第4章-③ 豚の始末
アポロニア半島の最南端、つまりロンバルディア教国の最南端に位置しているのが、ルヴィエール砂漠である。面積約17万㎢の不毛の地で、そのほとんどを
かくのごとく利用価値のない土地ではあるが、それだけにこの地に使途を見出す者もいる。
それが、クイーンである。彼女は政戦両略の天才ではあるが、むやみに人の命を奪うのが嫌いで、のちには死刑を限定的に廃止したほどでもある。しかし、例えば義妹で内戦の一方の当事者であったカロリーナ王女を凌辱し殺害した山賊フランキーニ一党に対する憤慨と憎悪は甚だしく、その処分としてこのルヴィエール砂漠への
死刑ではないが、事実上の死罪であるとは言える。砂漠には人はおろか、栄養源となりえる動植物や水の供給地であるオアシスもほとんど見られず、まして第一師団に捕縛された段階で彼らは足首から先を切断されており、自力で生存していくのは到底不可能と言っていいからである。
クイーンは流刑の実施を第一師団のカッサーノ副師団長に命令したが、まさか彼ほどの重職の身がわざわざ辺境の砂漠に赴いて罪人を捨ててくるだけの仕事に従事するはずもなく、部下の誰かにその責務を全うさせる必要があった。
この汚れ仕事を自ら進んで請け負ったのはティム・バクスターという第一師団
前職が獄吏であっただけに、犯罪者や敵対者の扱いは十二分に心得ている。適任と言うべきであった。
彼はフランキーニ一党九人を縛り上げた上で三台の荷車に分乗させ、これを馬で
しかし豚と共通しているのは、彼らは自分がどこに向かっているのか、そこに待ち受けている末路がどういったものであるかを知らないという点にある。
それを知らされていたら、彼らは絶望して、舌を噛んででも死のうとしたかもしれない。
国都を出てから8日目。過酷な旅程を終えて、荷車は停止した。積載された人間は奇跡的と言うべきか、全員生きていた。手足を縛られ、糞尿に浸されても、最低限の水と食料さえ与えられれば、人間という生き物は8日間にもわたって生存できるのだという実証と言える。
バクスターは罪人どもを下ろし、縄を馬の胴に結び直させ、ナイフを片手に親分のフランキーニへと語りかけた。
「よぉ、そろそろお別れだ。旅は楽しんだか?」
静かだが、威圧的で不穏な響きのする声である。虜囚に底知れぬ恐怖を覚えさせるにはふさわしい声音であったろう。
実際、フランキーニらはがたがたと殺される前の豚のように震えている。
「そんなに震えなさんな。別に殺そうってわけじゃない。ただ、残念なことにお前らみたいな豚野郎どもには、この国に居場所がない。だからお前らだけでもうちょっと旅を続けてもらう。行先は、地獄だよ」
バクスターの部下らはきびきびと動いて、全員の手首を馬にくくりつけた。それを確認した彼は躊躇なく号令を下した。
「運がよければ、生き伸びる。お前らが強運であることを祈ってるよ。やれ」
部下どもが次々と馬の尻に
最後に、フランキーニの番である。彼は必死に命乞いをしたが、彼の手下たちと同様に処された。馬が走り出すと、彼のいくらかしぼみ始めた巨体は
罪人らの姿がことごとく視界から消えたあと、バクスターらは馬を引き返させ、国都方面へと帰還の途に就いた。日中の砂漠は、
王族殺しの処分は終わった。同じ日、クイーンがカルディナーレ神殿からレユニオンパレスに到着した。
醜悪な賊を討ち平らげた国は、新しい君主を迎えて、生まれ変わろうとしている。
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