第34話 部活動


 放課後。

 山下から部活登録の用紙を受け取り、俺は生徒会室へ向かった。


 部屋に到着すると、早速俺は生徒会長の席へ行き、部活新設の用紙を彼女に提出した。


 生徒会長は用紙を見てうなずきながら、机の引き出しからハンコを取り出しす。


「みんなー! 音々ちゃんの部活新設の件だけど、賛成の人」


 彼女は全員に聞こえるような大きな声で、メンバーに声を掛ける。

 俺もそのタイミングに合わせて振り返った。


 隣同士で座り、ノートパソコンの画面を見つめていた阿久津と牧田は力強く手を上げる。

 俺も手を挙手したことで三票になり、過半数の賛成票を得た。


「はい可決ね。まぁ既に三名が生徒会メンバーだから出来レースだし、そもそも断る理由はないんだけど……」


 本来はきちんとした会議に通すべきなのだが、彼女はそれを省略して無事承認。


 そう思っていたのだが……


「でも、残念ながら認められないわ。田中くん、なぜか分かるかしら?」


 視線を正面に戻すと、生徒会長は苦い顔を見せた。


「やはり知っていましたか」

 俺は下唇を噛み締める。


 当然俺は部活新設について調べていた。

 顧問と部員確保に目が行きがちだが、むやみやたらに部活を乱立させないための厳しい条件が他にもある。


「どういうことっスか会長! 音々を裏切るんスか?」「落ち着け阿久津」


 生徒会長に襲い掛からんとする阿久津の体を俺は押さえ付けた。

 暴れ回る阿久津を止めるのは難しく、こちらに近寄る牧田に目で合図を送った。


 牧田は阿久津の体をひょいと持ち上げて、暴れる先輩を拘束する。


「マキちゃん、音々を離すっス! あのふざけた爆乳を揉みしだいてやるんスよ」

「音々先輩、いくらなんでもそんなことしちゃダメですよ」


 やはり牧田は頼りになる。


 俺は阿久津を彼女に任せると、改めて生徒会長に向き合った。


「さて田中くん。この一年間、あなたたちは何か活動をしていたのかしら?」


 やぶから棒に、彼女は脈絡みゃくらくのない質問を投げる。


 なるほど、そう言うことか――彼女の意図を理解した俺は、口元を緩ませた。


「去年の四月、俺と阿久津は密かに『映像研究会』を立ち上げました。いつかMytubeに動画を投稿すると夢見て、放課後色々な動画を見て研究していました。実際に動画を投稿することができたのは最近のことですが」


「なんで嘘吐くんスか実くん! 音々と会ったのは今年っスよ!」

 後ろから阿久津の荒げた声が聞こえる。


「……そうだったのね」


 生徒会長は外野の声が聞こえていないフリをして答える。


「会長、騙されちゃ駄目っスよ! 実くんは嘘を」「音々先輩、多分なんですけど……」


 察しがついた牧田が阿久津に耳打ちをした。

 恐らく俺と同時期に部活新設に向けて動いた彼女であれば、そのことに気付いても不思議ではない。


 ――部活動の発足について

 部活動を新設する際は、最低1年間の同好会等の活動の後、報告書を生徒会に提出し、生徒総会の承認を得なければいけない。


 だから俺は嘘の活動報告をでっち上げた。

 生徒会長が欲していたのは、活動報告のアリバイである。


「活動報告書も必要ですか?」

「それはもう受け取ったわ。どこかにしまったはずなんだけど……どこに行ったのかしら? 無くしちゃったかも。ごめんね」


 生徒会長はワザとらしくそう答えると、部活新設願いに何かを書き込んだあと、用紙の右下にハンコを押した。


「おめでとう、これで新設よ。あとでコピー取って山下先生にも渡しといてね」


 結局仮名のまま、そのままだが『映像研究部』が本日より発足した。ちなみに部長はこの俺『田中実』である。


「かいちょおおおおお!」


 感慨にふける暇もなく、阿久津は俺の前を横切りながら生徒会長に飛びつく。


「信じてたっスよ会長。音々、会長大好きっス」

「こら、やめなさい。恥ずかしいからひっつかないで」


 彼女は手の平を九0度ひっくり返しながら、生徒会長に抱き着いて彼女の頬に唇を近付ける。


「あれ、これって……?」


 俺はその様子に目を背けながら、用紙の方に目をやる。


 生徒会長が追記した文字に気付き、慌てて彼女の方に目を向けた。


「私とカルロスくんよ。部活は五人いないとダメでしょ?」

「……あなたは本当にいい人だ」


 間違っていることはきちんと正して、困っている人には手を差し伸べる。

 あの問題児阿久津を生徒会に受け入れる聖人っぷりだ。


「ふふ、皮肉かしら? 私はただ、面白そうだと思って職権乱用しただけよ」


 それに頭が固いわけではない。今回のように融通を利かして部活新設にも一役を買ってくれた。


 俺なんかよりよっぽど大人で、尊敬に値する。

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