Episode1-3

 数日後、プロセッサーより訓練のための招集がかかった。

 幸いこの間、スペクターが現れることはなかった。

 

「よお集、お前もここかぁ」


 集が招集場所であるアトラス本社ビルのとある訓練施設のある部屋に着くと、そこには既に数人のイニシエーターと思われる人たちが集まっていたが、その中には千尋もいた。どうやら同じ訓練を受けるらしい。


「俺が最後……っぽいな……って彼女は……」


「ああ。どうやら一緒に訓練するらしいな」


 集は最後の一人が自分だと悟ると同時に一人の少女の姿が目に留まった。

 それは先日の入隊式で見かけた、銀色の髪の少女だった。

 集と千尋を含め、この場には男女合わせて八人居た。そのうち五人は男である。しかしその少女だけは周囲とは異なる存在感を放っていた。

 少女のことが気になりつつも、他の人に合わせて集は列に並ぶ。

 新入隊員と思われる六人で二人を囲むような形になった。

 

「よし。全員揃ったな。では早速訓練を始めたいところだが……互いの自己紹介と武器の配給がまだだったな」


 聞き覚えのある声がした方へ視線を移すと、そこにいたのは霧島火織だった。

 この場でのリーダー的立ち位置といったところだろうか。


「おい清水。彼らに武器の配給を」


 清水と呼ばれた男は、横に置いてある箱から武器を取り出すと、それを集たちに配り始めた。

 集は黒色がメインで線上に赤色が入った剣を手にする。


(こいつで……やっと奴らと戦える!)


 他の新入隊員も自分の武器を手にし、興奮していた。

 千尋も集と同じように剣を選んだらしい。


「今後はそれを肌身離さず持っておけ。いつ奴らが現れるかは分からないからな」


「はい!」


 霧島の指示に全員が大声で返事をする。


「では最後に一人ずつ簡単に自己紹介をしていってもらう。まずは私からだな」


 そう言うと、霧島は自己紹介を始めた。


「霧島火織だ。入隊式などで知っている人もいるかもな。階級はB。今後はお前たちの小隊リーダーを務める。よろしく」


 他の人が拍手する。


「次は自分ですね」


 先ほど武器を配っていた男が次に喋りだした。


「名前は清水海斗しみずかいと。階級はC。今後ともよろしく頼む」


 一礼をして自己紹介を終えた。同時に拍手が行われる。

 数秒の沈黙。次は誰がするのかという空気が流れ始めたので、新入隊員側からみて一番右に居た集が自己紹介を始める。


「天谷集です。六年前、イニシエーターに命を救われてから自分も同じようになりたいと思いました。よろしくお願いします!」


 集が喋り終えると、隣に立っている千尋が次は自己紹介を始める。


「白波千尋です。目標はスペクターの殲滅です。よろしくお願いします!」


 続いて千尋の隣の少女が喋りだす。この場にいる三人の女性のなかで、唯一気が弱そうな雰囲気を醸し出している。

 どうやら双銃デュアル・ハンドガンを扱うようだ。


「あ、天羽あもうさつきです。皆さんの役に立てるようにが、頑張ります。よろしくお願いします」


「よろしくな天羽さん。そんなに緊張しなくても大丈夫だと思うぜ」


 さつきの雰囲気を見て取ったのか。千尋は彼女に言葉をかけた。


「はい!よろしくお願いします」


 千尋の言葉にさつきは笑顔でそう言った。


「じゃあ、次は俺かな」


 さつきの横に立っていた男が喋りだす。


「俺は木竜昴きりゅうすばる。夢はイニシエーターとして万々活躍して有名になることっすかね。よろしくっす」


 昴はこれまでとは違った雰囲気を醸し出していた。右手には自らの身長を超える槍を携えていた。


「僕の番ですね」


 続いて昴の横に立っていた少年が自己紹介を始める。眼鏡をかけていて知的に見える。双剣を手にしていた。


「僕は水無瀬翔みなせかける。これといて目標みたいなものはありませんが、皆さんと共に頑張っていけたらなと思っています。よろしくお願いします」


 最後に先ほどから集が気になっていた銀色の髪の少女が喋りだした。

 扱うのは集たちと同じ剣らしい。


「イレーナ・フローレスです。姉の仇を討つためにイニシエーターになりました。よろしくお願いします」


「え! あのエレーナの妹さん!? すげえ!」


 昴が驚きながらそう言った。

 いや、昴だけではなく、新入隊員の全員がイレーナの自己紹介に驚いていた。


「おい集。エレーナの妹ってことは……」


「そうだ。俺の命を救ってくれたのは……彼女の姉だ」


 これまでの既視感などが結び合わさって一つの答えにたどり着いたような感覚に集は襲われた。


「静かに!」


 盛り上がる現場を霧島が静める。


「一応これで互いの名前と顔を知ることができたな。ではこれから対人戦闘訓練に入ってもらう」


「対人!?」


 昴と翔が口を揃えて驚いたように言った。


「ああ。お前たち六人を三人ずつに分けて行ってもらう訓練だ。チームはプロセッサーで確認しろ」


 皆がプロセッサーを起動する。

 集の画面には、集を含め集と千尋、そしてさつきがチームであることが表示されていた。

 相手側はイレーナと昴、翔ということだ。


「肝心なルールについてだが……少し待っていろ」


 霧島はそう言うと、自らのプロセッサーを起動し、何かを操作し始めた。

 すると、集たちの居た部屋が荒廃した工場のような場所に切り替わった。


「おお! なんだこれ!?」


 昴は驚きのあまりに口にする。

 昴だけではない。集や千尋も内心では目の前の現象に驚いていた。


「これはお前たちの装着しているプロセッサーが、あたかもそこには無いものがあるかのように思わせることによって成り立っている」


 霧島の説明に皆が納得したような表情を見せる。

 以前にプロセッサーが装着主の神経にリンクするという説明を聞いたことを想起したからだろう。


「今からお前たちにはここで訓練を行ってもらう。ルールは誰かの攻撃を一度でもくらったら脱落というルールだ。先に三人が脱落した方が負けとなる」


「一度って……きつすぎないっすか!?」


 先ほどから昴は何かしらの反応を言葉とともにしている。


「それくらいの緊張感を持てということだ。ちなみに武器同士の衝突などは脱落にならない。あくまで自身の身体のどこかにあたったときのみ脱落となる。説明は以上だ。何か質問は」


「すいません。一つよろしいでしょうか」


 手を挙げて聞いたのは千尋だ。


「武器は先ほど頂いた各自の物を扱うんですよね。思いきりやると怪我人、最悪の場合は死人が出ると思うのですが……」


 おそらく新入隊員全員が疑問に思ったことだろう。

 皆が霧島に答えを求めるかのような表情をする。


「それについては心配には及ばん。訓練の際は本物の武器を扱うわけではない。プロセッサーがその役割を担ってくれる」


「どういうことでしょうか?」


「プロセッサーはお前たちの神経にリンクしていると前に言ったな。それを用いて、あたかも自分が武器を所有しているかのように思わせることができる」


 全員が納得したような表情をみせる。


「どうやらこれで理解できたようだな。それでは訓練を開始する。全員所定の位置に着け」


 霧島の言葉と共に全員が足を動かし始める。

 先ほど示されたメンバーで集まり、双方が反対方向へと走り始めた。


「頑張ろうな! 集、さつきさん!」


「おう!」


「はい! よろしくお願いします!」

 

 千尋の言葉に二人は大きな声で答える。


「あ、名前で呼んじゃったけど……よかったかな?」


「全然かまいません! 私もお二人のこと名前で呼んでいいでしょうか」


 少し迷ったような表情をする千尋にさつきは笑顔で返した。


「ああ構わないぜ! よろしくなさつきちゃん!」


 三人は互いに名前で呼び合うことを許して、所定の位置にたどり着いた。


「なあ。作戦はどうする?」


 集が二人に問う。


「そこだよな。一応俺と集は近距離型。さつきちゃんは遠距離でいいのかな?」


 双銃を持つさつきの戦闘スタイルが上手く想像できなかった千尋は疑問形をとる。


「一応中距離、時には近距離で戦うつもりでした」


「そうだったんだ。じゃあ俺たちは全員近距離戦が可能ということか。なら俺と集で前線に切り込んで、ちひろちゃんにはその少し後方から援護というかたちがベストといったところかな」


「だな」


「そうですね」


 千尋の練り上げた戦略に、二人とも同意する。


「よし。勝とう!」


 三人は訓練を開始する準備が整った。


 



 


 

 


 


 

 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る