第4話

 だが、案外明るい彼女の案内で入った中では、結構な精神的地獄が待っていた。


「おやアマリア、お客様かい?」

「そうよお母様、学校時代の同級生だったリズ。こんなに今は太っているけど、侯爵夫人なの。立派でしょう?」

「おやまあ、うちの娘に会いに来てくださってありがとうございます。こんな頭の出来が悪い子のところに、よくいらしてくださいまして」

「あ、いえ、昔はアマリアの詩や絵にはずいぶんと感銘を受けまして……」

「まあそうですの! あのよく判らないつらつらと並べた歯の浮くような言葉がお気に召していたのですか! 何ででしょう! 何のためにもなりませんのに。ねえ貴方そうでしょう?」

「ほぉ? おお、お友達かね。いや本当に、この嫁ぎ先を追い出されてしまった馬鹿娘のためにわざわざ足を運んでいただいてありがとう。ところで今のお嬢さん方は皆結構すらっとしたスカートを履いていると思うのだが、貴女はそうではないのかね?」

「やだ貴方、あのスカートはお尻が大きすぎると広がってしまうのよ。だからそういう場合には広がったスカートを履くのがいいに決まっているじゃない。ねえリズさん、そうでなくって?」

「そうなんだ! てっきり私、貴女が地味好きだからとずっと思ってた! 大変だったのね」

「……は、はあ」


 私は顔を引きつらせた。

 なるほど、諸悪の根源はここにあったのか。

 その後、このご両親から別居の顛末を聞いた。


「いや正直言って、向こうが何で娘を手放したのかよく判らないんですよ私達には。娘は正直でいい子だと思うんですがねえ」

「……あの、実際何って言われて…… なんですか?」

「息子達の教育に良くない、ということたでしたねえ。それはもう、向こうの方がずいぶんと真剣なお顔でこうおっしゃるんですよ。『父親の悪口を母親に聞かされ続けた子供はまともに育たないから、出ていって欲しい』って。悪口って、向こうの方、何をおっしゃってるのでしょうねえ」

「そうなの。あのひと結婚した時よりどんどんお腹が出てきているから太った、デブだ、このままだと豚みたいになる、とか。怒らないひとだから大丈夫、と言ってはいたんだけど」


 怒ってる。

 相当向こうのひと、怒っている。

 ……まあ当然だろう。

 その言葉の端々に愛が感じられればともかく、ただずけずけと言うだけでは悪意にしか聞こえない。


「あとそうね、臭くなってきたわ。ちゃんとお風呂入ってね、と言ったこともあったわ」

「もしかして、それパーティとかでも言っていた?」

「え? どうだったかしら」


 記憶に無い、か。そのくらい普通に言っていたとみた。

 ああ全く!

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