Episode2-3

 数時間後。

 状況は何も変わらないままだった。

 全員がただ目を瞑って、何かに苦しみながら立っているという状態が続いていた。


「くそ。できない……」

 

 集も同様に止まっていた。 

 

(他の皆は……)

 

 そう思い周囲を見渡した。

 千尋と昴は何やら苦しそうだった。

 さつきは少し汗をかきながらも集中しているようだった。

 イレーナはとても静かだ。

 全員がそうかと思ったが一人だけ違った。

 翔の方を見ると、周りと何かが違った。

 両手に双剣を持ちながら立っている。これだけならば武器を持ちながら行っている者は他にもいるため何も不思議ではない。

 集が感じた違和感はやがて目に見える形で現れる。


「お、おいあれ見ろよ」


「稲妻?」


 集だけでなく、他にも翔に注目する人が出てきた。

 翔の双剣に稲妻が発生しているのだ。

 まだ途切れたりはしているが、おそらく特殊能力の一部と言えるものだろう。


「へえ。君は稲妻かあ」


 皆の様子を見ながら歩き回っていた橘が翔に近づき言葉をかけた。


「は、はい」


「おい翔。どうやってやったんだよ」


 そこに昴が近づいてきた。


「橘さんの言った通りやっただけですよ。ただイメージといっても……何というか、自分から想像するのではなく、自然と湧いてくるというか……上手く言えないです」


「何だよそれ……まあ、もう少し頑張ってみるか」


 そう言うと昴は再びイメージを試みる。

 他の皆もそうした。


 翔が成功するまでは本当にこれで特殊能力の発現に繋がるのかという空気が漂っていたが、それはやがて崩れ始める。

 霧島の隊員ではなかったが、橘や天沢の隊員のうちの何人かが特殊能力の発現し始めた。

 それは炎や水、様々だった。

 先ほど集に絡んできた男も成功したようだった。

 武器は持っていないため、己の手で戦うのだろうか。

 どうやら風に関する能力を手にしたらしい。

 男の体の周囲で強い風が吹いている。


「やりました! 天沢さん!」


「ああ。いいぞ。如月」


「ありがとうございます!」


 男の名前は如月というらしい。

 直後集の方を向いて、どうだと言わんばかりの表情を見せてきた。

 

(皆すごいな)


 集はそう思いつつ、再び目を瞑る。


(俺の戦い方、能力……)


 集中するが、やはり駄目である。

 直後、一人の男が能力を発現した。


「うお、きたあ!」


 それは昴だった。

 右手に携えていた槍の周りを、竜のような形をしたものが動いている。


「やりましたね。昴さん!」


 さつきが昴にそう言った。


「おう! やっとできたぜ。さつきもがんばれ!」


「はい!」


 昴はとても嬉しそうだった。

 これで霧島隊のうち二人が能力を発現したことになる。


「俺だって!」


 そう言ったのは千尋だった。

 次の瞬間。

 千尋の持っていた剣が炎に包まれる。


「やった!」


 集の前にいた千尋は集の方へと振り向き、喜びに満ちた表情をする。


「ああ。やったな!」


 これで残すは三人。集とイレーナとさつきが霧島隊で能力を発現していないことになる。

 他の隊の人も半分以上が既に成功していた。


 空は暗くなり始めていた。その時だった。

 突如空にゲートが出現し始めた。

 集たちのいる港区の上空にも多数のゲートが出現している。


「来たか……」


 橘は空を見上げながらそう口にした。

 そしてプロセッサーより聞き覚えのある声が聞こえてくる。


『スペクターの出現を確認。各自指定の小隊に合流した後、指定されたエリアの制圧に努めてください』


 次の瞬間。

 ちょうど真上辺りにあったゲートから一体のスペクターが降ってきた。

 それは勢いよく地面に落下すると辺りに激しい砂埃を巻き上げた。

 形は蟲型だ。全長三〇メートルくらいはありそうである。

 そのスペクターは頭と思われる部分を集たちイニシエーターの方へと向けると、今にも突進してきそうな動きをとった。


「あれはいくらなんでも……」


「ちょっと蟲型はやめてよ」


 色々な声が飛び交っていた。


(くそ……今の俺じゃ……)


 集はまだ能力を発現できていないことからも、自信を失っているかのような表情をする。


「ちょうどいい……君たち、俺の能力を見ていろ」


 そう言いながらスペクターの居る方向へと歩き出したのは橘だった。

 集たちよりも数十メートルほど前にでるとそこで立ち止まった。

 相変わらず右手はポケットに入っている。


(左右のハンドガンを使うのか?)


 集は橘の動きを見て不思議に思った。

 左右のポケット辺りに携えられたハンドガンを扱うのかと思っていたが、全くその雰囲気が感じられない。

 そうこうしていると蟲型のスペクターはけたたましい唸り声のようなものを轟かせた。そして集たちに向かって走り始めた。

 既にその背後では他のスペクターもゲートから出現し始めていた。


(まずい!)

 

 集はそう思った。

 しかし次の瞬間。

 橘は空いていた左手の指で軽く音を鳴らした。

 それと同時に、橘の背中から燃え盛る羽のようなものが左右二本ずつ、合計で四本生えてきた。

 そして橘は数十メートルほど上昇した。ある程度の高さになったところで静止した。

 そう思ったのも束の間。

 橘は背中にある羽のようなものを用いて、こちらへと向かってくるスペクターにものすごい勢いで突っ込んでいった。

 再び辺りに激しい砂埃が舞う。


(どうなってるんだ!)


 集は吹き荒れる砂埃から手で顔を守りながら橘がどうなったのかを確認しようとした。

 しかし視界が悪い。


「燃えろ」


 そんな声が聞こえた気がした。

 次の瞬間。

 辺りの視界が一気に開ける。

 それと同時に、直前まで集たちを殺さんとし凄い勢いで迫ってきていた蟲型のスペクターは激しく燃え始めた。

 そのスペクターの視線の先には橘が立っている。

 どうやら空中からスペクターに突っ込んだ後、スペクターの動きを止めていたらしい。そして燃やしたのだった。


「す、すごい……」

 

 集は思わず言葉が漏れてしまった。

 それに加え、橘の隊員以外は全員が驚いていた。

 しかし同時に橘の背中にあった羽のようなものは消えてしまった。


「皆よく聞け! 今回の俺たちの担当するエリアはまさにここだ。警戒レベルも最大で三だ。先ほどまでやっていた能力の発現に関する訓練の延長だと思って戦え」


 橘は集たちの方向を向かずにそう言った。

 しかしその言葉で場の全員にスイッチが入る。


「そうだな。折角なら今すぐこの能力使ってみたいぜ」


「やるか!」


 様々な声が飛び交う。

 橘が一番大きかったスペクターを倒したため、残ったのは小さいヒト型や蟲型のスペクターのみとなった。数はそこそこ多いようだった。


「攻撃開始」


 橘の言葉で全員が走り始める。


「焦る必要はないからな」


 走りながら霧島は集にそう言った。


「は、はい。ありがとうございます」


 会話が終わると霧島は集よりもスピードをあげ敵に突っ込んでいった。


 ***


 数分後。

 辺りのスペクターはほとんど倒し終え、あともう少しといった状況になった。

 それぞれが直前に発現させた能力を駆使しつつ戦っていた。

 幸いなことに犠牲者もまだでていなかった。


「楽勝だなこれは」


 昴は槍をスペクターに突き刺し、それと同時に現れる竜のようなものを駆使して戦っていた。槍で刺すと、それを追随するように竜もスペクターの一部を貫通していた。


「最後まで気を抜いてはいけませんよ」


 翔は喋りながらも、稲妻を帯びている双剣を用いて冷静に敵を一体ずつ切っていた。


「わかってるよ!」


「二人とも調子が良さそうだね」


「それは千尋さんも同様でしょ」


「まあね」


 千尋の扱う燃える剣は以前とは比にならない攻撃力を有していた。

 近づいて来るスペクターを一刀両断にしていく。

 

「きゃあ!」


 突如女性の声が響いた。

 集たち霧島隊はある程度まとまった場所で戦闘に徹してしたが、天沢の隊員たちは無造作に散らばって戦っていた。

 そのうちの一人が数十メートルさきでヒト型のスペクターによる攻撃を受けそうになっていたのだった。尻餅をついていたので逃げることもできそうになかった。

 それを理解したのは霧島隊の人間だけだった。

 他の者は少し離れた場所で戦っていたため気づけていない。


(まずい!)


 昴や翔、千尋はそう思う。

 何故なら彼らの扱う武器は近距離戦に長けているからだ。

 助けようと足を動かすが距離が遠い。


(間に合わない!)


 そう思った時だった。

 水色に光る二つのエネルギー弾がスペクターに向かって

発射された。

 それを受けたスペクターは木端微塵になった。


「!?」


 千尋たちは弾の飛んできた方向を見る。

 そこにはさつきが立っていた。


「今の……さつきが……」


「さつきさん……」


「さつきちゃん……」


 どうやら能力の発現に成功したらしい。

 しかし本人もしっかり状況を理解しているわけではなそうだ。

 自らの攻撃に驚いている。


「わ、わたしも……」


「ああ。できたじゃないか」


 昴はさつきの元へと駆け寄りそう声をかけた。


「できました!」


 さつきは優しい笑顔を見せた。




 

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イニシエーターズ 空翔 / akito @mizuno-shota

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