第2話

 ただ、学校の方では寮ほどではなかった。

 授業と授業の間の休憩は次の支度で忙しいから無駄口をきいている暇が無い。

 授業中のお喋りはそもそも厳禁だった

 そして驚くことに、教師をやっている側が、彼女のその思ったままを言う態度を案外評価していたのだ。

 特に詩を作ったり手紙文を書いてみるとかの授業の評価が高かった。

 まあそれはそうだ、と当時の彼女の寮での評判を聞いていた私も思った。


「まあアマリアさん、貴女の表現力は何って豊かなんでしょう!」


 自作の詩を朗読する時の彼女は、またこれが真に迫っていたのだ。

 私も一つよく覚えている課題がある。


「シェイクスピアの作品から一つ選び、自分なりのテーマを考えて詩を考えて読み上げなさい」


というものだ。

 彼女の選んだ作品は「リア王」。

 テーマは「上の二人の姉の気持ちになって考えてみる」だった。

 「リア王」は、王が三人の娘にそれぞれどう思っているか言わせ、それに応じて遺産を相続させるのだが、嘘つきの二人の姉の言葉に惑わされ、正直で真に父親を愛している末の姫の気持ちは伝わらず、結局そのために悲劇が起こるというものだ。

 ちなみに私は三女のコーデリアに求婚するフランス王の気持ちを想像して書いた。

 というのも、男の立場から姫君を褒め称える方だったら、多少甘くても大丈夫だろうな、という計算もあった。

 ずるいとは思うが、あまりこの類いのことが得意ではない私の逃げの手段だった。

 それに、やっぱり巧言令色駆使して相続した後に父親を捨ててしまう姉には共感できない。

 コーデリアとかフランス王、リア王や道化師を選んだ方が無難なのだ。

 のだが、アマリアはこの二人両視点で会話形式の詩を発表したのだ。

 正直言おう。

 実に出来が良かった。

 先生は「まあ何って斬新な視点なの」「真に迫っていて素晴らしいわ」とのこと。

 実際皆驚いたものだ。

 だがその一方で寮生はしらけていた。あああの子、そのまんまそう思っているのね、と。

 手紙文の方は、一つのことに関しての描写が素晴らしい、という評がついた。

 「**が**な時に送る手紙」という様に具体的にテーマが決められていたからこそだろう。

 彼女は思った通りを告げる形でも、酷い失言にはならないのだ。

 そしてその一方で、中に出てくる花の姿の描写や自分がそれにどう思ったかとかが美しくこと細かに記されると、さすがにそれには寮生ですら出来がいいと認めざるを得なかった。

 ただし彼女が飛び抜けて評判が良かったのはそれだけだ。

 あとは…… ともかく注意が足りない彼女は、他のどんな教科においても、人の手助けでぎりぎり、というところだった。

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