第3話

 勉強の基本は「読み書き計算」。

 この「計算」が本当に危うかった。

 計算そのものができないのではない。ミスが多すぎたのだ。 

 そう、ともかく雑なのだ。

 そして注意不足。

 これは刺繍や料理の時間には危ないことすらあった。

 絵は、それ自体は美しくできるのだが、ともかく道具をひっくり返して大変なことになることが多かった。

 ダンスの時には足を踏みつけてしまう、のは当たり前、回る方向を間違えることも多かった。

 とは言っても、落第するとかそういう程ではなかったのだ。

 そしてやはり失言は年を経ても変わらなかった。

 先輩へのそれは周囲の子達が連帯責任を怖れて口を塞いできたので何とかなったが、今度は彼女の暴言に下級生が泣かされることになった。

 何故素晴らしい表現力を人間関係には良い方に生かせないのか? は皆謎だった。

 恐ろしいことに、全くもって悪気が無いのだ。

 慣れてしまうと、ああもうこの子はこんなものだ、ということで周囲がフォローする様になった。

 そして何とか卒業する頃、彼女はちょうど美貌が花開く頃だったのだ。



 私は何となく気になって、彼女の実家を訪ねてみた。

 すると彼女は勢いよく飛び出してきた。


「まあリズ何ってお久しぶり! 貴女全然変わらないで地味ね! 髪もひっつめて! その服凄く時代遅れよ。もっと明るい色で、スカートもしゅっとしたものにしたらどう?」


 いやもう予想通りに全く変わっていない。

 確かに最近では、女性の服の流行も、男性のスーツにやや寄せた襟やタイを付けた上下が主流だ。

 スカートにしても無闇に広げるのではなく、すっとまっすぐに近い形になりつつある。

 とは言え私のスカートがたっぷりしているのは理由がある。

 はっきり言えば体型だ。

 若い頃と違い、結婚して子供を産んで~などなどの間に、私の体型もずいぶんと変わった。

 娘の頃の様に肉の無い肩という訳にもいかないし、腰だって太くなっている。

 私だって流行のラインのスカートを持っていない訳ではない。

 だが彼女の前でそれを着たら、露骨に変わったラインを見せつけることになる。

 そうしたらどうだ? 

 彼女のことだ。

 また思った通りのことを何の考えもなしにずけずけ言うだろう。

 私は自分の体型のことを自覚しているとは言え、さすがに彼女には言われたくない。

 ああもう、離婚したくなった夫君の気持ちがよくわかるというものだ。

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