彼女が離婚されそうなのはまだ判るけど、私は一体どうしてなの?

江戸川ばた散歩

第1話

「リズ、君はしばらく別荘の方に行ってくれ」

「え、それは」

「しばらく別居だ。君もよく考えておいてくれ」


 私はそのまま部屋を出ていく彼の背中をしばらく見送っていた。

 何でこんなことになったのだろう。

 そう、きっかけは確かこんなことからだった……

 


「そう言えばリズ、聞いた? アマリアが離婚されそうなんだって!」


 久しぶりの学校時代の友人が幾人か訪れ、お茶会をしていた時だった。

 四方山話の中、唐突にその中の一人がそう振ってきた。


「アマリアが? え、でも確かあのひと、望まれて侯爵家に嫁いだんでしょう?」


 私はそう問い返した。

 そう、昔同窓だったアマリアは、当人が男爵家であるにも関わらず、向こうの跡取りの息子に是非にと乞われて結婚した…… はずだった。


「うん、詳しいことは知らないけれど」

「あ、詳しいこと知ってるわ」


 また別の一人が口をはさんだ。


「何でも旦那さんのことをいつも人前でも醜いとかデブとか気持ち悪いとか言っていたんですって」

「ええっ! あのひとまだそんなことやっていたの!?」

「ああ…… まだそんな風だったのか……」

「さすがにこんな暴言を常に吐く妻は子供のためにならないからって、今とりああえず実家の男爵家に返されているそうよ」

「そうなの……」


 私はそれを聞いて二つのことを思った。

「哀れだな」と「やっぱりね」だった。



 彼女と私達が同じ学校に通っていたのは、私達が13から17までの頃だ。

 貴族の娘としての花嫁学校と言えばいいだろうか。

 無論男女は分けられていた。

 結婚は両親が決めるものだし、社交界に出るまではあくまで修行に努めろ、ということだった。

 通いと寮生の両方があったが、私は近場だったので家からそのまま通っていた。

 彼女は学校がある都から少し遠いところに領地があったので、寮生だった。

 アマリアは当時、寮では最初から問題児だった。

 と言うのも、入った当初から寮の先輩達に対し、その容姿を思ったまま口にする癖があったのだ。

 たとえば最初の年の寮長は非常に背が高く、肩幅も広いひとだったので、


「寮長さんが男だったらよかったのに! 大きくて格好いいけど、男のひとがしぼんじゃいますよ」


 13の子供が言うことだから、と当時の寮長はできたひとだったから静かに注意しただけだったが、実際そのせいでドレスを作る時に余分な手間がかかると両親に言われていた先輩は、その言葉に酷く傷ついたらしい。

 無論同級の寮生にも容赦無かった。


「うわあ、そんなに小さい目で見えるの?」

「その髪の色、にんじんみたい」

「どうしてそんなに縮れた髪の毛なの? 誰か親戚にいるの?」

「嫌だ、その石鹸の匂いきつすぎない?」


 ちなみに最後のそれは、その子の肌に効く成分自体の匂いを香料で消していたのだ。

 まあそんな風に、日常生活で、思ったことをずはずばと言う子だった。

 しかも実に残念なことに彼女は誉めるということを知らなかった。

 そのまま言うか、けなすことばかりなのだ。

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