Episode1-5

 二人がさつきの居た場所へたどり着くと、さつきは座り込んでいた。

 数秒前、ここへ向かっている道中にプロセッサーよりさつきが脱落と表示されていた。


「こんにちはお二人さん。さつきさんは先に負かしましたよ……とはいっても昴くんもでしょうけど」


 二人に最初に言葉をかけてきたのは翔だった。

 すぐ横にはイレーナが居た。


「集さん、千尋さんごめんなさい。 私……何の役にも……」


 さつきは座り込んだまま二人に謝ろうとする。


「そんなことないよ。さつきちゃんのあの作戦がなかったら今頃俺も集も負けてたかもしれない」


「ありがとうございます……」


 泣き出しそうなさつきに、千尋はそう言葉をかけた。


「それよりも翔たちはどうやって、俺たちの背後に到達することができたんだ? こんな状況だし、戦う前に教えてもらえると嬉しいな」


 状況が一気に変わった要因を知りたいと思う集は、翔とイレーナに問う。


「大したことじゃないですよ。この廃工場には正反対の位置にそれぞれ出入口が一つずつある。ただそれを利用しただけです」


(外に出てた!?)


 確かに最初の地点で出入口があるのは視認していた。しかし外の景色が続いている点とこれはそもそも作られた空間であるという二点から、外に出るという考えは集たちからは無意識に除外されていた。


「な、なるほどな……でも今はこの状況だ。どちらが有利ということもないだろう。決着をつけようじゃないか……なあ千尋。俺はイレーナの相手をする。千尋は翔を頼む」


 単純に剣を交えてみたかった。どれほどの力を有しているのか見てみたかった。それだけの理由で集は自らがイレーナと戦うことを望んだ。


「わかった」


「いくぞ!」


 同時に二人は走り出す。


「やる気全開ですね。僕たちもいきますよ……イレーナさん!」


「了解」


 翔とイレーナも反対側から同時に走り出す。

 

 両チームの武器が激しくぶつかり合う。

 

「へえ。やりますね。千尋さん」


「翔くんこそ」


 翔は双剣を扱っていた。普通の剣は両手を一つの剣に集中させることができる。しかし双剣はそれよりも小さいため両手に一つずつ持ち、よりはやいスピードで攻撃を繰り出すことができる。

 一つの剣を扱う千尋はそのスピードについていくので精一杯という状況だった。一瞬でも気を抜けば、脱落になってしまうような戦況だった。

 ここで勝つには何かしらの策を練るしかない。力任せだけではおそらく千尋が負けることは明白だった。

 千尋は一度剣を大きく振りかざし、翔との距離をとろうと少し後方へと引く。


「このままだと僕が勝つのが妥当そうですが……」


「そうだね。でも俺も負けるつもりはさらさらない」


 千尋は思いついた一つの可能性にかけようとしていた。


 一方集とイレーナは互いに一歩も譲らずという攻防を繰り返していた。

 同種の武器を扱う二人の間に、優劣はほとんど無かった。


「や、やるな。イレーナ!」


 集の言葉が聞こえていても、イレーナは表情一つ変えず剣を振り続ける。


(このままだったら単に持久力戦になりかねない……一度引いて策を……)


 しかしイレーナはその隙を与えてはくれない。一つ思考を挟めば大きな剣が集を切ろうと振られてくる。


(くそ! はやい!)


 このまま戦い続けるしかないということを集は悟った。


 千尋は一度翔と距離をとった後、ある場所へと走っていた。後方からは翔がついて来ていた。


「どこへ行くんです。千尋さん」


「さあな!」


 向かっていたのはさつきが座り込んでいた場所だった。

 先ほどさつきが座り込んでいた時、その近くに彼女が使っていた双銃が落ちていたからだ。おそらく翔とイレーナと対峙した際、負けたときに落としたのだろう。

 それを使えば勝てるかもしれないと千尋は考えていた。だがそれを使おうとしていることを相手に悟られてはいけない。何とか知られずに接近して、一気に攻めるしかなかった。

 千尋はさつきのいる場所に到着した後、双銃の落ちている場所を確認すると、翔の居る方向へと振り返る。


「ここなら広くて戦いやすいと思ってな」


「なるほど。何か作戦を練っていそうですが、まあいいでしょう。勝敗を決めましょか」


 再び二人は戦闘態勢に入る。

 千尋は思い切り攻撃を繰り出すために、剣を激しく右から左へと振った。

 構えていたいた翔はその攻撃を避けようとはしない。

 翔はそれを双剣で受け止めた後、思い切り地面を踏み込み、大きな力で千尋を跳ね返した。

 後方へと飛ばされた千尋はその一瞬の間に双銃を拾うことに成功した。そしてそれを隊服の中に隠す。


「やるな。俺の渾身の一撃を跳ね返すなんて」


「千尋さんこそ。いきなりあんな大きな攻撃を仕掛けてくるなんて思っていませんでしたよ」


 互いに笑いながらそう言うと、千尋は再び勢いよく翔に近づく。

 しかし先ほどとは違う。

 翔にたどり着く寸前、集は左手で双銃の片方を取り出す。


「なるほど。そういうことでしたか」


 翔は納得いったような表情をした。そしてそのまま先ほどとは違った姿勢になる。

 弾を全て切り裂こうとしているのだ。そしてそのまま千尋の剣による攻撃を受け止め、あわよくば勝利へと繋がる一手を仕掛けようとしていた。

 しかし発砲音は鳴らない。

 千尋は銃を構えてはいるものの、それを撃つつもりはなかった。


「さっき俺が大きな一撃を仕掛けた時、翔くんはそれを避けず受け止めた。だったらどんな攻撃も君なら受け止めてくれると踏んだ。でも予想した攻撃がこなかったら一瞬動きにぶれがでてしまう。それを利用させてもらった!」


 そのまま銃を投げ捨て、両手で剣を構えた後、千尋はそれを翔に思い切り振りかざす。

 その動きについていけず、翔は切られ敗北した。


「もう一手先を考えるべきでした」


 座り込んだまま翔は悔しそうな表情で言った。


「俺も危なかったよ。これが無かったら多分今頃……」


「早く行ってください。あとはイレーナさんだけでしょ」


「うん。じゃあまた後で」


 そう言うと千尋は集たちの居る場所へと駆け出して行った。


「まずい。もうそろそろ集中が切れそうだ」


 未だにイレーナとの一騎打ちに勝負はつきそうになかった。

 このままだとまずいと思い始めた時だった。


「集! 俺も来たぞ!」


 千尋がこちらに走ってきていた。

 ちょうど集と千尋でイレーナを挟みこめる形になっている。


「千尋! そのまま後方から攻撃を仕掛けろ!」


 勝てると思った集は千尋にそう言った。

 イレーナの攻撃を受け流しつつ、千尋がその後ろへとたどり着くまで耐え抜く。

 そしてその瞬間はやってきた。

 千尋は集に攻撃途中のイレーナの後方から、思い切り剣を振る。


(勝てる!)


 二人ともそう思った。

 しかし次の瞬間、集は思い切り遠方へと吹き飛ばされ、千尋は脱落になっていた。


(え、何が起きたんだ!?)


 状況を理解できない千尋はあっけらかんとしていた。


「くそ。何が起きたんだ」


 吹き飛ばされていた集は起き上がりながらそう呟いた。

 するとプロセッサーより千尋の脱落が表示された。


「まじかよ」


 すると、前方からイレーナが近づいてくる。


「どうやってあの瞬間を切り抜けた?」


 集はイレーナに問う。


「別に、ただ後ろから切られそうになったから……先にその可能性を潰しただけ」


「いや……そんな容易くできることじゃないぞ。あれは……」


 少し呆れたような、諦めかけたような表情をしたものの、集はもう一度気合を入れ直し、攻撃態勢へと移る。


「いくぞ。イレーナ!」


 その言葉と共に集は一気に攻め入る。

 しかし、先ほどよりスピード、パワーを上げたとしてもその攻撃がなかなかイレーナには届かない。寸前で受け流されてしまう。


(やっぱりこのままじゃ無理か……)


 単純な力の差では勝てない。かと言って何か策を練る隙もない。

 このままだとやはり集の負けは時間の問題だった。


「あなたは私には勝てない。わかっているはずだけど……」


 イレーナは集にこれ以上はといった様子で語りかける。


「そうかもな。でも諦めてたまるか! 俺は六年前、お前の姉さんに救ってもらったんだ!」

 

 その言葉と同時に集のスピードがこれまでとは段違いに上がり始める。

 そのスピードにイレーナは驚く。いやスピードだけではない。集の言葉にも、イレーナは動揺を隠しきれていなかった。

 フィールド外から様子をみる、清水も驚いていた。一方霧島は少し微笑みをみせている。

 先ほどまでとは戦況が変わり、イレーナ一方的に防御を強いられる状態が続いていた。


(勝てる!)

 

 そう思った集は最後にもうひと踏ん張り入れ、最後の攻撃を仕掛けようとした。

 しかしその刹那。

 イレーナは集をはるかに上回るスピードで集の剣を弾き飛ばした。


(え……?)


 気づくと集はしりもちをついていた。

 目の前には剣先がある。

 どうやら負けるらしい。

 集が悟ると、イレーナはその剣で集を刺した。





 

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