Episode1-8

『イニシエーター、レンジャー及び戦闘に参加する皆さまは、各自指定の小隊に合流した後、任務の遂行に努めてください』


「スペクターが現れたのか!?」


 昴は驚いた様子で言う。


「ああ。幸いなことに私たちは小隊全員が既に揃っている。素早く指定エリアに向かうぞ」


「はい!」


 霧島は隊を率いて部屋を後にしようとする。


「あら霧島ちゃん。あなたたちはどこに向かうの?」


「渋谷――エリア二〇二だ」


「なるほど。そこは……スクランブル交差点のあたりかな。私たちとは別の場所だね」


 警報音と共に、各自のプロセッサーに集合場所が記されていた。

 集たちの小隊は渋谷がそこであった。


「そうか。では……」


 霧島たちは今度こそ部屋を後にする。


「来栖さん。俺たちも早く指定のエリアに向かいましょう」


「そうだね兵藤君。私たちも行こうか」


 来栖隊のメンバーたちも走り出す。


「霧島ちゃんの新入隊員たち……これが初陣。どうなるかしら……」


「タイミング悪いな……おい……」


 アトラスビルを後にした霧島たちは指定エリアを目指して走っていた。

 タイミングの悪さに昴は不満を漏らす。


「そうでもないかもしれませんよ。昴さん。皆が既に集まっていたのはタイミングが良いともとれそうです」


 さつきは逆だと言う。


「そ、そうか?」


「ああ。さつきの言うとおりだ。連携が図りやすい」


 さつきを擁護するように霧島は言う。


『皆聞こえてるかなあ?』


 プロセッサーより謎の男の声が聞こえた。明るく聞き取りやすい声である。


「ああ。問題ない。お前たちも聞こえてるな」


 皆が霧島の問いかけに頷いて答える。


『よかったあ。僕は作戦司令部の新木あらきゆうや。今後ともよろしくね』


「よろしくお願いします」


 走りながら集たちは返答する。

 作戦司令部とは、今回のようなスペクターの出現の際、各小隊とプロセッサーにより通話を行い、戦況や作戦などを伝える役職である。現場の様子は各地に飛ばされているドローンやプロセッサー装着者の視点を借りながら把握している。

 入隊前の訓練などで、新入隊員は既に説明を受けている。


「戦況は?」


 霧島は問う。


『まだ住民の避難中ですね。霧島さんたちの指定エリアは警戒レベルが一だからまだ焦らなくても大丈夫だと思いますよ』


「了解した」


 ***


 ――渋谷――エリア二〇二。


「皆さん! 急いで近くのシェルターに避難してください!」


 外出をしていた住民たちは近くのシェルターに避難するよう誘導される。

 それを行っているのはアトラスの人間であるレンジャーと呼ばれる人たちだ。イニシエーターのような身体能力等は持ち合わせていないが、対スペクター用の武器を所持し、イニシエーターたちのサポートを行ったりする。


「前回の出現から結構時間空いたよな」


「ねえ、避難終わったらこのお店行ってみない?」


 避難中の住民たちはあまりスペクターの出現を気にしていないような会話をしている。


 ――数分後。

 住民たちの避難は完了した。

 それとほぼ同時に、空に浮かんでいたゲートからスペクターが降ってくる。

 ヒト型のそれは、体に赤い亀裂がはいっている。

 地に着地すると、スペクターは腕を鳴らすような動作を二回ほど行うと、赤い亀裂がさらに光を増し、レンジャー隊に向かって走り出した。


「現れたか……総員! イニシエーターが到着するまで何とか持ちこたえろ!」


 向かってくるスペクターを迎え撃つように、レンジャーたちは銃を乱射する。


「下級のスペクターとはいえ、なかなかしぶといな」


「う、うわあ!」


 一人のレンジャーが武器を吹き飛ばされ、そのまま殴られそうになる。

 刹那。レンジャーを殴らんとしていたスペクターが弾き飛ばされた。


「!?」


「遅くなってすまない」


「あ、ありがとうございます」


 窮地に駆け付けたのは霧島だった。

 彼女だけでなく、集たちも到着していた。


「ここからは私たちが前線で戦う! レンジャーは後ろから援護を頼む!」


「わかりました!」

 

 そう言うと、レンジャー隊は先ほどより後方へと下がり、怪我人の手当てや引き続き銃を構える者など、様々な行動を始めた。


「お前たち。これが戦場だ。警戒レベルが最低とはいえ、油断だけは決してするなよ」


「はい!」


『僕もできる限りサポートする。皆頑張って!』


 プロセッサーよりゆうやの声も聞こえた。

 霧島の登場に伴って動きを止めていたスペクターたちは、再びこちらへと走り始めた。


「攻撃開始!」


 霧島の合図とともに、一斉に走りだす。


「おらあ!」


 昴は槍でスペクターの体の中心を思い切り刺すと、回転して投げ飛ばした。


「はっ!」


 集や千尋、翔もそれに続いて攻撃を仕掛けていく。

 剣を振りかざすと、スペクターはそれを避けきれず、体を真っ二つにされた。


「やるな集」


「お前もな」


「お二人さん。まだ来ますよ!」


「ああ!」


 翔の言葉と共に、三人は再び走り出す。


「くたばりやがれ!」


 昴は単独でスペクターの討伐に努めていた。

 次々と素早い動きで槍を操り、スペクターを倒していく。

 しかし次の瞬間。背後に一体のスペクターが現れた。


「くそがっ!」


 回避しきれないと思った昴は、槍を両手で構え直し、防御の態勢をとる。

 しかしそのスペクターは銃撃音とともに横へと吹き飛ばされ、動かなくなった。


「油断しないでください。昴さん」


 どうやら間一髪のところを救ってくれたのはさつきだったらしい。


「あ、ありがとうよ」


「まだまだ数は多いです。気を引き締めていきましょう」


「そうだな……お、おいさつき」


「はい?」


「お、俺が突っ込むから援護頼んでもいいか?」


 少し緊張した様子でさつきに協力を頼む。


「もちろんです!」


「よし! じゃあいくぜ!」


 昴は槍を持ち直し、攻撃態勢を整え、再びスペクターの群れへと走り出していく。


 霧島は一人でひたすらスペクターを薙ぎ払い、打ち抜いていた。

 この場に居たスペクターは基本的にE級だったが、まれにD級も混じっていたため、それを倒すのを中心に霧島は動いていた。


「あいつらも思っていたより初陣にしては動けている。それに個々でまとまって連携もとれているな」


 戦闘中も霧島は隊員の動きを見ていた。


「しかしイレーナだけは一人……か」


 イレーナは戦闘開始時点から、一人で動いていた。これだけを見ると霧島に引けを取らない動きだ。次々とスペクターを屠っている。


「おいおい。イレーナのやつ強いに越したことはないが……もう少し俺たちと連携を図っても……」


 霧島だけでなく、他のメンバーも時折イレーナの戦闘を見ていた。


「そうですね。今回は任務のレベルも低いですからいいですけど……これがもっと上だとしたら、いざという時に危機的状況に陥るかもしれませんね」


 昴とさつきはそんな会話をしていた。


「今は人の心配している場合じゃないか……来るぞさつき!」


「はい!」


 一方集たち三人は序盤から安定した動きを続けていた。


「けっこう減ってきたんじゃないか」


「そうですね。もう少しのようです」


 集と翔が話している。

 そんな集の背後から、三体のスペクターが攻撃を仕掛けようと走ってきた。


「集! 後ろ!」


「!?」


 しかし次の瞬間。三体のスペクターは一斉に体を打ち抜かれた。


「何事だ!?」


 千尋たちは動揺を隠しきれない。


『大丈夫か?』


 プロセッサーより女性の声が聞こえた。


「露木さんですか!?」


『ああ。私は後方遠方から狙撃している』


「助かりました! ありがとうございます!」


 露木は霧島たちとこの場へ向かう際、少し手前でメンバーと別れていた。


『例なんて必要ない。もう少しだぞ。踏ん張れ』


「はい!」


 気合を入れ直し、集たちは再び戦闘を開始する。


 ――数十分後。


『皆お疲れ様!』


 ゆうやがプロセッサーの向こうで喋っている。


「何とか殲滅できたな」


「ああ。個々の強さはそれほどでもなかったけど……数が多かった」


 戦闘を終えた集と千尋は疲弊していた。

 空にあったゲートも消えている。


「初の戦闘、ご苦労だったな。なかなかの動きだったと思う」


 二人のもとに霧島が近づいて来た。


「ありがとうございます」


「天羽、木竜、そしてイレーナ。お前たちもご苦労だった」


「何てことないっすよ」


「はい。ありがとうございます」


「……」


 昴とさつきは返答するがイレーナは黙ったままだ。


「今回はこれにて我々の任務は終了になる」


 霧島の言葉に皆が安堵したような表情をみせる。

 昴も隠そうとはしている様だが、けっこうな疲労が溜まっているようだった。


「この後は各自解散して構わない。お疲れ様」


 全員がその場を後にしようと歩き出そうとする。

 その時だった。

 

 空から一体のスペクターが集たちの目の前に落ちてきた。






  

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