第18話 動画視聴

 動画は4つのファイルに分けられている。

 まずは冒頭の挨拶パートだ。


『えーっと、今日はこの辛辛麺しんしんめんにタバスコをかけて食べるっスよ』


 カラオケボックスのテーブルに座る阿久津の姿が映し出されている。


『いつまで動画回してるんスか? 一旦終わりっスよ』

『え、もう終わりなのか?』


 最後に俺と阿久津が会話をして、この動画は終了。


 最初の動画の視聴が終わり、牧田は感想をこぼす。


「やっぱり可愛いですね。声も可愛いし、馬鹿っぽいところも可愛い。はぁー、早く会いたいなぁ」


 理解できない感情だが、彼女が喜んでくれているならそれで構わない。


 牧田は鼻息を荒げながら、次の動画を再生した。


『はい。ってことでお湯入れてきたから、今からタバスコを入れていくっス。まずその前に』


 今度はカップ麺の試食パートである。

 タバスコを追加する前に、阿久津がオリジナルの辛いラーメンを試食する。


 画面の中の阿久津は、麺を口に運んだ。


『うん、うん。余裕っスね。いけるいける』


 口に入れた段階では、余裕の表情を見せる。


『……ブッ! ゴホッゴホッ!』


 辛さは遅れてやってくる。阿久津はむせ返ってしまった。


『ふふ、はははははは』


 もう一度見ても面白い。

 動画の中の自分の笑い声も相まって、吹き出しそうだ。俺は笑いを堪えるため、肩を震わせる。


『あーもう、カメラストップ! 実くん、笑い過ぎっスよ』


 阿久津が照れながら、カメラマンに指を刺して近づいた瞬間――


 ――ドンッ!

「可愛すぎるッ!」


 牧田が拳で机を叩いて、叫んでしまった。


 それと同時に、俺も声を漏らして笑ってしまった。


「はははははは、ふふ、はははははははは」


 声を出してはいけない状況が、かえってかせになってしまったのだ。

 こうなってしまってはもうお終いだ。


「あれ? 田中が笑ってる。なんだろ、やっぱり気になるなぁ」

「やっぱり二人で何か隠してるでしょ! 私にも見せなさいよ」


 カルロスと生徒会長がスッと立ち上がって、こちらに向かってくる。


 牧田は赤面しながら、ノートパソコンの画面を隠した。


「なんでも無いです!」

「マキちゃん『可愛いって』言ってたよね? 動物の動画でも見てたの? 私も見たいな」

「会長は顔面がお可愛いので、鏡でも見ててください! 私は用事があるので、それじゃあ!」


 牧田は驚くほどスムーズに片付けを済ませて、さっと立ち上がり、逃げるように部屋を出てしまった。


「おい、牧田! ……あっ」


 残された俺は、興味津々な二人に挟まれてしまった。


 生徒会長は牧田が座っていた席に腰を下ろし、カルロスが俺の席の通路側を、腕を組みながら立って塞いでいる。


「牧田さんのノートパソコンで何か見てたよね? 何見てたのか教えてよ」

「私も気になって勉強に集中出来ないなぁ……可愛い動物がドジしちゃう動画なんでしょ? きっとそうよね」


 俺と牧田の反応を見れば、そう想像するのが自然だろう。


 アイツは野獣みたいなものだから、正解は正解だが、生徒会長が期待する可愛さとやらは持ち合わせていない。


「違うとだけ言っておきましょう。もうこの話は終わりです。本を読ませて下さい」

「ダメよ。教えるまで返さない」

「あっ」生徒会長に、俺のタブレットを取られてしまった。


「返して下さい」「だーめ。はい、パス」


 少し力付くで奪い取ろうとした瞬間、彼女は俺の端末をカルロスに手渡した。


「いいから吐くんだ田中。じゃないと、これは返さないぞ」


 軽いいじめのようなものを受けて、俺はすぐに観念した。

 これはさっさと吐いてしまった方が楽だろう。


「……はぁ、分かりました。少し驚くかもしれませんが本当のことを言います」


 もうこの際だ。生徒会を巻き込んでしまった方が、今後のことを考えると楽かもしれない。


「……実は阿久津音々が、Mytubeに動画を投稿しようとしてまして」


 俺は彼らに阿久津のことを打ち明けた。

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