第20話 動画編集①

 牧田と生徒会長が隣同士で椅子に座り、男性陣は背後からノートパソコンの画面をのぞく。


「じゃあ、再生しますよ」


 牧田は動画ファイルをクリックした――





「……どう、でしたか?」


 動画が終了し、牧田が三人に感想を尋ねた。


「「「………………」」」


 俺たちはお互いに顔を見合い、誰が初めに口を開くかせめぎ合う。


 動画自体は、BGMであったり、効果音、字幕や集中線などの効果も加えられ、編集した動画の形になっていた。


「……うん、いいんじゃ無いかな」


 生徒会長が開口かいこう一番に、当たり障りのない感想を述べた。

 彼女の優しい性格だから否定からは入れないのだろう。


 生徒会長は言及しなかったが、全員の共通認識として、根本的にダメな点が一つあった。


 誰もそれを指摘しようとしないので、俺が代表して答えることにした。


「とりあえず動画が長すぎないか? 体感的に三〇分ほどあったぞ」


「えっ、長かったですか? これでも、音々ちゃんが田中先輩と絡むところはカットしたんですけど」

「阿久津が言葉に詰まったり、無言になっているところはカットしていいだろ。阿久津本人も言ってたぞ『誰も見ない無駄なシーンはどんどんカットしろ』って」

「えー、でも可愛いじゃないですか。カットしたら勿体無いですよ」

「そんなニッチな嗜好を持っているのは、残念ながらお前だけだ。マス層を意識するなら、余計な部分はカットした方がいいと思うぞ」

「えー、でもなぁ……私が音々ちゃんの可愛さを、全世界に広めないといけないし」


 自分が作りたい動画を作ったがために、牧田は中々に頑固がんこである。


 こんな時、阿久津本人がいればうまくかじ取りしてくれたかもしれないのだが……


「マキちゃんが言いたいことは分かるんだけど、音々ちゃんは、視聴者数が増える方が嬉しいんじゃないかな」


 生徒会長が素晴らしい助け舟を出してくれた。


 牧田は背筋を伸ばしてハッとなる。


「そうですね、私間違ってました。これは自分用にします。音々ちゃんのために、世間にウケる動画を作らないと」


 スイッチが入ったのか、牧田はカバンを漁って、ノートと筆記用具を取り出す。


忌憚きたんのない意見をお願いします。改善点をジャンジャン言って下さい」


 彼女がそう切り出してくれたことにより、ようやく発言しやすい空気になった。


「……なら俺からもう少し。もう一度初めから再生してくれないか?」


 牧田が停止していた動画の再生ボタンを押す。


「とりあえずそこでストップ」「はい」


 そして冒頭の気になる場面で、停止ボタンを押してもらった。


「字が小さくないか? あと色だ。黄色は見にくい。ノートパソコンだといいが、スマホの小さい画面だともっと見辛いと思うぞ」

「なるほど、確かにそうですね」


 阿久津のセリフを簡略化した字幕が、画面の下部に表示されている。


 画面下部は白いテーブルで埋まっているので、その上に被さる字幕は明るい黄色で、同じく明るい白の背景に溶け込んでしまっている。


「あ、そういえば私思ったんだけど」


 俺の発言を気に、今度は生徒会長が声を上げた。


「『サクラクロスワード』の原曲をBGMに使ってたよね? Mytubeって著作権厳しいんじゃなかったっけ」

「あー、確かに。音々ちゃんにぴったりだと思ったけど、ちょっとBGMは考えますね」


 牧田は相槌あいづちを打ちながら、メモを取る。


「そういえば著作権といえば、『ラッキー』の画像使ってたよね。あれもやめた方がいいんじゃないかな」


 カルロスが生徒会長の話に被せて指摘した。


 阿久津が悲鳴を上げるシーンの右下に、突然出現する画像。

 無頓着な俺でも知ってるレベルの国民的キャラクターだ。その画像をモロに使ってしまっている。


「悲鳴と声が似てたから面白いと思ったんですけど……我慢ですね」


 こうなってくると細かい点まで気になってくる。


 俺たちは修正点を見つけるべく、動画をもう一度一から見直した。

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