っていれば助かるが、多分まだだろうな。部品の取り寄せに時間が掛かるって言ってたし」
そこには真新しいゲームソフトが入っていた。バイトで稼いでは生活費を切り詰めながら単車の維持費とレースゲームに注いでいた
すると、
「あ、母さんからだ・・・」
今は信号待ち。出るならこの時しかないだろう。
「もしもし?」
電話の内容はあまりにもショッキングな内容だった。
母は淡々とした口調で呆れの色を滲ませていた。
『
「は?」
『驚くのは分かるけど、アレの本性は相変わらずのようね・・・都合が悪くなるとトンズラするのよ。どうせまた借金拵えて』
「は? どういうことだよ?」
『それはそうと・・・今は駅前?』
「ああ・・・そうだが?」
『そう。これは外で話すことでもないし・・・そのままウチに来なさい。部屋は
ここで突っぱねても良い事はないからだ。
「わ、わかった・・・でも学校は?」
『そうね・・・転校しちゃいましょうか。成績は上位よね?』
「い、一応? まだ中間前だから明確に上かどうかは分からないけど」
『奨学生で入学したって聞いたけど? 一年次はどうだったの?』
「・・・次席ではあったかな。生活費のためにバイトしすぎて勉強が疎かになったから」
『ホント、子供を馬車馬の如く働かせて自分は好き放題って呆れて物が言えないわ。自分から親権を欲しておいて逃げ出すとはね〜。だから言ったのよ。アンタには子育ては無理だって』
「その親父の血を半分は受け継いでるけどな」
『でもその悪いところが遺伝してなくて安心しているわ』
「どうだろ? ゲームソフト買って電車賃が無いから」
『・・・』
「母さん? 怒ってる?」
『呆れただけよ。それくらいはまだ良い方だからいいけど。
「た、確かに」
『さて・・・このまま
『かーさん、ごはーん。お腹すいた〜』
『
『えーっ!? 嘘でしょ!? と、隣部屋だよね? 写真を片付けないと!!』
『一体何を隠してるんだか?』
それを聞いた
ドタバタと走り去る妹の反応はいつもの事だと受け流して。
周囲では駅前からタクシーがズラズラと走り始めていた。空は夕暮れとなりサラリーマンの帰宅と学生の帰宅が重なった。
「え? それって親権を?」
『そうよ。未成年である子供を捨てた者にどうこう言う権利はないわ・・・』
そう、母は
親権を得ている割に仕事嫌いのぐーたらな父。
それも何かをやらかしたうえで彼を置いて失踪した。
大方、サラ金から逃げているだけであろうが。
その間も母は厳しい口調で続きを語る。
『早々に手続きしましょう。未成年とはいえお金を稼ぐ事の出来る息子の有無に気づいて追いかけてくるわよ。名字が違えば手出しは出来ないし、いざとなったら実家の弁護士に動いてもらうから』
「いいのかよ。実家とは折り合いが悪いだろ? 駆け落ち婚だったから」
『構わないわ。身を守る術だもの。それに汚点と気づけただけ儲けものよ』
飲んでいるなら車を出して貰うわけにはいかない。
「そういえば、ハードねぇじゃん・・・」
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